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31.

「おい、エド。何を言ってるんだ」


 フレドリックがつかつかと歩いてきて、エドアルドとミーナの間に入り込む。それは背中で彼女をかばうように。


「彼女は私のものだ」


「それは、わかってる」

 エドアルドは思わず吹き出してしまった。あのフレドリックがはっきりとミーナを自分の所有物であるかのようなことを口にしたからだ。


「わかってる、だと?」

 フレドリックが眉毛をピクリと動かした。


「ああ」

 エドアルドは楽しそうに笑っている。


「あの、えっと。団長、どういうことでしょうか?」

 フレドリックの背中から、ひょこりと顔を出したミーナ。もちろん、その表情は困惑。


「うん。ミーナ、俺たちの養子にならないか?」


「養子? 養子ってことは、その、団長と親子関係になるってことですよね?」


「うん、そうだね」


「え、え? 団長と親子?」


「それ、そんなに驚くところ?」

 エドアルドは右手を振って、ミーナの後ろにいた女性を呼んだ。彼女はミーナが「先生」と呼んでいた女性。


「俺の嫁さんね」


「なに。お前、結婚してたのか」

 とフレドリックが言うのと。

「え、先生が団長の奥様なんですか」

 とミーナが言うのは、ほぼ同時だった。


「あなた、ミーナさんに言ってなかったの?」

 エドアルドの妻、名前はミモザと言う。

「いや、そこは普通、気付くだろうと思ってだな」


 いや、気付かない。だって、エドアルドという男を独身だと思っていたから。むしろ、フレドリックでさえそう思っていた事実。


「結婚してから、そろそろ二十年近く経つんだけど。残念ながら子どもに恵まれなくてね。そろそろ養子をと考えていたところだし」

 エドアルドはミモザの腰を抱きながら、そんなことを言う。


「ブラッドからもミーナの養子先を探してると言われたし。だったら、俺んとこでもいいかなってね」

 ね、と言いながらミモザの顔を見つめるエドアルド。ミモザも、ええ、と頷く。


「ミーナさんが来てくださったら、私も嬉しいわ」


「先生」


「あら、ミーナさん。親子関係になったら、先生はやめてね?」


「えっと、でしたらなんてお呼びしたらよろしいでしょうか」


「そうねぇ」

 ミモザは右手の人差し指を口元に当ててから考える。

「やっぱり、お義母(かあ)さんと呼んでもらえると嬉しいかしら」

 ニッコリと笑う。ミーナが顔を赤くしたのは、嬉しいからか恥ずかしいからか。


「えっと、先生のことをお義母さんとお呼びして、本当によろしいのですか?」


「ええ。是非」


「お義母さま」


「きゃー、嬉しいわ」

 ミモザはミーナとギュッと抱きしめる。


「そういうことだ、フレド」

 楽しそうに面白そうに、そして嬉しそうに笑いながらエドアルドは言った。


「どういうことだ?」

 フレドリックは目を細める。


「つまり、お前も俺のことをお義父(とう)さんと呼んでいいってことだな」


「誰が呼ぶか」


 夕食を一緒にとミモザが言う。フレドリックは断ろうとしたが、ミーナの所作を見てやれと言う。しぶしぶとそれに従った。

 フレドリックはあまり食がすすまなかったようだが、それでもミーナが声をかければ少し口に入れるという程度であった。

 その後、フレドリックはエドアルドが手配した馬車で、研究室の方へと戻った。ミーナを連れて。

 だが、婚約発表までには時間がないため、明日もエドアルドの屋敷でみっちりと勉強をするらしい。

「今日だけだぞ」

 とエドアルドには念を押された。


 数日ぶりだというのに、懐かしい研究室。と思って扉を開けた途端。


「オリンさま。なんでこんな状態になってるんですか」


 それは、まるでミーナがこの部屋に初めて足を踏み入れた時と同じような状態。書類やら書物やらで床が見えなくなっている。たった、数日しか経っていないというのに。


「それは、お前がいないからだ」

 すっと後ろから手が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられる。扉はバタンと閉められた。


「オリンさま、まずはここを片付けますからね」


「いや、その服ではやめておけ」


「ですが。これでは足の踏み場もありません」


 フレドリックは足の踏み場を作るために、いくつかの書類と書物を手に取った。そして自室への道を作る。


「とりあえず、これで我慢しろ」


「我慢って」

 フレドリックはミーナを抱き上げた。ふわり、と横抱きに。

「オリンさまのほうこそ我慢してください」


「私はいつだって我慢している」


 どこが、とツッコミをいれたくなったが、また売り言葉の買い言葉で言い争いになるのがわかっているため、やめた。ミーナはそのまま奥の部屋へと連れていかれた。


「そのドレス。良く似合っている」

 ミーナをぽとりとソファにおろすと、その隣に座る。

「ありがとうございます。これ、あのオリンさまと一緒に行ったときに」


「ああ。エドのやつが連絡したんだろ、その店に」

 その通りである。


 エドアルドからドレスを持っているのか、と尋ねられたため、先日、フレドリックと買いに行ったことを教えた。すると、多分、あの店だろうとか言い出して、そのドレスをエドアルドの屋敷に届けるようにと店の方に連絡を入れたらしい。それで二日前にタニラがやってきたという流れ。


「あの、それでですね。オリンさま。私、着替えたいのですが」

 やはりドレスというものは窮屈だ。研究室にはいくつかの魔導士のローブが置いてあるため、ミーナはそちらの方に着替えたいと思っていた。


「そうか」

 なぜか寂しそうな表情を浮かべるフレドリック。これがお気に召したのだろうか。


「それで、大変申し訳ないのですが。その、あの、それでですね」


「なんだ。はっきり言え」


「ええと。一人では脱げないので、手伝っていただきたいのですが」

 ミーナが顔を真っ赤にして言うと、フレドリックも釣られて顔を赤く染める。

「お前は、私を試しているのか」

 右手で額をおさえたフレドリックは、その手の平で顔全体を隠すようにして呟いた。


「申し訳ございません」

 ミーナがソファの上に正座して土下座する勢いであったため、彼はその小さな肩をすっと抱き寄せた。


「どうなっても知らんぞ」

 言い放つと、すっと彼女の背に手を回した。

いつも読んでくださりありがとうございます。

あと一話で完結です。

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