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27.トラブルッ!からの予期せぬ出発?


 二回の発砲音。

 それにより、これまで騒ぎを気にしてなかった人たちもさすがにぎょっとしたようだ。


 人混みの間を縫って弾丸が飛ぶ。

 人混みの間を縫ってMr.が駆ける。


「その技術と精度はすげぇけどなァッ、甘ぇッ!」


 初弾の弾道はバレていた。

 ぶつかる前にハーディンは左半身を下げて躱す。


「次もバレバレだァッ!!」


 二発目に対しても、ハーディンがナイフで弾く。

 でも、何も問題はない。


「狙い通りですぞッ!」


 ナイフを振るった直後の彼へ、Mr.が鋭く踏み込むッ!


「テメェはッ!?」

「ふんッ!!」


 体を丸めたような姿勢から、Mr.は引き絞るような短いストロークでアッパー気味のボディブローを繰り出す。


「ぐぉ……ッ!?」


 Mr.の左の拳はハーディンの鳩尾(みぞおち)へ、えぐるように突き刺さった。


「もう一発(いっぱ)ぁぁぁぁつッ!!


 身を翻し、逆の手で似たようなモーションからハーディンの顎をカチ上げる。


「げばァ!?」


 たまらず吹っ飛ぶハーディンを構わず、Mr.は声をあげた。


「倒れている男の仲間はどこですかなッ!?」

「お、おれたちだッ!」


 即座に反応した人物たちに、Mr.はうなずいてから告げる。


「すぐに治療院へ連れて行くべきですな。

 奴は自分の獲物に毒を塗ったりしているコトもあるらしいですぞ」

「わ、わかったッ! おっさん、ありがとうッ!」

「礼はいらぬので、とっとと連れていくのですぞ」

「は、はいッ!」


 そうして彼らは倒れていた男性を抱えて、その場から離れる。

 Mr.はそれを視線で見送ることもなく、先ほど吹っ飛ばしたハーディンを睨んだ。


「ワシは王国保安官(シャリアーブ)のマイティ・ジョン!

 賞金首ッ、無法の蠍(ロウレスコルピオ)ハーディン・ジョズリー! その首、ワシがここで頂いていきますぞッ!!」

「ハンッ! 女王の飼い犬風情が吠えてんじゃねぇッ!!」


 ハーディンがどう思っているかはともかく、Mr.が声高らかに名乗りを上げ、目的を口にしたのにはワケがある。


 ギャラリーに対して、自分は誰で相手が誰であるかを知らせる為のものだ。

 野次馬が多いまま戦ってしまうと、どうしてもギャラリーを守ろうとする動きをしなければならないMr.がかなりの不利を背負ってしまう。


 だからギャラリーに対して、自発的に逃げることを促すように名乗りを上げた。


「駅員ッ! 停車中の列車を出発させられるなら、出して欲しいですぞッ! こやつに逃げこまれたら面倒ですからなッ!!」


 Mr.がハーディンと睨みあったままそう告げると、近くにいた駅員さんは慌ててうなずきながら、笛をならす。


 それに応じるように、この列車の先頭車両の方から返事の笛の音が聞こえてきた。


「どうしよう」


 列車が出発してしまう。

 わたしが降りるかどうか悩んでいると、ナージャンさんがグイっとわたしの肩を掴んで車内へと引っ張り込んだ。


「とりあえずぅ、乗ってた方がいいわねぇ」

「姉さんの言う通りです。Mr.凶犬(マッド・ハウンド)はともかく、ハーディンにも狙われているとなれば、変にホームに出歩くよりこのまま乗っていた方が安全です」


 そう言われれば確かにそうだけど……。


「乗車チケットを持ってないって話なら、正当に買うコトも、誤魔化す手段もいくらでもある。

 すぐに帰りたいかもしれないけど……君の安全を考えるなら、このまま乗っていた方がいいよ、シャリア」

「……わかったわ」


 ビリーにまで説得されてしまったので、わたしは三人の提案を受け入れることにした。

 最後のドアから外の様子を伺うと――


 Mr.が空中から拳を振り下ろしているところだった。

 ハーディンはそれを躱すと、Mr.の拳はコンクリートで出来たホームに穴を開け、手首まで埋まった。


 でも、そんなこと気にも止めずにMr.は手を引き抜いて立ち上がる。


「どういう鍛え方してんだテメェはァ――……ァァッ!?」

「食事をして、熱く燃える映画(キネマ)を見て、寝るッ!

 男の鍛錬というのはですな、それだけで十分でしてなッ!」

「ンなワケあるかァァァァッ!!」


 ハーディンの叫び声をバックに列車が動き出す。


 なんともなしにビリーを見て、わたしは訪ねた。


「実際のところ、どうなの? 男として」

「本当にそれで強くなれるんだとしたら、そんなのおっちゃんだけだよ」

「デスヨネー」


 うん。そんなワケがなかった。

 あのツッコミだけはハーディンが正しい。


 みんなで苦笑しあったところで、ビリーが一声あげる。


「さて。とりあえず列車は動き出したし一等客席へ移動しよう」


 それにみんなでうなずき合うと、わたしたちは動き出す。 


「ああいう状況で出発したんだ。慌てて飛び乗ったって言い訳も通用するはずだよ」

「どうしてビリーはわたしを見るのかしら?」

「道中でサンドイッチ買ってく?

 この列車の車両配列的には、途中で買えるよ?」


 ビリーがイタズラっぽく笑ってそう告げてくるものだから、わたしは無言で蹴りを入れるのだった。


 あぁぁもぉぉぅ……良いイジりネタのように使ってきてぇ……ッ!!




 などという不満はあれど、途中の売店車両で噂のサンドイッチは買いました。

 めっちゃ美味しかったです。


 満足。



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