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3.走行中の列車の屋根とトンネル

本日3話目


 屋根にあがると、すごい風がびゅーびゅーごーごーしていた。


 いやまぁ走行中の列車の屋根なんだから当たり前なんだけど。

 三つ編みお下げはバタバタ動くし、服もバタバタはためきまくるし!


 周囲の荒野や岩場といった乾いた大地からは砂塵が舞いまくってるし!


 あーもーッ! っとイラ立っていると――


「先頭車両の方へ行くよ」


 美形はそう言って、わたしの返答を待たずに動き出した。

 確かに、今は急ぎでこちらの答えなんて待ってる余裕はないんだろうけどさッ!


 わたしはぶつくさとうめきながらも、彼の後を追いかける。

 あーもー……歩きづらいし、風は強いし、落ちたら終わりだろうし、砂埃は鬱陶しいし、怖いったらありゃしないんだからッ!


 それでも、彼はわたしが追いつける程度には歩みを緩めてくれてたんだろう。ほどなくして、わたしは彼に追いついた。


「そうそう。俺、ビリー・マッカーティ。君は?」

「え?」


 横に並ぶと、彼は唐突に名乗った。

 うまく反応できずに、わたしがキョトンとすると彼は言葉を続ける。


「ほら、いざという時、名前を知らないと不便だろ?

 君がどうするにしろさ、この列車から逃げる必要はあるだろうし。協力しあうくらいはするだろ?」


 言われて、それもそうかと納得した。

 こんな状況になった以上、まともな方法で降車はできないだろうなぁ。


「あーもー……どうしてこんなコトに……」


 思わず嘆息してから、わたしは名前を名乗ろうとして――一瞬、ためらう。

 

 素直に本名を名乗るのもちょっと違う気がするわ。


「シャリアよ。シャリア・ベーロ」


 そんなワケで、本名のシャーリィ・アスト・ベルをもじって偽名を作った。本名からあまりにも遠い偽名だと反応できない時とかあるだろうしね。


 ちなみに、貴族は三節名(さんせつな)を持ってる人が多いけど、平民は基本的に二節名(にせつな)なので、そこも踏まえての偽名である。


 生まれも育ちも良いだろうとあたりは付けられてるかもしれないけど、それでも一応平民の娘アピール!

 富豪とか豪商の娘ってことで一つよろしく頼みたい。


「短いつきあいだろうけど、よろしくシャリア」


 そう言って笑うビリーの顔は不思議と爽やかで、なんで列車強盗じみたことをしているのかと思ってしまうほど。

 偽名を名乗ったことに罪悪感を覚えそうな良い笑顔。


 強風にあおられてるからこそわかるサラサラの栗髪。引きつけられるようなミステリアスな輝きを放つアメジスト色の双眸。

 日に焼けづらいのか、磁器のような透明感のある白い肌。


 でも決して不健康という空気はない。快活とした爽やかさを纏っている。


 とはいえ、その顔に免じてどうこうしてやるつもりはない。

 でも、だからといってこの状況で険悪な態度を取る理由もないので、わたしはクールに返すことにした。


「ええ、よろしく」


 わたしが返事をすると、なぜかとても楽しそうな顔をした。


「そろそろトンネルが来る。真っ暗になるから気をつけて」

「もうロクシス山脈なのね……」


 先史文明時代に掘られたトンネルをそのまま利用して線路を通した場所と言われている。

 実際どうなのかはともかく、岩山が連なって出来た壁のようなところを抜けていくのは確かだ。


 ここに先住していた岩肌人(ロクシニアン)との軋轢の原因とも言える場所でもあるんだけど、今は関係のない話。


「トンネルは三個ある。

 三個目の出口付近で合図するから、そうしたら俺の手を掴んで」

「どうして? って聞くだけ野暮かしら?」

「できれば可愛い君の為に説明をしてあげたいところだけど、ほら」


 そう言ってビリーが背後を示すと、チンピラと正規警備兵の混成部隊っぽいのが屋根に上がってきていた。


 ……って、あれ? 今、可愛いって言われなかった? 誰が? わたし?


「さっきサーベルだけ撃ち落としたところを見る限り、それなりに腕がありそうだし……ちょっと期待するよ?」


 サーベルを抜いている警備兵だけでなく、チンピラたちの中にはリボルバー型のSAIデバイスだけでなく、ショットガン型やライフル型のSAIデバイスを持ち出してきているのもいる。


 どう見ても()る気まんまんです。本当にありがとうございました。


「正規の警備っぽい人を攻撃したらもう言い逃れ出来ないのよね……」

「向こうはそもそも君の言い逃れを聞く気、なさそうだよ?」

「言われなくとも、見ればわかるわ……」


 あーもー……とうめきながら、わたしは自分のマリーシルバーを抜いた。


 まずは戦闘前の(気持ちを切り替)おまじない(えるルーティーン)

 銃口を上に向け、顔の前で銃を立てる。


「今回もよろしく。マリーシルバー」


 そして、長年連れ添っている相棒に口づけを一つ。


 これがいつものルーティーン。

 困難を前にし、銃火でもって未知なる道を切り拓く。それを実行する為の、小さな儀式。


 気持ちを戦闘モードに移行させるスイッチとも言い換えれるかもしれない。


「その銃が羨ましいね」

「そう思うなら、わたしを無事に脱出させなさいな」

「それはご褒美を期待して良いってコトかな?」


 わたしはビリーのその言葉には答えず、マリーシルバーの銃口を追っ手たちに向けた。


「せっかくのロクシス山脈よッ!

 あなた方がわたしの命を狙うっていうのなら、ここ原住民たちの歌――岩肌人の(ロクシニアン)勝鬨歌(・ロキシィ)をッ、聞かせてあげるッ!!」

「まったく……。なんとも勇ましい()だな」


 やれやれ――という言葉とは裏腹に、ビリーもシリアスな顔をして、剣の柄に手を置き、構えるのだった。




 また1時間後くらいに4話目を更新予定です。



【用語補足】

『岩肌人の勝鬨歌/ロクシニアン・ロキシィ』

 ロクシス山脈を中心に暮らすこの辺りの地方の原住民。岩肌人たちが戦いに勝ったときに高らかに声を上げる歌。

「~を聞かせてやる」という言い回しは、カナリー王国人の中でも、岩肌人と仲の良い地域の人達が、その行いに転じて使い始めた。その結果、一部の人達と岩肌人の間で流行し定着した。

 歌を聴かせる=こちらの勝利。

 つまるところ、「今からテメェをぶっ殺す」あるいは「これからテメェをぶっとばす」の意。

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