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14.その男、マッド・ハウンド


 馬車から降りてきたのは、長身の中年男性。

 砂色の帽子、砂色のダスターコート、コートの下のスーツ一式も砂色で統一されている。

 どれも使い古され年期が入っているものの、手入れは行き届いているみたい。


 四角く厳つい形の顔は、雰囲気に比べて凹凸は少なく、どこか平たい印象がある。そのせいか、その鷲鼻だけが妙に目立つ。

 ただ、意志の強そうな大きな瞳は、妙に高潔そうで綺麗に見えた。

 

 帽子から覗くのは短く刈られた黒い髪。

 そして、帽子を目深に被っているせいか、やや俯き気味になった時、帽子のつばと影のせいで、その綺麗な瞳は猟犬のように鋭く見える。


 怖い――というよりも、孤高という言葉が似合う強さを感じる人だ。


「ビリー殿以外とは、お初にお目にかかる」


 砂塵を巻き上げて強く吹き(すさ)西風(かぜ)に帽子を飛ばされないように押さえながら、彼は名乗る。


 その声は低く渋く、頼りがいを感じる声。

 味方ならば頼もしいけど、敵対するなら恐ろしいと感じる――そんな声とも言える。


「ワシは王国保安官(シャリアーブ)のマイティ・ジョン。

 多くの者たちにとっては、凶犬(マッド・ハウンド)の方が、通りがよいかもしれませんがな」


 王国保安官(シャリアーブ)

 ただ保安官の名に(あやか)っているだけの流れの何でも屋である錆び付いた保安官(デザーテッドシェリフ)とは異なる、本物の国家権力。


「さて、ワシがあなた方の前に立ちはだかる。その理由の説明は必要ですかな?」

「ええ。是非ともお伺いしたいわ」


 わたしをチラりと見た凶犬に、わたしはそう返す。


「あなたですよ。レディ・シャーリィ。

 あなたを逮捕しに参りました。ちなみに生死不問(デッドオアアライブ)ですな。うら若き女性に対する指示とは思えませんが」

「それが納得いかないのよ。

 列車の警備兵連中は、わたしが危ない連中に襲われてた時に出したヘルプを無視して攻撃してきたのよ?

 命を救ってくれたのはビリーたちってだけなのに……それを仲間扱いな上に、手配書まで素早く回されてさ。

 あなたたちはわたしに、手配されたくなかったなら死んでおけば良かったとでも仰るおつもりで?」


 かなり皮肉な言い方になってしまったけれど、わたしの本心でもある。

 助けてくれなかったクセに、犯罪者扱いすんじゃねーよ、と。


「そいつは災難でしたな。

 ですが、ワシに言われてもどうしようもないんですよ」

「それもそうね。別にMr.が警備の命令権とか持ってるわけでもないのでしょうし」

「そういうコトです。

 気の毒ですがね――手配書が出回った。その人物をターゲットにしろ命令が出た。だからワシはこの場へとやってきた。それだけですからな」


 わたしとMr.は同時に嘆息する。

 それから、わたしは敢えて告げた。


「捕まる気なんてさらさらないわよ?」

「そうでしょうな。なので――」


 瞬間――Mr.はコートの下のホルスターから銃を抜く。

 かなり大きいサイズのオートマチック型SAIデバイス。


 だけどッ

 抜く速度もッ、構える速度もッ、弾鉄(ひきがね)を引く速度もッ!

 ――その全てが、わたしの方が速いッ!!


 パンッ――と、マリーシルバーの銃声(うたごえ)が響く。

 その弾丸は真っ直ぐに宙を駆け、自分のデバイスを構えた瞬間のMr.の指へと突き刺さった。


「ぬッ!?」


 驚愕に見開かれるMr.の顔。

 同時に散開するビリーとラタス姉妹。


 だが、次の瞬間――わたしたち四人が驚愕する番となった。


「甘いですぞッ!!」


 Mr.が気合いの咆哮をあげる。

 その瞬間、Mr.の指がマリーシルバーから放たれた弾丸を弾いた。


「は?」


 それは誰の声だったか。

 わたしたち四人の誰か、あるいは全員が漏らした声かもしれない。


「次はこちらの番ですなッ!」

「シャリアッ、紙一重では(かわ)すなッ! 跳べッ!!」


 ビリーの叫びをかき消すように、Mr.のデバイスが重々しくも大きい――ズドンという咆哮を上げた。


 その射線を見切りつつ、ビリーの声に従って大きく横へと飛び退くわたし。

 刹那、わたしが先ほどいた場所を突き進む大型の弾丸が見える。


 それは途方もない衝撃波を伴っており、余波だけでわたしは軽くバランスを崩した。


 直撃してたら、粉々になっていたかもしれない。

 腕や足にでも掠ってたら切断されかねない威力だったわよ、あれ。


「衝撃強化の神霊星技(フォースアーツ)……」

「いや、それは勘違いですぞ、レディ」


 Mr.はその銃口をこちらに向けながら首を横に振る。


「なにせ、何の力も付与していおりませんからな。

 今のはこのSAIデバイス『ドラグーン・ハウリング』の基本の射撃機能ですな」

「は?」


 掠っただけでも致命傷になりそうなあの銃撃が、ただの射撃ですって?

 わたしが訝しんでいると、ビリーがそのデバイスに関する知識を披露した。


「ドラグーンの名を関する銃型デバイス……。

 それは、ただの大きなオートマチック型ではなく、ハイパワーマグナム型と呼ばれるSAIデバイスだ」

「さすがは博識のビリー殿だ。ご存じでしたかな?」


 看破されたことにさして驚くこともなく、Mr.はうなずく。


「先史文明時代にあったパワードアーマーと称される、着た者の身体能力を大幅に跳ね上げる全身鎧。それを身につけた状態で運用するコトを前提として作られたと言われる大口径の銃型デバイス。

 その威力は通常射撃であって必殺と呼べるほどに高く、反面で反動が非常に大きいため、生身での運用は想定されていないデバイスだったはず。

 たしか竜鱗骸殻(ドラゴンスケイル)と呼ばれるパワードアーマーの使い手だけで構成された特殊部隊に配られてたんじゃなかったかな」


 淀みなくスラスラ歴史の話が出てくるのすごいな、ビリー!


「その通り。

 竜鱗骸殻(ドラゴンスケイル)を着た者でのみ構成されたその特殊部隊は竜騎隊(ドラグナー)と呼ばれ、彼らに配布されたのがこのドラグーン名を関するハイパワーマグナム型シリーズというワケですな。

 ドラグーン・ハウリングはその部隊の隊長用に作られた特別仕様だと、聞き及んでおりますぞ」


 ビリーの言葉を、Mr.が補足する。

 銃の由来とか歴史とか細かいことはどうでもいいんだけどさ……。


 一個だけどうしたって解せない疑問があるんだけど……。


 着ているだけで身体能力が大幅に強化される全員鎧。

 それを着た上で運用すること前提のハイパワーマグナム型と称されるSAIデバイス。


「Mr.……疑問なのだけど」

「何ですかな? レディ・シャーリィ」

「どうやって生身で撃ってるのかしら、そのデバイス」

「それは無論……」


 恐らくは、何らかの能力。

 デバイスそのもに付与されているのか、Mr.が保有しているものかまではわからないけど。


 教えてもらえるとは思えないながら、Mr.の答えを待つ。

 だけど彼が口にした言葉は――


「……気合いですぞッ!」


 ――わたしの想定から斜め上に鋭角だった。


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