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53.――そして、荒野の令嬢は帰宅した


 ラタス姉妹の家で、しっかりと回復するまで休んだ。

 あとは帰るだけ。ようやくまともな帰路につけそうよね。


 二人はそのまま森に残るのかと思いきや、わたしを家まで送り届けてくれることになった。


 ビリーも一緒に来るらしい。


「帰らなくていいの?」

「オレは家出じゃないからね。

 でも、シャリアを送り届けたら帰るよ。シャーリィを迎える準備が必要だからね」


 臆面もなく口にするビリーに、何やら嗅ぎ取ったらしいナージャンさんがニマニマする。


「あらあらぁ……?」

「うううっ……」


 あーもー……!

 その生暖かくかつお楽しみを見つけたみたいな眼差しが辛いッ!


 逆に、嗅ぎ取りつつも首を傾げるのはナーディアさんだ。


「シャリアさんがビリーさんを受け入れているというのは、つまりビリーさんって……」


 そして、理解に至ったのか目を見開いて彼を見た。

 そんなナーディアさんに、ビリーは口元に人差し指を立ててウィンクしてみせる。


「今はビリーさ。

 急に畏まられたりしたら、泣く自信あるよ、オレ」

「……まぁ、ビリーさんがそれでいいって言うのでしたら」

「ようすにぃ、錆び付きの格好している時はぁ、そう扱ってくれってヤツねぇ」

「そういうコト。オレも、シャリアもね」


 とまぁ、そんな感じで――わたしたちは四人でキャシディ駅へ向かう為、馬の元へと向かうのだった。




 キャシディ駅に到着し、貸獣屋(レンタ・ビスト)へと馬を返した。

 それから乗車券を買おうとしたところで、聞き覚えのある声に呼び止められる。


「よッ、嬢ちゃんたち!」

「あら? ジェイズじゃない」


 列車で遭遇したときにもいた部下たちも一緒ね。


「奇遇だな。鉄道でどこかへ向かうのかい?」

「おうよ。ボスが捕まっちまったんで――まぁ、仕事が一段落ってところさ」


 ビリーに問われて、ジェイズは明るく笑ってうなずく。


「西へ戻るの?」


 続けてわたしが聞くと、応と快活に返事をする。


「しばらく(かしら)としての仕事をサボってたからな。

 優秀な片腕がいるとはいえ、任せっぱなしはよろしくねぇだろ?」

「そう。それなら、わたしの婚約発表か結婚式の時に貴族として会えそうね」

「なんだよ。腹括ったのか? イヤでイヤで仕方なくて家出したんだろ?」

「実はあの腹立つ態度には理由があったってのが判明したのよ」

「それはそれは……」


 皮肉か感心か……ともあれ何かを言い掛けたジェイズは、そこで動きを止めた。


「……マジ?」


 そして、動き出すと同時に訊ねてくる。


「大マジ」

「詳細知りてぇんだけど?」


 問われて、どうしたものかとビリーに視線を向けると、彼は苦笑した。


「君の正体並にシークレットなネタだけど……まぁ、シャリアが足を撃った件もあるしな」

「撃たれたのはオレの自業自得だが……教えてくれるっつーなら、歓迎だぜ?」


 そうして、ビリーはジェイズを伴い、この場から少し離れた場所へと移動する。


 何やらジェイズの「マジかよッ!」という叫び声が聞こえてきた。気持ちは分かる。


 ひとしきり驚愕し終わったのか、疲れた様子でジェイズは戻ってきた。横にいるビリーも何とも言えない顔をしている。


 ジェイズは気持ちを切り替えるように、部下へと声を掛ける。


「よし、お前ら。真っ直ぐ帰るのはヤメだ。寄り道すっぞ」

「それは構いませんが、ジェイズさん。どこへ?」

「そりゃあお前ら、決まってんだろ。せっかく東側に来てるんだ……その先っちょを陣取ってるオッサンに挨拶するのさ」

「え? うちに来る気ッ!?」


 思わず口を挟むと、ジェイズはこちらを見て「応とも」と、とても良い笑顔で笑うのだった。


 ……なんていうか、賑やかな帰り道になりそうね。




