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8.

「いいよいいよ、そんなに気を遣わなくて」


「こいつらもそう言ってるんだから、わざわざ出さなくてもいい」

 フレドリックは腕を組む。


「では、オリンさま。お茶は私が飲みたいから淹れます。それのついでです。それでしたら、何もわざわざではないですよね。ついで、ですから」


「まあ、ついでならいい」


 エドアルドは二人のやり取りをみていたが、あのフレドリックがミーナに言いくるめられているという状況が面白かった。彼らがいなかったら大笑いしたいところだ。お腹が苦しくて、トファーの方に視線を向けると、どうやら彼も同じように思っているらしい。笑いをこらえようと肩を震わせている状況がよくわかる。


 カシャンと音がした。どうやらミーナがバランスを崩して、テーブルに手をついたようだ。


「おい」


「すいません、ちょっと目の前が暗くなって」


「いい、私がやる」


「オリンさま、お茶を煎れることができるのですか?」


 とうとう、エドアルドとトファーが吹き出した。そんな二人をジロリと睨みつけながら、フレドリックはミーナよりティーポットを奪い取った。

 乱暴に茶を淹れると、乱暴に二人の目の前に置いた。乱暴に置いたために、数滴お茶がこぼれた。


「茶だ。それでも飲んだらさっさと帰れ」


「酷いな。また何も用事が済んでいない」

 エドアルドはカップを手にした。せっかくフレドリックが淹れてくれたのだから、飲まないと罰が当たるというものだ。


「うん、まずいな」


「だったら飲むな」


「お茶菓子もどうぞ」


「こいつらに茶菓子も出す必要などない。もう帰るんだからな」


「では、私がいただきますね」

 ミーナはフレドリックの隣に座りながら、ニッコリと微笑んだ。


 エドアルドはまずい茶をすすりながら、半日、むしろフレドリックが起きてきてからだと数時間だろう、しか一緒にいないはずなのに、この二人の距離の近さが気になっていた。かなり、気を許している。フレドリックが。


