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ご縁

作者: うつうつら

しゃべり声がする。

まただ。またあの男が来ている。


最近、家を訪ねては母をたぶらかして、私を母から遠ざけようとする。

十数年間で築かれたこの深い愛を引き裂こうという者が。


不快でたまらない。

そして、そいつは私を見るたび嫌な顔をして睨み付け何も言わずに帰って行くのだ。

男を見送った母は嬉しそうな顔でいつも決まってこう言う「ご飯にしましょ」と。


その顔を作ったのが私では無く、あいつだと思うと腹立たしい。

しかし、同時に安心もしている。私のほうが過ごしてきた時間と密度が濃いからだ。



母とは私が三つぐらいの時からずっと一緒だった。

あの薄暗い施設の中から連れ出してくれて、当時こそ反抗もしていたが負けずに構ってきてくれた。


私のことをラフと呼んで。


部屋は彼女の好きな緑色でいっぱいになった。

緑は嫌いではなかったし、何より彼女の喜びが嬉しかったから文句は出さなかった。

いつの間にか私も彼女の色に染まっていたのだ。だからだ。



しかし、おかしい。

母の様子がいつもと違う。


今日も男がやってきてしゃべっていたが言い合いになっていた。

私はいい気味だと思って内容は聞かなかった。

しかし、男は帰り際に間違いなく言った「お前がいなければ」と。


え?


そして母はいつもと違って暗い顔をしていた。

また、いつもと同じ台詞も言わなかった。何があった。


瞬く間に焦りが全身に広がる。立ち止まってはいられないほどの不安だ。

それから母は食卓でもしゃべらなくなり、布団に潜ってため息をつくことも多くなり、私との食事もしばしば忘れるようになった。


取られる、いなくなる、奪われる。怖かった、恐ろしかった。

あの男が怖いわけではない。悩んでいる母が私にとって一番の恐怖だった。



だから、やった。



あの男の首を体で巻き付き締め上げて、ガブリと噛みついた。

私の目は完全に緑一色だった。



結果的に言えば奴は助かった。

搬送先の病院で一命を取りとめた。


わかっていた。すんでの所でわざと急所を外したから。

奴を殺すまでには至らなかった。私の嫉妬は致命的な量までには達しなかっただけのこと。



そして、私は今、母と知らない藪の中。

散歩しながらの最後の会話、楽しまなければ。


奴は蛇が大嫌いだと、あんなのと一緒には暮らせないと怒鳴っていたそうだ。


だからか、納得である。


母は私を檻に入れたまま別れを告げた。

一面緑の世界の中、消えるまで母の姿を見つめていた。



そして私は、この檻の出方をもう知っている。


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