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5.それは恐怖か吊り橋か

本日も全4回更新予定です。


 思わず悲鳴を上げそうになったけど、声を抑えてと言われたので必死に堪える。


 ビリーはわたしを抱えたまま飛び上がり、トンネルの縁に片手で掴んでみせた。


 そのまま片手で逆上がりするようにくるりと回り、トンネルの上の窪みのような場所へと着地。

 

 め……めちゃくちゃ怖かった……。

 人に抱えられた状態で逆上がりなんて経験したことなかったんだけど、これやばいわ。マジ怖い。


 いや、怖いのはまだ継続中なんだけどッ!

 この岩の窪み。削った感じはないから天然モノなんだろうけど、ビリーが踏みしめている部分は結構な急斜面な感じだし、捕まっている場所も一応凹凸に分類していいかな? くらいの緩い感じのところだしッ!


 しかも、ビリーはわたしを抱えてるんだよッ!?

 それでいて安定感抜群とか、こいつの身体能力どうなってんのッ!?


 加えてわたしの足ッ!

 左足ッ、左足が宙ぶらりんなのがすっごい怖いッ!!


「次はタイミングを見計らって飛び降りるから、もう少しこのままで頼むよ」

「う、うん……!」


 もう、素直にうなずく以外できないって!

 邪魔しようもんなら、もろともわたしはビリーと死んじゃうしッ!


 心臓ドキドキしっぱなしなんですけどッ!?

 顔はもとより、性格も良さそうな男に抱き抱えられてるからドキマギしちゃってるのか、怖くてドキドキしてるのか判別つかないんだけどッ!


 ……って、あれか。これが吊り橋効果ってやつか? わたしってば絶賛吊り橋効果の影響下にあるのかッ!?


「足下」


 あーもーッ! 耳元ッ! 良い声で囁かないでッッ!

 とはいえ文句とか言ってる場合じゃないので、素直に下を見る。


 すると、混成部隊の面々が乗っている屋根が通過していく。

 キョロキョロしてますねー……。

 

 まぁ、向こうからするとわたしたちが突然消えたように見えてるだろうしね。


「よしそろそろ飛び降りる。しっかり掴まってて」

「うん」


 そっちもしっかり掴まえててよ――と口に出さないのは、理性かそれとも混乱か。


 その答えが出るより先に、ビリーは眼下を走る列車の上に飛び降りるッ!


 着地するのは屋根に穴の開いた貨物車両――ではなく、その一つ後ろの車両だった。


「奴らッ、後ろにいるぞッ!?」

「どうやってッ!?」

「いつの間にッ!?」


 着地して間もなく、警備とチンピラの混成隊もこちらに気づく。


「ここにいて」


 言うや否や、ビリーは剣を構えて地面を蹴る。


瞬抜刃(ドミネイター・)・鐵斬(デキャプテイト)ッ!」


 ビリーが狙うのは連結部分。

 屋根から飛び降りつつ、霊力(レイ)で強化した斬撃で前の車両とこの車両を繋ぐそれを斬り離す。


 すぐさまジャンプしてこちらへと戻ってくると――


「後ろも斬ってくる。連中が飛び移ってこないように頼む」

「了解」


 そう囁いて、ビリーはわたしを通り過ぎていく。


 ビリーが背後へ走っていくのを感じながら、わたしはマリーシルバーを構えた。


 連中の一人が屋根伝いに飛び移ろうとするのが見えたので、足下へ向け威嚇を一発。


「うおッ!?」

「あのガキ、反応速度も速ぇじゃねぇか……」


 混成隊が怯んでいるのを見ながら、わたしは腰元のポーチに手を伸ばす。

 これまでのどさくさで落としてたらどうしようと思ったけど、どうやら無事のようで一安心。


 ナイフとか銃とか分かりやすいのは取り上げられたけど、この小さなポーチだけは取り上げられてなかったのは幸いだね。


 ポーチがあるのを確認したわたしは、マリーシルバーの銃身とシリンダーを下向きに折り曲げ(トップブレイクし)て、使い切った弾を排莢(はいきょう)する。

 それかポーチから換えの弾を取り出すと、手早く詰めて元に戻した。


「弾の装填も速いッ!」

「ガキのクセに隙がねぇぞッ!」

「クソッ、徐々に距離が開いてきやがった!」


 前方車両はまだ走行車両と繋がっているけど、こっちは連結が切れちゃってるからね。慣性が残っているとはいえ、徐々に速度は下がっていく。

 だから、向こうとこっちの車間距離は開いていくわけで……。


 でも、迂闊に動けばわたしに撃たれるから、向こうもなかなか動けない。

 こっちへとジャンプして飛び移ろうとしても、そこを撃ち落とされたら終わりだもんね。


 そういう意味ではわたしが構えているだけで、牽制になっている。

 そして、後ろの連結部分を切断してきたビリーが戻ってきた。


「シャリアは投げ縄って得意?」

「まぁ、銃に限らず投げたり飛ばしたりは、それなりに」

「じゃあ任せた」

「どこに投げるの?」

「合図したら前方車両のどこかにひっかけて。

 簡単に外れないところがいいかな」

「それならそう難しいコトはないけど……」


 ところで、この縄輪の反対側ってどこに繋がってるんだろ?

 視線で追うとずいぶんと後方に伸びている。


「後ろの車両に結んで来たんだ。

 ここと後ろは同じペースで走ってるから、しばらくはロープが張るコトないよ」

「それはいいけど、どうして……」

「欲しいのは俺たちのいる車両だけだからね」

「車両ごと盗むの?」

「そうだよ」


 なにを今更――とでも言いたそうな顔をしているけど、ビリーの計画とか何一つ知らないんだけどッ!


 優男フェイスのわりに、とんでもないこと考える奴ね……。


「おっと、そろそろだ。構えて。

 俺が瞬抜刃を放ったら、その直後にロープを投げてくれ」

「了解」


 あーもーッ! こうなったらとことんまでやってやろうじゃないのッ!

 どうせここまで来たら、ビリーの一味扱いも仕方ないッ!!


瞬抜刃・走牙(フェイザー・トラスト)……行けッ!」


 ビリーは瞬抜刃を繰り出し、鞘走りから剣圧を飛ばして即座に納刀した。

 ターゲットはレールの切り替えレバー。当然のようにビリーは切り替えに成功する。


「あいつらッ、星技(アーツ)でポイントを切り替えて……ッ!」

「クソッ、やられた……!」


 そのタイミングでわたしは前方の車両へと投げ縄を放った。

 狙いは屋根――ではなく、その下。連結部分近くの転落防止用の柵。


「すごいね。完璧な縄使いだ」


 ビリーがそう褒めてくれたタイミングで、わたしたちの乗った車両は前方車両とは別のレールへと曲がる。

 直後に、もう一度ビリーが剣圧を飛ばしてレバーを切り替えた。


 これで、後続の車両はそのまま進むし、縄で繋がれているから前方の車両の加速に引っ張られるはず。

 安全性とかは、まぁ――気にしてもしょうがないか。


「ここからはなだらかな下り坂が続く。終点までノンストップだ。

 結構、時間があるから――下に降りて一息つこう」

「もうちょっと屋根にいるわ」

「そう? なら、横にいても?」

「ご自由に」


 そう告げて、わたしは屋根の上に腰を下ろした。

 あーもー……なんか疲れたわぁ……。


 


次の更新は7時頃の予定です。

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