 賑やかだけど、トラブルなく。

 わたしたちは無事に、ベルグラン駅へと到着した。


「ここから町までは歩いても、一時間掛からないわ」

「この人数で貸獣屋(レンタ・ビスト)を使うのも迷惑かけそうだから、徒歩にしようか」

「先触れだけ出しておくわ。お客さんが多いしね」


 それから、駅から徒歩で街道を進み、領都の入り口が見えてくる。

 そこには――


「パパとママが待ちかまえてるわね」

「シャリアさんが心配だったんだと思うわ」

「そうよぉ、生きているならぁ、大事にしなきゃねぇ」


 そういえば、ラタス姉妹のご両親の話しって聞かなかったな……。

 ただ、この感じだとどちらも他界してしまっているんでしょうね。


 派手に家出した手前、なんだか恥ずかしいけど……まぁ、そうよね。


「一足先に、ちょっと挨拶してくるから」


 みんなにそう告げると、わたしは足早に町へと向かう。


「パパッ、ママッ!」


 呼びかければ、二人は安堵したような顔をして駆け寄ってくる。


「シャーリィちゃんッ!」

「もう、心配したのよ」

「うん……その、心配させちゃったコトは謝るわ」


 でも家出したことは意地でも謝らないんだから。


「だけど、二人とも酷いわ。挨拶に来たあの人の正体を分かっていたんでしょう?」

「う、それは……」

「この人が勝手に陛下の思いつきに乗っかっただけよ」


 パパは目を逸らし、ママは憮然と口を尖らせる。

 それを見、ちょっと笑いそうになるんだけど、そこを堪えてわたしは(まなじり)をつり上げた。


「事実がどうあれ、わたしに黙っていた以上、パパもママも同罪です。

 なので、心配を掛けたコトは謝るけど、家出したコトに関しては一切の謝罪はしないからッ!」


 きっぱりとそう口にしてから、後ろを示す。


「それはそれとして――家出中にお友達が増えたのよ。

 一緒にちょっとした事件に巻き込まれてね。それを一緒に解決したり、その事件に関わってた人たちがね。

 事件後にすぐ解散しても良かったんだけど、せっかくだからってここまで送ってくれたの。

 二人に紹介したいわッ!」


 わたしが言えば、パパは嬉しそうにうなずいた。


「そりゃあもちろん。シャーリィちゃんを届けてくれたお礼もしないとね。そうだろうレイカー?」

「ええ。そうね。一緒に歓迎しましょう」


 よしよし。

 ちょうど良いタイミングでみんながやってきたわね。


「それじゃあ紹介するわね。

 まずは、枯れ木の森のラタス姉妹」

「こんにちわぁ!」

「よろしくお願いします」


 二人にはパパもママもふつうに挨拶を交わす。


「次に最西のギャング領主ジェイズと、その部下の方々」

「お初にお目に掛かります。ベル卿」

「これはこれは……よもやバスカーズ卿とお会いできるとは……ッ!?」

「シャーリィちゃんは一体どんな事件に関わったっていうの……?」


 ふっふっふ。ジェイズでそんなに驚いて貰っては困るわ。


「それからこちらは、一番お世話になった剣士のビリー」

「お初にお目に掛かります。このようなお忍び姿で申し訳ありません。

 ビリーとは錆び付き(デザート)としての忍び名。本名をウィリアム・ヘントリック・カナリーと申します」


 イタズラ好きの貴族という顔でビリーが名乗ると、パパとママは驚愕した表情のまま固まった。


 すると、どこからともなく老執事のハインゼルがやってきて二人の様子を伺い――


「し、死んでるッ!?」


 自分の口元に手をおいて大げさに驚いてみせるのだった。


「死んどらんわッ!」

「そのくらい驚きましたけどねッ!」

「それは何よりでございます」


 いやはやなんというか……。

 この賑やかな両親を見ていると、帰ってきた――って実感が湧くわねッ!


 うん。「ただいまッ!」って感じ。


次回、最終話です。

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