1.閉じこめられた令嬢は優雅に華麗に脱出したい
新連載です。
今回は完結近くまで書き上がってるので、ほぼ毎日更新でラストまで行く予定です。
荒野と口笛と銃声のファンタジー。
好きな作品のリスペクトやオマージュ多めでお送りしたいと思います。
本日は連載初日なので4話まで更新予定。
だいたい1時間ごとに更新する予定です。
お読み下さった方々が、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ガタン、ガタン……とリズミカルに列車は揺れる。
今のわたしはその振動のリズムを楽しむ以外にやることがなかった。
なにせ今、わたしことシャーリィ・アスト・ベルは、閉じこめられているのだから。
だからどうしたと言われると困るけど、閉じこめられているんだから仕方がない。
場所は、王国周遊鉄道車内。走行中の列車の空き部屋の一つだ。
勢いのまま家出したついでに一等客室のチケットを買ったわたし。
無事に客室に乗車して、のんびり鉄道旅を楽しむはずだったのにッ!
あーもーッ、どうしてこうなったッ!?
いや、一等客室より遙か後方にある車両に行こうとした結果なんだけどね。
二等客室車両と三等客室車両の間にある売店車両のサンドイッチがおいしいって噂を聞いてたから、見に行こうと思っただけなのよ?
車両間の行き来は別に制限されてないしさ。
そしたら、途中の第二貨物車両で怪しい動きをする人たちを見ちゃって今に至るという……。
正規の警備員や騎士って感じでもなかったし、悪巧みに巻き込まれちゃったぽいよねぇ……。
……とまぁ、嘆いていていても意味がない。
前向きに、脱出とここへ閉じこめた連中への報復を考えることにしよう。
だけどそれ以上に、わたしの宝物にして愛用のリボルバー『マリーシルバー』は取り返したい。
ここへ放り込まれる際、護身用に携えていたナイフなんかと一緒に、取り上げられてしまったのだ。
敬愛する銃の師から、免許皆伝の折りに頂いた大切な銃なので、これだけは絶対に取り返す。閉じこめられたこと以上に、盗られたことが非常に腹立つ。
しかも、銃を奪ったリーダーっぽいあのクソ野郎……思いっきりお腹に蹴り入れやがって……ッ!!
今も痛いじゃない、ったく!
とはいえ、武器を取り上げられて閉じこめられてしまったとなると、あんまり手段はない。
ここは使われてない関係者用の荷物置き場っぽい。
使われている形跡がないだけあって、最低限の机と椅子と棚以外何もない。そして棚には何も置いてない。
スコップやピッケル辺りが置いてあれば話は早かったんだけど。
窓があるから外を見れるけど、どうせ乾いた大地と、風に舞う砂ぐらいしか見えないから面白味はない。そもそもこの辺りに緑豊かな土地は少ないわけだし。
それに、窓を開けたところで走行中の列車から逃げ出すというのは難しい。
あーもー、困った。
こうなると、扉を蹴破る以外に手段が思いつかないんだけど……。
とはいえ、こう……一応、田舎領地とはいえ貴族と呼ばれる家出身の人間としては、そんな淑女らしくない脱出方法というのは最終手段にしたいところなんだよね。
いやだってホラ、先日もパパとママの二人から『力業以外での解決手段をもう少し模索しなさい』って叱られたばっかりだし。
やっぱ淑女たるもの、思考を巡らせ、その場にあるモノを用いて華麗なる脱出劇を魅せた方が良いんでしょう?
そんなワケで、知恵を巡らせて脱出手段を考え始めたんだけど――
ドドン……!
「わわわわわ……ッ!?」
――何か思いつく前に、急に爆発音が聞こえて列車が大きく揺れた。
あまりに突然のことでバランスを崩したわたしは、そのまま扉の方へと吹っ飛んでしまう。
そうして扉に激突。
「痛ててて……」
身体をさすりながら身体を起こすと、わたしはなぜか部屋の外にいる。
扉、開いてるんですけど……?
