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44.吹き荒ぶは野心の血風

予約設定かけるタイミングによってはどうにも日付設定をミスってしまう……

というワケで遅れてすんません


 森の中心付近にある質素なログハウス。

 暖かみすら感じるその家の脇を抜けて、わたしたちは裏庭へと向かう。


「おや、誰か来ましたか」


 そこにある古井戸の前――仕立ての良い服を着た小太りの男性が、アースレピオスを手にしてそこにいた。


 人の良さそうな雰囲気はあるものの、その双眸だけはどこかギラついている感じのおじさまだ。


「人の家の庭でぇッ! 何をしてるのぉッ!」

「何を仰いますやら。この森はこの私、ブッチャー・バン・キャシディの……」

「モノになる前に借金の返済は終わりました。銀行から証明書も発行してもらってます」

「おやおや。それは無駄な努力をご苦労様です」

「な……ッ!?」

「こいつ……ッ!」


 事前にゴルディから聞いていた推察の通り、キャシディ伯爵は慌てた様子はない。

 私的な実験場を求めていただけで、最悪の場合実験さえできれば土地はどうでも良かったんだろう。


「初めましてキャシディ伯爵。俺は錆び付いた保安官(デザーテッドシェリフ)のビリー」


 前のめりになるラタス姉妹を制しつつ、ビリーは一歩前にでた。


「女王陛下直々の依頼によりアースレピオスを取り戻しに参りました。よろしければ、今すぐにでもそちらをご返品願えませんか?」

錆び付き(デザート)……ですか? なるほど、女王の後ろ盾を伴った上、その肩書きだからこそ無茶が出来たワケですか」

「…………」


 ビリーの目が(すが)まる。

 今の言い回し――キャシディ伯爵はビリーの正体に気づいている?


「表舞台は影武者に任せて、俺自身は各地を飛び回ってるから、顔を知っている人は少ないはずだけどな」


 敢えて誤魔化すことなく、ビリーはそう口にした。


「ずいぶんとお粗末な影武者をお使いのようだ」

「お粗末とはヒドいな。彼とは昔馴染みなんだ。あまり悪く言って欲しくないな」

「ならばあのような振る舞いは止めさせるべきでは?」

「それについては同感なんだが……母上が楽しんでいるせいで止められないのさ」


 ビリーとキャシディ伯爵のやりとりを見ながら、わたしは隙を伺い続ける。

 それはビリーも同じだろう。

 

「それにしても、いつからあれが影武者だって気づいたのかな?」

「いくら貴方の母君が問題のある性格とはいえ、あれの自由をあまりにも許しすぎているのが気になりましてな。

 好き勝手振る舞っていうように見せて、裏で何かしているのではないかと、色々探っている時に気づいたのですよ」

「なるほど。噂以上のキレ者のようだね。伯爵」

「お褒め預かり恐悦至極」


 慇懃無礼に礼をして見せるキャシディ伯爵を見るに、もしかしなくてもビリーの方が家格は上?


「それで、キャシディ伯爵。貴方が何をしようとしているのか教えて貰えないかな?」


 剣の柄に手を置きながらビリーが訊ねる。

 それに対して、キャシディ伯爵は大仰にうなずいてみせた。


「ええ。構いませんよ。

 論より証拠。お見せしましょう」

「何を――?」


 わたしたちが訝しんだ時、伯爵は井戸に向けてアースレピオスを掲げて告げる。


「目覚めよッ、アースレピオスッ! その身に宿せッ、星の命の輝きをッ!」


 次の瞬間、古井戸から霊力が吹き出した。


「な……ッ!? なんなのぉ、この霊力はぁ……ッ!」

「すごい量の霊力を……アースレピオスが吸収してる……ッ?」


 そして古井戸から吹き出す大量の霊力を吸収したアースレピオスは、短杖から長杖へと姿を変える。

 そのサイズは、キャシディ伯爵の身長と変わらないくらいだ。


「これぞアースレピオスの真の姿ッ! これもまたSAIデバイスの一つッ! 真の能力はここでは発揮できませぬが……まずは、お披露目と行きましょうかッ!」


 キャシディ伯爵が構える。

 それに対して身構えつつ、わたしは横目でビリーに訊ねた。


「アースレピオスってSAIデバイスだったの?」

「いや初耳だ」


 ……王家の情報に詳しいビリーも知らないとなると……。


「ゴルディさんがぁ、貴方に売った本はぁ、だいぶ詳しい内容だったみたいねぇ」

「ええ。そうなのですよ。王家が秘している本よりも詳しかったのではありませんか?」


 ナージャンさんの問いに、キャシディ伯爵は笑顔でうなずいた。もっとも人の良さそうな笑顔のようで、視線そのものは鋭い。


「キャシディ伯爵を止めてアースレピオスを取り戻すッ!」

「オーライッ! その為に、ここに来たんだものッ!」


 ビリーの号令のような一声で、わたしたちは完全に臨戦態勢となる。


 キャシディ伯爵も体型のわりにはデキそうな雰囲気だけど、それでもわたしたち四人とやりあえるほどでは無さそう。


 無さそうなんだけど……。


「やれるものならやってみてくださいッ!」


 わたしたちを見据えながら、キャシディ伯爵がアースレピオスを掲げると、爪ほどのサイズの水球が無数に彼の頭上に発生する。


「一つ一つに込められた霊力が濃い……ッ!?」

「ビリーッ、シャリアちゃんッ、一発一発が大ダメージ級だからねぇッ!」


 それを見るなり、ナーディアさんとナージャンさんが大慌てだ。

 あれはそれだけの威力のある神霊吹術(ブレス)なんだろう。


「無数の水滴よッ、その一粒一粒を武器としてッ、我が前にいる敵を穿てッ!」


 だけど、それが術であるのなら……ッ!

 完成する前に、ダメージ与えて集中力を削げばいいッ!!


 わたしは即座にマリーシルバーを抜いて弾鉄を引く。

 だけど、マリーシルバーの歌声たる鉛玉は、キャシディ伯爵に届かなかった。


 何かに阻まれたように、弾かれたのだ。


「今のは……?」

「霊力の壁ッ!? 確かに詠唱中は、密度の濃くなった霊力が壁のようになりますけど……ッ!」

「それは銃弾に耐えられるほどのものじゃないわよぉ……ッ!?」


 キャシディ伯爵が規格外なのか、アースレピオスの恩恵か……。

 まぁ十中八九後者だけど、今はそんなことを考えている場合じゃないッ!


「このッ!」


 ビリーも剣圧に霊力を乗せて飛ばすものの、やっぱり霊力の壁に阻まれた。


「どんな密度だよッ!」


 思わずといった様子でビリーが毒づいた時、キャシディ伯爵の術が完成する。


「では行きますよ。超強化・押し(パニッシュメント)潰す水泡・乱(・プレッシャー)撃術式散弾化(・エクステンド)ッ!」


 そうして、伯爵の頭上に浮かんでいた無数の水滴が、こちらへ向かって勢いよく降り注いだ。



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