第2話 ブリジット・フラウディーナという女
ブリジット・フラウディーナ、20歳。階級は少尉。
身長165cm、スリーサイズは上から94、57、91。
ウェーブのかかった長い金髪の美女で、ぴちぴちのパイロットスーツが浮き出させる暴力的なボディラインは、時に男性スタッフの手元を狂わせる。
その操縦技術は彼女が属する北米方面軍でもダントツのトップ。
全フェアリーズの中でも5本の指に入ると言われ、その威圧的な美貌から『妖精女王』などと呼ばれていたりもする。
そして彼女を語る上で必ず出てくるのが、排尿タンクの話題だ。
彼女は、排泄物が丸見えになる排尿タンクを『みっともない』と吐き捨て、決して着用しようとしない。
そして入隊からこの日まで、パイロットスーツを濡らしたことは愚か、我慢の仕草を見せたことすら、一度もないのだ。
ブリジットは、元は大企業の令嬢だ。
幼少期から、トイレに立ち辛い状況に慣れた膀胱と括約筋は、1,000mlを超える小水を押しとどめることができる。
そして、トイレもかなり遠い方で、半日程度の任務なら涼しい顔だ。
優秀さと責任感、ついでに排尿タンク要らずという夢まで備え、常に自身を厳しく律する彼女だが、その厳しさは、頻繁に他人にも向けられる。
今日のトウコの件でもそうだ。
本来なら、隊長として彼女の体質に配慮し、予備のタンク数本の支給を申し出るべきなのだが、
排尿タンク自体に嫌悪感を示す彼女は、トウコに我慢を強要し続けてきた。
正論ではあるのだが言い方がキツく、しかも相手の事情も無視して自分と同じ水準を要求する彼女は、部隊の者達から大いに煙たがられていた。
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「トウコの様子……どうだった?」
「ダメね……今は泣き疲れて寝てるとこ」
休憩室に集まる少女達が、口々にトウコのことを心配する。
トウコはあの後、仲間の少女達に支えられて部屋まで戻ったのだが、シャワーを浴び、清潔な寝巻きに着替えた後も、泣き声が止むことはなかった。
失禁のショックもだが、やはりブリジットの辛辣な言葉が、深く心に突き刺さっているのだ。
「隊長も、あんな言い方しなくたっていいのに……」
「ああゆう人は、他人の気持ちなんて考えもしないのよ」
「トウコのこともだし、あんな大勢の前で排尿タンクの話、しないでほしいよね」
話題の中心が、トウコの心配から、ブリジットへの批判に移っていく。
「あぁっ! 思い出すだけで腹立ってきた! 何が『どうせ無様を晒すなら、せめて目の前ではさけることね』よっっ!!」
「イルマ落ち着いてっ! どうどう!」
「ふーっ! ふーっ!」
イルマと呼ばれた少女が、鼻息荒くがなりたてる。
その顔は真っ赤に染まり、目に涙を浮かべていた。
彼女は、長時間任務でタンクの使用を躊躇い、我慢に我慢を重ねた末、男性スタッフの前でタンクを『使用』してしまったことがある。
真っ赤に泣きはらすイルマの前に現れたブリジットが、彼女にかけた言葉が先ほどのそれである。
その日、イルマは夜が明けるまで、ベッドの中で泣き続けた。
排尿タンクのことで、ブリジットから理不尽な叱責を受けるパイロットは、彼女だけではない。
トウコに関しても体質の問題で、膀胱の大きさや括約筋の強さからくる我慢強さは、ブリジットに遜色ないレベルなのだ。
「じゃあさ……気持ち、わかってもらう……?」
おずおずと切り出した少女に、全員の視線が集まる。
「うちさ、小さいけど製薬会社やってるんだよ。そこでね、高血圧の薬とかも、作ってたりするんだ」
「それって……」
高血圧の治療薬はいくつかあるが、血管を広げ、体内の水分を減らして血圧を下げる目的で、利尿剤が使われることがある。
「でも、どうやって飲ませるの? あの人、私達が用意した物なんて飲まないわよ?」
「それについては、もう考えてる。みんなにも、ちょっと負担があるんだけど……」
「なるほど……だったら、整備班の子達にも協力してもらおう。私、声かけとくよ」
「うん、お願い!」
あれよという間に固まっていく、少女達の計画。
止めようとする者など、誰一人いない。
「ちょっと、楽しみになってきたね」
「ええ、絶対に思い知らせてやるんだから!」
「機体降りるまで、どうなってるかわからないのが残念だけど」
「最後まで我慢されたら、どうする?」
「好都合よ。格納庫のみんなの前で、盛大にやってもらいましょ。男共も大喜びよ!」
そこにはもう、失意の仲間を心配してた優しい少女達はいない。
誰もが、哀れな獲物を前に、怪しい笑みを浮かべていた。