第1話 鋼鉄の妖精達
「F4! 3時方向警戒!」
『了解!』
銀色の機体が夜空を舞い、手にした24mmマシンガンが唸りを上げる。
20体いた敵生物も残るは2匹。
勝利は、すぐそこまで来ている。
『あ、あのっ……あのっっ!!』
「どうしたの、F7!?」
そんな中、少女の一人が切羽詰まった声を上げる。
『私、あのっ、少しだけ、隊列を離れても、よろしいでしょうか……!?』
「何を言っているの!? 今は戦闘中よ!」
普通に考えれば非常識な願いに、隊長の女性は非難の色を隠さない。
『で、でも、私、もうタンクが一杯で……っ……我慢の方も……限界……っ!』
『F7』と呼ばれた少女の腰には、一滴の隙間もない程に、金色で満たされた容器がぶら下がっており、その腰はブルブルと絶え間なく震えていた。
「後になさい! 敵は後2体なのよ!」
『で、でも私っ、もうっ、我慢がっ! ああぁっ!?』
「F7っ!?」
そんな、集中力を著しく欠いた状態が、隙になったのだろう。
F7の機体は敵生物の突進を受け、見る見る高度を落としていく。
幸い、機体の損傷は軽微。
敵も、すぐに隊長機が単分子カッターで引き剥がし、事なきを得た、が――
『ああっ!? 嘘っ、嘘っ!? あ、あ、あっ!』
中の少女にとって、この衝撃は致命的なものとなった。
『あぁあああああああぁぁああぁああああぁあぁぁぁあああぁぁああぁぁあぁあぁぁぁぁっっっっっ!!!!!』
――バシャバシャバシャバシャバシャバシャ……。
F7のコックピットに、少女の断末魔と水音が響く。
通信機越しにその音を聞いた部隊長、ブリジット・フラウディーナは、心底情けないと言わんばかりの、大きなため息を吐いた。
――――――――――――――――
西暦25XX年。
人類は突如現れた巨大生物群『怪獣』により、滅亡の危機に晒されていた。
熱や冷気に対する強い耐性と、脅威的な修復力を持つ怪獣に対し、人類は『肉弾戦による急所の一点破壊』を余儀なくされる。
その為に製造されたのが、人型兵器『アルバトロス』。
防御力と機動性を両立させたボディは、全体的に華奢で丸みを帯びており、大きなツインアイと合わせて、アニメや漫画に出てるくる女性型ロボットを連想させる。
生体リンクにより、各種制御をパイロットの感覚に合わせて調整しており、リンクユニットとの相性の関係で、パイロットには17~21歳の、若い女性の割合が非常に多い。
ボディラインをハッキリと浮きただせる、薄手のパイロットスーツを身に纏った彼女達は、人類の希望『妖精達』と呼ばれた。
「ハッチ開けます」
「うわぁぁ……」
「大丈夫……?」
「はぁ……」
そんな、期待と羨望、そして熱い視線が集まるフェアリーズ。
だが中には、そんな夢を壊してしまう存在もいる。
「うっ……ひっく……ひぐっ……うぁぁっ……!」
大惨事になったコックピットで啜り泣くF7――トウコ・ヤシマもその一人だ。
腰のタンクは金色の液体で満たされ、下半身とコックピットは水浸し。
彼女は、コックピット内で失禁していた。
高負荷の機動や、敵の攻撃による衝撃、長時間の作戦行動など、パイロットがコックピットでの排尿を余儀なくされることは、少なくない。
そのため、彼女達のパイロットスーツには、概ね500ml分の排尿タンクが2つ備えられている。
本来なら、5~6時間の任務でも問題はないはずの容量なのだが、極度の頻尿体質であるトウコは、
3時間の任務で、合計1,000mlを満タンにし、最後に残った『体内のタンク』の容量も超え、外に溢れさせてしまった。
心配そうな表情を浮かべる仲間達の中、ブリジットは心底呆れ返った視線を向ける。
「貴女……これで何度目かしら? 人類の希望を背負うフェアリーズの一人として、情けないとは思わないの?」
トウコがコックピットを濡らすのは、これが初めてではない。
既に彼女が配属されて2回、愛機のコックピットは分解洗浄を余儀なくされ、シートの清掃と消臭に至っては、もはや数え切れない。
その度に、ブリジットは彼女に厳しい言葉を浴びせ、トウコは只々泣き続けた。
「隊長! そんな言い方しなくたって!」
「そうです! トウコだって、体質と戦いながら、いつも頑張ってるのに!」
そんなブリジットの態度は、やはり反感を買うもので、隊員達は口々にトウコを擁護する。
「その結果が、その無様な姿でしょう? そもそも貴方達だって、排尿タンクに頼っている時点で、フェアリーズとしては如何な物かと思うわ。 そんな、汚物を人前に晒して……!」
ブリジットの言葉、数人の少女が歯噛みし、顔を赤らめる。
彼女達に与えられる排尿タンクは、付け替えタイミングの確認等のため、中身が見える透明な物になっている。
つまり、出したものが丸見えになってしまうのだ。
年頃の少女である彼女達は、極力タンクの使用は控えようとするが、それでも長い任務の際には、堪えきれず2本目に突入してしまう者も少なくない。
「とにかく、早く降りることね。清掃スタッフは、今からそこの分解洗浄をする羽目になったのよ? せめて、待たせるようなことは、しないでちょうだい」
その一言を残し、ブリジットは格納庫を後にした。
泣き崩れするトウコ。
部下の少女達は、明確な非難の視線をブリジットに向ける。
その視線を浴びるブリジットの腰には、一つの排尿タンクもぶら下がっていなかった。