「これ、カギ掛かってなかった?」
掛け忘れなのかわざとなのかは分からないけど、これはラッキー!
わたしは素早く立ち上がり、周囲を見回す。
すると、すぐ側に控えていたらしい、いかにもチンピラですと頭のてっぺんからつま先までの全てでアピールしているゴロツキっぽい人が姿を見せた。
胸元につけたセンスのない変な形のバッジが妙に目立つ。金色に輝いているし。
「ガキッ! どうやって扉を開けやがったッ!?」
「勝手に開いたのよッ!」
「嘘つくんじゃねぇッ!」
「嘘じゃないってばッ!」
こちらへと駆け寄ってくるチンピラ。
「それとッ!」
わたしを捕まえようと伸ばしてくる腕を、身を屈めて躱すわたし。
そして、チンピラの鳩尾へと、わたしは自分の肘をねじ込んでいく。
「ガキじゃないッ、もう十七よッ! 来年成人するんだからッ!」
「やっぱ……ッ、ガキじゃ、ねぇか……ッ」
最後に失礼なことを呻きながら、チンピラは意識を失う。
「むぅ、ガキじゃないし」
ほっぺたを膨らまし、わたしはうめく。
確かに同年代と比べると小柄だし、童顔だって言われるけどッ!
とりあえず今の戦闘で、三つ編みにしている砂金色の髪が手前に垂れてきたのでそれを弾いて背後に戻す。そのついでに気も取り直そう。
……はぁ。
「さて、どう動こうかしら」
素直に一等客席に戻るのが一番安全な気はするけれど……。
「でもねぇ……」
愛銃を取り戻すのは最優先事項ではあるんだけど、同じくらいさっきの爆発音と振動に関して気にした方がいい気がするのよねぇ……。
わたしが思案していると、前方車両の方から人がやってくる気配を感じる。
とりあえず、わたしは空き室に戻ると扉を閉めた。
扉には覗き窓みたいのが付いているので、そこから外の様子を覗くことにする。
「おいッ、誰にやられたッ!?」
「ちッ、連中……狙いは金や宝石と見せかけてアレかッ!?」
「かもしれねぇな。そうじゃなきゃこいつがここで倒れているワケがねぇッ!」
あー……もー……これはあれか。
なんかやばい連中がやばいブツをこっそり運んでる車両に当たっちゃった感じかぁ……。
一般客を悪党どもの抗争に巻き込むんじゃないってーのッ、ったく。
などと思っていると、リーダーっぽいチンピラの一人が覗き窓から覗いていたわたしをギロリと睨む。
わたしのお腹を蹴り飛ばしたのはコイツだ。
よく見るとこいつも妙なバッジをつけている。しかもさっきの奴よりちょっと豪華だ。チームのリーダーみたいなモノかもしれない。
「ガキッ、大人しくしとけよッ!」
言いながら、そのチンピラは扉を思い切り蹴飛ばしてきた。
足癖悪いなぁ……。
「そうすりゃあ死なずにすむぜッ! ま、娼婦になる覚悟くらいはしといた方がいいけどなッ!」
最後に下卑た笑みを浮かべながらそう言い捨てて、彼らは後方車両へと向かっていく。
去っていく彼らに気づかれないように、こっそり扉を開ける。
そして、背後から彼らの様子を伺うと――
「みーつっけたッ♪」
先ほど扉を蹴ってきた男の腰には、その粗暴さに不釣り合いな瀟洒なデザインをした白い銃が納まっている。
わたしの相棒マリーシルバーだ。
「それじゃあ、取り返しに行きますかッ!」
わたしは右の拳を左の掌にぶつけながら、気合いを入れて歩き出した。
お読み頂きありがとうございます。
1時間後に2話目を公開する予定です。
そちらも是非よろしくお願いします。