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4.

 気まずい。

 この馬車の中で二人きり。そしてなぜ、フレドリックと並んで座らなければならないのか。でも、正面に座って視線のやり場に困るよりはまだマシなのかもしれない。少し触れる右側の肩からフレドリックの体温を感じる。

 その体温が心地よくて、眠りに誘われてしまうミーナ。そもそも騎士団は、今日はウルセライに一泊する予定だったのだ。馬を走らせ、野営をし、そしてドラゴン討伐。討伐後くらいはゆっくり休んでから帰らせたい、というトファー団長の心遣いとウルセライの民の好意により、ウルセライで一泊できることになっていた。はずなのに。行きは騎士団、帰りは魔導士団というのは、一番損をしている組み合わせではないのだろうか、と思わずにはいられなかった。


 さらに瞼が重い。無理やり開けているが白目になりそう。それに気付いているのかいないのか。フレドリックが声をかけてきた。


「おい、手を出せ」


 半分、白目になっていたと思う。声をかけられ、ミーナは無意識のうちに肩をピクリと震わせてしまった。

 恐る恐る左手を差し出すミーナ。


「両手だ」


 ミーナは右手も差し出す。その手をフレドリックがとり、見つめる。


「タコだらけだな」

 ふっと、笑われたような気がする。だが、フレドリックは鉄仮面と言われているくらい、表情が乏しい。だから多分、ミーナの気のせいだろう。

 ミーナのその両手はフレドリックのそれに包まれた。小さな彼女の手はすっぽりとフレドリックの手に覆われている。その手から熱が伝わってきて心がポカポカとしてきた。そのポカポカが全身にいきわたり、ミーナは再び白目になりそうになった。

 フレドリックは一体、何をしているのだろうか。

「おい」

 フレドリックが声をかけると、ミーナの身体は崩れ落ち彼に寄り掛かってきた。

「おい」

 もう一度声をかけるが、彼女はピクリとも動かない。フレドリックの膝を枕にして目を閉じている。彼は、ちっと舌打ちをする。

 先ほど、フレドリックはミーナに魔力を送ってみたのだ。彼女のクソ弱い魔力が気になったから。クソ弱くても何かしら反応があると思っていた。だが、フレドリックが送った魔力は、ミーナの魔力に吸収されてしまった。魔力を吸収する。だからクソ弱いのか、と思った。そう思ったときには彼女は気を失っていた。

 馬車が止まった。多分、休憩だ。だが、フレドリックは降りることができない。腕を組み、寄り掛かっていることしかできない。


「おい、フレド。休憩だぞ」

 なかなか降りてこない彼が気になったのだろう。エドアルドが馬車を開けた。

「で、何をやっている?」


「見てわからないのか?」


「ああ、俺にはお前がいちゃついているようにしか見えない」


 フレドリックはそれに大きく息を吐いた。


「なぜそうなる。これが邪魔で降りることができないだけだ」


「起こせばいいじゃないか」

 言うと、エドアルドは馬車の中に乗り込んできて、ミーナの肩をゆすった。

「おい、ミーナ。起きろ。休憩だ」


 パッと目を開ける。さすが、騎士団仕込み。


「あ、団長。どうかなさいましたか?」

 頭をフレドリックの膝の上にのせたまま、ミーナは問いかけた。


「いや、だから休憩だって。なかなか降りてこないから呼びに来た」


 ミーナはゆっくりと身体を起こす。そして、近くにフレドリックの顔があったことに気付いた。


「あの、オリンさま。私は今まで一体何を?」


 フレドリックはジロリとミーナに視線を向けた。この視線が怖い。


「フレド。ミーナが怯えている」


「何か、失礼なことを?」

 ミーナの声はやや震えている。


「大丈夫大丈夫。失礼なことなんてしてないから。君は、フレドの膝を枕にして寝ていただけ」

 血の気が引く、という表現が合っていると思う。彼女の顔色がかわった。


「たたたた、大変申し訳ございません」

 また、ミーナは土下座する勢いだ。フレドリックは、気にするなと言って立ち上がった。

 へえ、珍しいというエドアルドの声が聞こえた。


「ミーナ。休憩。お腹空いたよな。それから、悪いけど着替えてくれるか? それじゃ目立からな。服は準備してある」

 指摘され、騎士服のままであったことに気付いた。

 ミーナは馬車から降りるときに、先に降りていたエドアルドから手を差し出された。初めての経験です、と言うと、手をとればいい、と言われた。


「ミーナ様」

 女性の声で名前を呼ばれた。

「エドアルド様から、着替えを手伝うように承っております」

 ミーナ様と呼ばれるとどこかのお姫様にでもなったような気分だ。

「あの、私、そんな大層な人間ではございません」


「ですが、魔導士団の方ですので」

 侍女と思われる女性がミーナを安心させるかのようにニッコリと笑った。


「あの、ここはどこですか?」


「エドアルド様の治めている領地になります。ですから遠慮なさらずに」


 やはり魔導士団の団長はどこかの貴族様だったのか、と思う。

 ミーナは建物の裏口から案内された。エドアルドの言葉を借りるなら、目立つからだそうだ。そのまま二階へと向かう。その二階の一室で着替えるらしい。

 ミーナは騎士服から魔導士用のローブに着替えた。

「髪の毛もおろしますね」

 高く一つに結んでいた髪もおろされ、ハーフアップにされる。プロの侍女の手にかかればお手のものらしい。

「とてもお似合いですよ」

 鏡の中にうつるミーナはミーナの知っているミーナではなかった。赤いローブにおろした黒髪が映える。


「エドアルド様たちがお待ちです」


 下に降りていくとそこは食堂になっていた。多分、この建物が食堂なのだろう。二階は休憩所のようなところ。


「エドアルド様。ミーナ様をお連れしました」


「ありがとう。ミーナ、そこに座りなさい。食べ物、適当にとってきてあげるから」


 エドアルドが指し示すそこは、どう見てもフレドリックの隣。彼はゆったりとソファに座って、何か飲み物を飲んでいる。


「あ、いえ。私自分で行きます」


「ああー。そうだな。まぁ、さっきも言った通り君はこの件の功労者だから。顔がバレるといろいろ面倒くさいんだよ、俺が。それに、そこね。誰も座らないから。ミーナが座ってくれると助かるし、面倒くさい奴らもこないと思う」

 エドアルドは苦笑というか楽しそうな笑みというか、なんとも表現し難い笑みを浮かべていた。


「あ、はい。では失礼します」


 ミーナはフレドリックの隣に、人一人分座れるスペースを空けて座った。エドアルドは満足そうに頷くと、何か食べ物を取りにいった。


 隣に座るフレドリックにちらりと視線を向けると、長い足を投げ出して、やはり飲み物を飲んでいる。その視線に気付いたのか、フレドリックと目があった。


「なんだ?」


「いえ、なんでもありません」


 慣れない。気まずい。どうしよう。と思ったときに、フレドリックに右手を掴まれた。


「これは、なんだ?」


 フレドリックは、ミーナの腕輪を目ざとく見つけたらしい。そこから微妙に流れ出る魔力を感じ取ったのだろう。知らない人が見ればただの腕輪。フレドリック級の魔導士が見れば、気になる腕輪。


「あ、あの。ここに魔導剣をいれています」


 知らない人が聞けば、何を言っているかわからないだろう。だが、フレドリック級の魔導士はそれの意味を知っている。彼はその腕を放そうとはしない。じっと腕輪を見つめていた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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