「それで、団長とトファーさまはどのようなご用件ですか?」


「そうだそうだ。あまりにも面白くてつい忘れてしまった」

 トファーは腰ベルトに挟んでいたそれをテーブルの上においた。「ほらよ、ドラゴンの角。お前、欲しがっていただろう?」


「あ、ドラゴンの角!! あのときの、レッドドラゴンの角ですよね?」


 ミーナはそれを手に取り、縦から横から斜めからと角を眺めている。「ものすごく程度がいいじゃないですか。お宝ですよ、これ」


「うん。そう思っているのはお前だけだから、遠慮なくもらってくれ」


「では、遠慮なくいただきます」


「ああ」

 トファーは口元を手で押さえた。


「トファーさま。どうかされましたか? そんなにオリンさまのお茶がまずかったのですか?」

 ジロリとフレドリックが睨んだ。


「いや、違う。お前はお前だって思ったら、ちょっと嬉しくなった」


「何を言ってるんですか、私は私ですよ」


 ミーナはドラゴンの角を大事そうに、隣に置いた。フレドリックとの間に。


「これは、何に使うんだ?」

 その角をフレドリックが手にする。同じように縦横斜めからそれを見る。


「はい、魔導武器を作るのです」


「魔導武器? お前は魔導武器も作ることができるのか?」


「はい」


「なんだよ、フレド。お前、知らないでこいつを預かったのか? ミーナは魔導騎士でありながら魔導武具師だぞ?」


「そうなのか?」


 ミーナは頷く。


「だが、お前が作った魔導武具はお前しか使えないのではないか?」


「そうなんです」

 ミーナはいきなり両手でフレドリックのその右手をとった。「ですから、オリンさまに魔法付与について教えていただきたいのです」


 ミーナがぐいぐい迫ってくるものだから、フレドリックはちょっと下がる。だが、ソファに座っているから思ったよりも下がれない。このままではミーナに襲われそうな勢い。


「ミーナ。フレドが引いてる」お茶をすすりながら、トファーが言った。「相変わらず、まずいな。冷めたから、余計にまずい」


「あ。お茶を淹れますね」

 ミーナは立ち上がり、お替わりのお茶を淹れた。


「うん。こっちは美味いな」

 エドアルドが満足そうに頷いた。


「そういえば、団長。トファー様に、私のことは伝えてくださったのですか?」


「ああ、明日からの訓練のことだろう? 言った」


「聞いた。ミーナならいつでも大歓迎だ」


「ありがとうございます」


 なんのことだ? とフレドリックはミーナに視線を向ける。


「あ、はい。騎士団の訓練の方に混ぜていただこうと思いまして」

 ピクリとフレドリックの眉が動いた。面白いことになるぞ、とエドアルドは思った。


「騎士団に戻るのか?」


「いえ、そういうわけではございません」


「だったら、なぜ騎士団に混ざる?」


「えっと」

 ミーナはものすごく言いづらい。フレドリックがお昼前まで寝ているせいで暇だから、とは言えない。


「お前が昼前まで寝ているからだよ。ミーナだって魔導士団にきたばかりなんだから、一人で何をやったらいいかわからないだろ?」

 エドアルドが言った。

「だったら、他の魔導士で面倒をみればいいだろう?」


「それが面倒だから、お前に任せたんだろ?」


「だったら、お前がみたらいいじゃないか」


「だから、おれがみれないからお前に任せたんだ」


「ということのようですので、お世話になります。トファーさま」


 ミーナは頭をペコリと下げた。


「お前が訓練に混ざってくれると、こっちも助かるから、全然問題ない。むしろ今日の訓練なんか、覇気がなかったくらいだな」

 トファーはお茶をすすった。「お。こっちは美味いな。で。お前は今日、何をしてたんだ?」


「えっと。掃除、ですかね? あとはお昼ご飯の準備を少々」

 顎の下に右手を添えて、顔を傾けた。


「おいおい、エド。ミーナを雑用のために預けたわけじゃないぞ?」


「まあ、掃除は必要だろ? 今、俺たちがこうやってここに座っていられるのも彼女のおかげだ」

 エドアルドはふふんと鼻で笑いながら、お茶をすすった。「うん、やっぱりこっちは美味いな」

 ふん、とトファーは腕を組んで足を組んだ。


「で、用事が済んだなら、とっとと帰ったらどうだ?」

 フレドリックが低い声で言った。「そろそろ私も研究に戻りたいのだが」


「相変わらず冷たい野郎だな」

 トファーが立ち上がった。「ミーナ、明日から訓練に混ざれよ。時間はいつも通り。場所もいつも通り」


 ミーナも立ち上がり「承知いたしました」

 トファーの背中を見送る。


「じゃ、俺も戻るか。ミーナ、悪いが後で書類を取りに来て欲しい」


「ついでに持ってきたらよかったのではないか?」


「トファーがあまりにも慌てていたからね。忘れた」

 エドアルドもすっと立ち上がった。「じゃ、ミーナ。悪いけどフレドのことは頼んだよ」

 ひらひらと肩越しに手を振る。


「はい」

 ミーナは返事をした。

 エドアルドの背中も見送った後、ミーナはテーブルの上を片付ける。


「オリンさまはもう少しお茶を飲まれますか?」

 そう尋ねただけなのに、ジロリと睨まれてしまった。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。


「お前は、騎士団に戻りたいのか?」


「へ?」

 と、本当に口の形をへにしてしまった。しかもテーブルを片付けようとしていたので、中腰の変な恰好。

「そうですね。私、魔力が弱いですから。ずっと魔導士団というわけにはいかないと思うのです。いずれは騎士団に戻ることになるのかと思っているのですが」


「まあ、そうだな。正式な所属は騎士団になっているからな。私が聞きたかったのは、今すぐに騎士団に戻りたいのか、ということだ」


「今すぐ、ですか?」

 中腰のまま考える。「まだオリンさまから何も教えていただいておりませんので、今すぐということはあり得ないですね」


 今すぐ騎士団に戻ったら、今日この部屋を掃除しただけ損だし、何よりも前回のドラゴン討伐時の扱いが大損だ。


「そうか」

 フレドリックは呟くと、読みかけの本を手にした。「お茶を淹れてもらえるか?」


「はい」

 ミーナは元気よく返事をしてテーブルの上を片付け、フレドリックのためにお茶を淹れた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

まだ続きます!!

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