第5話 妖精女王の敗北(尿意)
昇降機が止まり、ブリジットは生まれたての子鹿のように、ヨタヨタと歩き出す。
(あぁああぁぁっ!? トイレっ! トイレ、トイレぇぇぇぇぇぇっっ!!)
もう野次も耳に入らない。入る余裕がない。
目指すは一番近い、格納庫のトイレ。
例えここの全員に、情けない姿で駆け込む様を見られようと、失禁という最悪の結果を回避するには、この選択しか残されていないのだ。
(お願いよぉぉっ! もう少しだけ、出ないでええぇぇぇぇっっ!!)
一目散にトイレへと向かうブリジット。
だが――
「そんなに急いでどちらへ?」
「くぅぅっ!」
ブリジットの前に、先に帰投した部下達が立ち塞がる。
「どきなさいっ! あ゛ぁっ!? じょ、じょぉかん、めいれぃよっ! あぁぁっ、早く……っ!」
精一杯の威圧。
だが涙目で、下腹を庇った弱々しい声では、少女達の嗜虐心を煽るだけだ。
「そんなこと言わないで、みんなに隊長の姿を見せてあげましょうよ」
「皆さん、『妖精女王』を一目見ようと集まったんですよ?」
「ほら、こっちこっち」
少女達はブリジットを取り囲み、格納庫の中央まで引きずっていく。
(な、なに、この子達……まさかっ、私を、ここでっ!?)
「嫌ぁっ、離してぇっっ!! はなしっ、あぁぁあぁっ!? ダ、ダメっ! 動かさないでっ! 揺れがっ、あぁっ!? も、漏れ……っ!」
最悪の想像が頭をよぎるが、余計な力を入れれば、即座に全てをぶちまけてしまう。
ブリジットはされるがまま、衆人環視の中に引っ立てられる。
「貴女達っ、こんな、ことをして、ただでっ、あぁあぁっ!? お、お願いっ! 今なら、なかったことに、してあげるっ! だ、だからっっ!!」
「えいっ」
「ああぁあぁぁあぁっっ!!?」
ジョォォォォォォッ!
少女の一人が、ほんの軽く、ブリジットの下腹を突く。
ただそれだけの刺激で、ブリジットの水門は簡単に浸水を許してしまう。
溢れ出た小水は、白いパイロットスーツの膝下まで濡らし、吸いきれなかった分がポタポタと足元に落ちる。
「もうやめてぇっ! 貴女達の辛さはわかったわよっ! トウコのタンクも増やして上げるっ! だから、早く、離してっ! 私を、トイレに行かせなさいっっ!!」
「なんか、まだ上から目線だね」
「さっすが女王様」
「もう一回いっとく?」
まだ上からの態度が抜けないブリジットに、今度は別の少女が指を突き立てる。
場所はもちろん、膀胱だ。
「や、やめなさいっ! やめてぇっ! 貴女達、絶対に、許さないっ! くぅぅっ!? ぜ、ぜんいんん、じょたいにぃ――」
「あん?」
――ドンッ!
「ん゛あ゛ぁはあ゛っ!?」
ジョォォォォォォォォッッ!!
「あ、やっちった」
ブリジットの物言いに苛立ったのだろう。
ちょっと突く程度のつもりだった彼女は、自分でも予想外の強さで膀胱を叩いていた。
想定外の圧力に、ブリジットの固く閉ざした出口が大きく開き、小水が勢いよく飛び出す。
ブリジットの足元には、はっきりと水溜まりができていた。
ジョォォォッ!ジョォォォォッ!
(あぁぁっ!? 止まらないぃぃっ! ダメよっ、絶対にダメっ! 私がっ、こんなところでっ、漏らすなんてっっ!!)
「嫌ああああああああああああぁぁぁっっ!!」
「ちょ、暴れんなっ!」
「きゃっ、おしっこかかった!?」
「離してええええええええええええええぇぇぇぇぇっっっ!!!」
それは、完全な失禁を前にした最後の足掻き。
ブリジットは、小水を撒き散らしながら、自身を取り囲む少女達を殴り、蹴飛ばした。
本来なら、生身の格闘術においても、ブリジットは少女達を遥かに上回るのだ。
行手を塞ぐ少女数人を排除し、ブリジットはトイレに向けて駆け出した。
「出るっ! 出るぅぅっっ!! もうっ、ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
いや、その様は、とても『駆ける』とは言えない。
両手で出口を抑え、腰を後ろに突き出しての、情けない内股走り。
しかも、バシャバシャと小水を零しながら。
(止まらないっ! おしっこ、止まらないっっ!!)
だが、それでもブリジットはトイレを目指す。
今溢れ出ている小水は、彼女のタンクに溜まった分の、精々2割程だ。
せめて、本格的な大放出は、誰にも見られないトイレの中で。
ジョジョッ!ジョォォッ!ジョォォォォッ!
(ダメぇっ! これ以上、出してはダメぇっ! 耐えるのよ、ブリジットぉっっ!!)
「あと、あ、あと少し、トイレ、お、おおしっ――あぁぁあっっ!!?」
人としての最低限の尊厳さえ半ば踏み躙られ、それでも、せめてと縋りついた最後の願い。
だが、それすらも、ブリジットは許されなかった。
一目散にトイレを目指すブリジットは、まさにその直前で、横合いから足をかけられる。
ブリジットに、バランスを保つ余力などない。
上体は投げ出され、顔面を守るため、本能的に、出口を抑えていた両手が前に出る。
世界がスローモーションで流れる中、ブリジット目は、自分の足を掬った悪魔の顔を捉えた。
――トウコ……っ!
「あぐぅぅっ!」
世界が速度を取り戻し、ブリジットが床に倒れ込む。
両手を前に突き、両膝を開いた四つん這いの姿勢。
そして――
「ダ、ダメええええええええええええええええええええっっ!! あああぁぁあああぁああぁあぁぁああぁあああぁあぁぁあっっっっ!!?!?」
浸水を止められず、それでも最後の大洪水だけは拒み続けたボロボロの下半身が、転倒の衝撃に耐え切れる道理はない。
盛大にシェイクされた膀胱の中身は、勢いのまま水門を突き破り、オーディエンスに向けて突き出された出口から迸った。
ジョォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!
「あ゛あ゛あ゛ああぁぁあぁああぁはああぁぁぁああぁあああぁぁあああぁぁああっっっっっ!!!!!」
ジュビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!
ブジュィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
ジョォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
溢れ出る濁流は、極薄のパイロットスーツなどあっさりと突き抜け、何も着ていないかのような勢いで、床を穿つ。
オーディエンスにとってはまさかの、少女達にとっては待ちに待った、女王の失態。
格納庫中の視線が、ブリジットに集まっていた。
「見ないでぇっ! 見てはだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!! あぁぁっ、嫌ああああああああああああああああぁぁぁっっっ!!!」
ジョォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
ブリジットは四つん這いの姿勢から動けず、滝のような失禁は、それから1分に渡り続いた。
尻を突き出し、家畜のように小水を垂れ流すブリジット。
金色の海に沈む彼女に、もはや威厳どころか尊厳の欠片もない。
『妖精女王』ブリジット・フラウディーナの権威は、今この時をもって砕け散った。
やがて、基地の上層部が我に返って止めに入るまで、惨めな『失禁女王』の姿は、衆目に晒され続けた。