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29.帰りたいのに家路は遠のき


 一等客席の一室に着いた。

 元々四人部屋なので、わたしが増えたところで広さに問題はない。


「とりあえず、次のカウベリー駅までは一緒だね」


 それぞれに席につくと、ビリーは嬉しそうにキラキラ輝く笑顔を向けてきた。

 それに対してわたしは何とも言えない顔をする。


 また少しの間だけビリーと一緒にいれるのはやっぱり嬉しいのだけれど、とはいえ帰路が遠のいたので複雑な気分。


「それにしてもぉ、サソリちゃんはどうしてシャリアちゃんを探してたのかしらぁ?」


 わたしへと笑顔を向けているビリーを無視して、ナージャンさんが首を傾げる。


「確かに疑問ですね。

 賞金首が賞金首を狙うのは別に無いワケではありませんけど」

「あの感じ、そういうのじゃなかったでしょ」


 眉を顰めるナーディアさんに、わたしがそう口にした。

 彼女もそれは否定する気はないらしく、「そうですね」とうなずく。


「何て言うか誘拐が一番近いんじゃないかな。目的」

「確かに名前を呼んだ時に目が合ったけど、殺意はなかったわね」


 だとしても、ならばなぜわたしを誘拐したいのか――という点が気になる。


「誘拐となれば依頼人がいるはずよねぇ?」

「そういえば……無法の蠍(ロウレスコルピオ)って、最近になってゴールドスピーカー一家の用心棒を始めたって噂ありませんでした?」

「噂が本当なら、わたしの誘拐を企てている元締めはそこの組織ってコト?」


 それにしてもゴールドスピーカー一家、か。

 どこかで聞いたことあるような……。


「元締めはそうかもしれないけど、依頼人は別にいるだろうな」


 ビリーがそう口にしてから、小さく嘆息する。


「それと、ゴールドスピーカー一家は、ハニーランドで君が倒した大馬鹿どもが名乗ってた組織だからね」

「あ! だから聞いたコトあったのかッ!」


 ポンとわたしは手を打った。


 正直、犯罪組織とか犯罪一家みたいなのって興味ないから名前とかあまり知らないのよね。


「そうでなくとも、ゴールドスピーカー一家は手広く色々やってるから、有名ではあるんだ」

「そうなの?」

「意外とシャリアちゃんってぇ、そういうの疎い方なのかしらぁ……」


 ナージャンさんも少し呆れ気味なので、実は結構知っておいた方がいい話だったのかもしれない。


「ゴールドスピーカー一家は、キャシディ領を中心に活動する犯罪組織です。おおっぴらに活動を始めたのはここ数年……。

 下っ端は、先日のようなネームバリューに(あやか)った略奪とかばかりしてますけどね」


 逆に言えば下っ端以外は犯罪組織としてちゃんと仕事をしてるってことよね。

 ナーディアさんのありがたい解説に、わたしはうなずきながら先を促す。


「依頼を受ければ、殺しや誘拐、窃盗なども平気でやるそうですし、違法薬物の取引などもしていると聞きます」

「キャシディ領を中心に活動しているって言ってたわよね? 領主である伯爵は何も対処しないの?」


 わたしの疑問に、ナーディアさんが少し困ったような笑みを浮かべる。

 代わりに答えてくれるのはナージャンさんだ。


「証拠はないけどねぇ……あそこの領主、ゴールドスピーカー一家のボス――クロフ・ゴルディと仲良しっぽいのよねぇ……」


 それを補足するように、ナーディアさんも息を吐く。


「我が家のある枯れ木の森からの立ち退きの書類を届けに来たのが、金貸しをしている構成員と、何故か領地の文官という組み合わせでしたし」

「うあー……」


 思わず声を出してしまう。

 そりゃあ、キャシディ領でのさばっているワケだわ。


「でもゴールドスピーカー一家は少しやりすぎちゃったんじゃないかな」

「どういうコト、ビリー?」

「王家が虎視眈々と潰す準備をしてるって話を聞いたコトある」

「あらまぁ」


 なんていう相づちを打っておいてなんだけどさ……。


「そんな組織をちゃんと知らなかったわたしって……」

「えっと……辺境まではその名が轟いてなかったコトじゃないかな」

「つまりはぁ、その程度の組織ってコトでしょぉ?」


 ビリーとナージャンさんの言葉は慰めになってるんだかなってないんだか……。


「ともあれ話を戻すけど、どうしてわたしが狙われたのかしら?」


 そして疑問が最初に戻ったところで、三人は顔を見合わせて首を傾げるのだった。




《カウベリー、カウベリー。まもなくカウベリーに到着致します》



 雑談をしているうちに、カウベリーに到着するようだ。


「今度こそお別れかぁ……」


 何てことを思わず口にいた時、ナーディアさんがわたしの頭をぐいっと下へと押した。


「ナ、ナーディアさんッ!?」

「しっ!」


 抗議の声を上げようとすると、彼女は人差し指を口元にあてる。


「シャリア、もっと頭を下げて。ナーディアの荷物とドアの隙間に隠れて」


 ビリーが小声で出してくる指示に従い、わたしは体を小さく丸めるようにそこへと収まった。


 その間に、ナージャンさんは窓のカーテンを閉める。


「ゴールドスピーカーの連中が駅をうろついてる」

「分かるの?」

「組織名の通り、拡声器をモチーフにした金のバッジを揃いで付けてるからね」

「下っ端ではありませんね。

 末端ではあるんでしょうけど、構成員と認められている者たちのようです」


 そういえば、ハニーランドで遭遇した連中は、そんなバッジ付けてる様子なかったな。

 もしかしなくても騙りか、それこそバッジのもらえないような下っ端だったか。


 ……あれ? ハニーランド以前に、どこかで見なかったっけ。

 金色の変なバッジ……。


「シャリアちゃんを探してるのかなぁ?」

無法の蠍(ロウレスコルピオ)のコトを思うと、シャリアの顔は見せない方がよさそうだ」

「ここで降りるのは危険よね?」

「結構な数いるみたいだし……降りるのはオススメできないよ」


 そんなワケで、わたしはまたもこのまま乗車することが決まったのであった。


 確かこれ、王都方面行きよね?


 カウベリーから北に行かず王都方面に進んでいく場合、次はロデオ・ロデオだったかな?


 あーもー……。

 いい加減、降りて引き返したいんだけどなぁ……。



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