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7.王家に連なる(予定の)女なれば

本日更新3話目。


 カナリー王国。ベル辺境伯領。領主の館。


「だ、旦那様ッ! 大変でございますッ!!」


 ベル家に長年使える老執事ハインゼルが、領主の執務室へと物凄い勢いで突撃してくる。


「うるさいぞハインゼル。

 オレはシャーリィちゃんが家出してしまったショックで仕事も手に着かないほど傷心してるんだ」

「ある意味自業自得かと思いますが……ともあれ、そのシャーリィお嬢様に関してですッ!」

「なにがあった?」


 ハインゼルの言葉で、死んだ魚のような目をしていた領主ダッキィ・メイブ・ベルの目に生気が戻った。


「こちらを」

「手配書? これがどうし……なんだってーッ!?」


 ◆列車強盗マッカーティ一味

  正確無比の瞬速精密射撃手(ラピッド・シューター)

 【淑女銃士(レディ・ガンナー) シャーリィ・アスト・ベル】

 ・金 300万ガバロ

 ・生死問わず(デッドオアアライブ)


「…………ッ!?」

「だ、旦那様……ッ!?」


 目を見開き絶句したまま固まるダッキィ。

 ハインゼルは彼の前で手を上下に動かすも反応がない。

 それを見、小さく息を吐いてから、ハインゼルはわざとらしく目を見開き口元に手を当てて叫ぶ。


「し、死んでる……ッ!?」

「死んどらんわッ!!」

「それは何よりでございます」

「昇天しそうなほどショックなのは間違いないがなッ!」


 はぁ――と大きく嘆息し、手配書をヒラヒラと弄びながら、うめく。


「こんなものレイカーに知られたら、どうなるコトやら……」

「あら? 私がどうかしたのかしら?」


 噂をすれば影というべきか。

 ダッキィが妻の名前を口にするなり、彼女が部屋へと入ってきた。


「いや、あー……」


 何やら言いづらそうにしているダッキィに対し、レイカー・セッツ・ベルは目を眇める。

 そして、即座に手にしている紙が怪しいと判断すると、さっと奪い取った。


「あ!」

「まぁ……ッ!?」


 そして、それを見るなりレイカーは目を見開いて固まった。


 ダッキィとハインゼルは顔を見合わせると、二人してレイカーの前で手を振って見せる。

 それにまったく反応をしないレイカーを見て二人は叫ぶ。


「「し、死んでる……ッ!」」

「そんなワケないでしょう……ッ!」


 レイカーは、はぁ――……と盛大に嘆息を漏らし、手配書をダッキィに返した。


「ショックはショックですけれど……。

 こう言っては何ですが、政敵の関係者に対して気軽に手配を掛ける方々はいますしね。嫌がらせとして。そういう意味ではあまり珍しいコトではないのですよね」

「まぁそうだな。嫌な話だが、実際あるからなぁ……。

 ならこれは事実はどうあれ嫌がらせってコトで対処するか。

 ハインゼル。そういうワケで一つ頼む」

「かしこまりました。では失礼します」


 老執事は恭しく一礼すると、丁寧な仕草で部屋から出て行く。


「王子との婚約、どうなるのかなぁ……」

「その懸念は大丈夫だと思いますよ」


 ダッキィが天井を仰ぐと、どこか諦めた調子のレイカーがうめく。


「なんで?」


 意味が分からずダッキィが聞き返すと、レイカーは再び大きな嘆息を漏らしてから、答えを告げる。


「王子の婚約者が指名手配だなんて……どう考えても女王陛下好みの展開ですもの」

「あー……」


 それに対して、ダッキィは意味のない声を漏らすしか、返答ができないのだった。



     ☆



 カナリー王国。王都。王城。


「女王陛下ッ! 王子とベル伯の娘との婚約は継続するおつもりですかッ!?」

「むしろ、破棄する理由はないではありませんか」


 キンキンと響く声で叫ぶ老年の宰相に、女王ジェニス・マーシー・カナリーはあっけらかんとした調子で返した。


「一度や二度の手配がなんですか。

 我が国の歴史を紐解けば、王族の一員となった嫁や婿の中に、手配経験者は少なからずいるのですから。

 そもそも建国の始祖姫ジェーンも、建国前は賞金首のならず者だったのですよ?」


 もっと言えば、元を辿れば犯罪者(ギャング)な上に、現在も貴族とギャングを兼ねたような家もあるくらいだ。まぁその家はギャングのように振る舞っているが、実際は国内の犯罪者一味の調査を目的としているわけだが。


 それはさておき。


「文句を言うのであれば、そもそも政敵を賞金首にするという嫌がらせはやめなさないな。

 でもやめれませんよね? 少なくとも宰相――あなただってそれを利用しているワケですから」


 そう言われてしまうと、宰相としては返す言葉がない。


「それに――シャーリィはカナリー王家に連なるコトになるだろう女です。

 我が王家に入る以上、この手の逆境、乗り越えてくれねば面白くありません」

「いや面白いかどうかの問題ですか?」


 至極真っ当に聞こえる宰相のツッコミに、女王は薄い笑みを浮かべて返す。


「強く、気高く、しなやかに。

 未知なる道に迷い込もうと、己を見失うコトなく、己が双眸を見開きて、正しき道を見定めたのち、勇気の一歩を踏み出せば、やがて未知は己の味方となるだろう」

「女王、それは一体……?」

「おや? 宰相はご存じない?

 この国で女王たる器の最低条件の話でしてよ? 未知を味方につけろ、話はそれからだ――という」

「それは、なんといいますか……」

「シャーリィはいずれ女王になりうる器であると、私は判断したのです」


 この国は――王家は、女系だ。

 これは建国者である初代国王ジェーンが女性であることに起因する。


 男性がトップになるのは、中継ぎの場合のみ。

 世継ぎが男児しかいない場合は、器たりうる貴族女性が、王子の婚約者として選ばれる。


 それは同時に、次期女王の指名でもあった。

 だからこそ、選ばれた貴族女性は、女王教育を受けることになるのだが――


「ですがッ、シャーリィ・アスト・ベルは王子を見て逃げ出すような女ですッ! 本当に器があると思いますかッ?」

「それに関しては私たちが反省すべきところですね。少々、イタズラがすぎました」

「は?」


 女王の言葉の意味が理解できず、宰相が思わず聞き返す。

 それに対し女王は特に返すことなく、小さく独りごちる。


「ビリーと一緒にいるなら、大丈夫だとは思いますが……。

 そこでシャーリィがビリーに惚れてしまったりすると……いや、それはそれで面白いコトになりそうですね……さて」


 とはいえ、さすがに何の手も出さないというのも不自然か。

 そう考えた女王は、一つうなずいた。


「Mr.凶犬(マッドハウンド)に手紙を書きます。必ず渡すように」

「正気ですか?」

「ええ。もちろん。私はいつだって本気で正気で大真面目ですよ?」


 嘘付け――と宰相の目が(すがめ)られるが、彼女は一切気にしない。


 何はともあれ――


「お手並み拝見といきましょうか、シャーリィ。

 貴女が女王の器に足る人物かどうか確かめる良い機会です」


 ――貴女が女王(それ)を望もうと、望むまいと、色んな人が注目していますよ、と。




「ところで宰相。この手配書のシャーリィ、もっと良い絵はなかったのかしら?」

「確かに……子供のラクガキにも劣りますな。これは」




次回の更新は19時頃を予定しています。

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