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5.

「おい、フレド。そろそろ放してやれ」


 右手と左手、一枚ずつ皿をもったエドアルドが戻ってきた。


「お前の部下だろ。あまり怯えさせるな」


「おい。だから、こいつはなんなんだ」

 フレドリックはエドアルドを見上げる。エドアルドはそれには答えず。


「ミーナ。悪いが、詰めてくれるか?」

 と、せっかく空けていたスペースをミーナ自身で埋めることになってしまった。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。うわ、お肉だ」


「何、肉も食べられないくらい貧しいのか? 騎士団は」


「遠征中は干し肉だったので。厚みのあるお肉が恋しかったのです」

 エドアルドが声を出して笑うと、他の団員達の視線が一気に集まった。

「ああ、悪い。ミーナ、君は面白いな」


「そうですか?」


「おい、エド。俺を無視するな」


「あの、私、お邪魔でしたら移動しますけど」


「邪魔ではない。できればそこにいて欲しい。俺がフレドの隣に座るのは耐えられない」

 挟まれている私の方は居たたまれません、とミーナは心の中で呟く。

 フレドはあきらめたのか、腕を組んで深く座り直した。ただ、その視線はミーナの右手首をしっかりと見ている。


「団長、こちらの女性はどなたですか?」

 団員の一人が目ざとくミーナを見つけて、声をかけてきた。

「ああ、紹介は後日行う予定だが。数日前に魔導士団預かりとなった。今回の討伐から同行してもらっている」


「そうなんですね。私は魔導士団副団長のシルヴァン・ベトロ。以後、お見知りおきを」

 ミーナはすっと立ち上がり。

「ミーナです」


「ミーナ?」


「騎士団から話があったやつだな」


「あー。魔導騎士の? ってことはさっきのドラゴンの?」


「そうだ」


「化けましたね」

 シルヴァンの言う化けたの意味がミーナには理解できなかったが。


「団長。せっかくだから、今、皆に紹介しましょうよ」


「食事が終わればすぐに発つ。正式な挨拶は後日でいいだろう。それに」

 と言って、視線を向けた先にフレドリック。

「彼女は、フレドの下につく」

 シルヴァンは、フレドリックがそこにいたことにその言葉で気付いたらしい。さささと後ずさりして、その場を去っていく。

 ミーナは最初にエドアルドが言っていた言葉の意味を、これでなんとなく理解した。


「ミーナ。魔導士団は騎士団とは違う。魔導騎士というだけで、君を異端の目で見る者が多い。だから、集団の訓練には参加させたくない。そのためのフレドだ」

 どのためのフレドリックなのかは、いまいち理解しきれていないが。

「お気遣い、ありがとうございます」

 ここでミーナはトファーの言葉を思い出す。魔導士団はインテリ貴族様の集まりだから、騎士団と勝手は違うぞ、と。

 ちらりとフレドリックに視線を向けてみたが、彼はじっとミーナの右手を見ていたままだった。

 腹ごしらえが済んで少し休むと、また馬車での移動となる。そして相変わらずミーナはフレドリックと二人きりで馬車の中。ところが、先ほどよりも気まずい雰囲気にならなかったのはフレドリックがミーナの腕輪に興味を示しているからだ。

 貸してほしいと言われたので手渡したところ、質量保存の法則がどうのこうのとか言い出し、私でも剣を呼び出すことはできるのか? とか聞いてきたので。


「多分、オリンさまが使われると、ただの腕輪になるかと思います」


 と答えたため、フレドリックは本当に腕輪をはめてみた。だけど、やはりただの腕輪だった。


「だったらお前がやってみろ」

 ミーナは腕輪を返してもらい、それを右手にはめ直した。フレドリックの熱がそれに残っていてじんわりと伝わってくる。それでもいつものように腕輪を左手で包み込むと、そこから片手剣の魔導剣を取り出した。


「どうぞ」

 と剣を差し出すと。フレドリックは腕を組み。

「いらん。なんなんだ、お前は」

 彼のムスッとした顔が、より一層ムスッとした。

「すいません」

 言いながら、その魔導剣を腕輪の中へとしまう。


「だから、質量保存の法則を無視している」

 フレドリックの呟きに、ミーナは「しつりょうほぞんのほうそく?」と言い返してみた。彼の目はバカか? と言っているように見えた。


「魔法の前後で、物質の質量はかわらん、ということだ。我ら魔導士が使う魔法はそういう法則で成り立っている。魔法だって万能ではないからな。無いものから作り出すことはできない」


「へー。そうなんですね? では、先ほどの氷の魔法というのは」


「この気中にある水分を凝縮し、それを瞬間的に凍結させる」


「では、炎の魔法は?」


「お前はものが燃えるための条件を知っているか?」


「知りません」

 また、彼の目はバカかと言っているように見える。


「燃えるためには三つの要素が必要だ。簡単に言えば、燃えるものと熱と酸素。それを元にして魔法で火を起こす」


「その要素はどこにあるんですか?」


「いたるところにある。質量保存の法則さえ守れば、モノを移動させることは魔法で可能だ。この移動範囲が広げれば広いほど、魔力が強いと定義されている」


「人の怪我を治す回復魔法は?」


「本人の治癒能力を高めるだけだ。だから魔法で治せない怪我だってある。魔法が万能であれば、今頃、皆不死だ。死んだものを生き返らすことはできん」


「ドラゴン討伐のときに、団長から防御の魔法をかけていただきました。それで、素早く動けるようになりました。それは?」


「お前の身体能力を瞬間的に高めただけだ。その後、反動が来るはずだ」

 だから、寝たのか? とフレドリックは思った。だが、それは口にしない。


「あ、はい。魔法についてはなんとなくわかりました」


「だが、私に納得できないところがある」

 また、フレドリックの鋭い視線が向けられた。ミーナはその視線を受け止めることができず、横に流した。


「その質量保存の法則を無視しているお前の魔法だ。剣はどこにいった?」


「多分、腕輪の中に」


「それで、腕輪の重さはかわるのか?」


「いえ、かわりません」


「それがおかしい。腕輪の中に入ったのであれば、その腕輪に剣の重さが加算されるはずだ」


「ええと、もう一度持ってみますか?」

 ミーナは腕輪を外して、フレドリックに渡した。彼はそれを受け取り、四方八方十六方から眺めた。だが、ただの腕輪。


「完全に無視しているな。これは、やはり面白い」

 フレドリックは何やら腕輪を見つめながら考え込んでいる様子。それを見ていたミーナは会話が途切れたことで、また瞼が重くなってきた。


「そう言えば、北の大陸に……」

 と言い出したフレドリックの話は、ミーナの耳には届いていない。というのもお腹いっぱいになったミーナは、瞼の重さに耐えきれず寝ていたからだ。突然寄り掛かってきた彼女の身体を、フレドリックは支えた。

 また寝たのか? と思い、彼女の頭を自分の膝の上にのせた。

 非常に面白く、興味深い女だ、と思っていた。


「おい、休憩だぞ」

 エドアルドがなかなかおりてこない二人にしびれを切らせて、また中を覗いてみると。二人仲良く寝ている姿が目に入った。フレドリックは寄り掛かり腕を組んで目を閉じている。ミーナは先ほど同様、フレドリックの膝を枕に。

 懲りない女だなと思いつつも、こうやって警戒心を抱かないフレドリックが珍しいなとも思っていた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

ブクマ・評価もありがとうございます。

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