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3.

「よくやった、ミーナ」


「団長」


「お前の団長はあっちだ。俺のことはもう団長と呼ぶな」

 トファーが指を指した『あっち』にいたのはエドアルド。彼は部下の魔導士たちに指揮をとり、氷属性の攻撃魔法をありったけかけるように命令している。


「では、団長のことはなんてお呼びすればよろしいですか?」


「名前で構わないぞ?」


「では、トファーさま」


「なんか、気持ち悪いな。様付けをやめてみろ」


「無理です」

 ミーナは顔の前で両手を振った。


「冗談だ。まあ、いい。今回はお前のおかげで助かったようなものだ」

 トファーはミーナの頭をクシャリと撫でた。


「あ、トファーさま。一人、へんてこな魔導士がいたのですが」

 そのミーナが言うへんてこ魔導士に心当たりはあった。


「おい、トファー。そこでいちゃつくな。悪いがドラゴンを外に出してくれ」

 だあれが、いちゃついてるだって? とトファーは吐きながら、騎士団に命令を出す。

「トファーさま。できれば、後でドラゴンの角をください」


「あとでな。今はお前の団長がうるさいから、さっさと仕事を片付ける。おい、エド。ミーナを返す。ミーナは今からエドの指揮下に入れ」


「え、え?」

 ドラゴンを倒してから魔導士団の指揮下と言われても。魔導士団の方もドラゴンを倒したから撤退し始めている。

「団長」

 ミーナはエドアルドの側に駆けつける。

「今より、魔導士団の指揮下に入れと言われました」


「今から、ね。あいつ、めんどうくさいからそんなことを言ったな」

 ドラゴンを運び出している騎士団たちに視線を向けながら、エドアルドは言った。

「私は何をすればよろしいでしょうか」


「まあ、君は今回の立役者だからな。とりあえず片付けの間は休んでいていい。それよりも、君がここに来た時、他に誰かいなかったかい?」


「いました。やる気のない邪魔な魔導士が」

 ミーナのその言葉に、エドアルドはぷっと笑いをこぼした。

「だってよ、フレド」

 エドアルドが視線を向けた先にミーナも顔を向けると、先ほど突き飛ばしたあの男が立っていた。ミーナが突き飛ばした時に尻もちでもついたのか、腰をさすっている。


「なんなんだ、このへんてこな女は。こいつ、私の邪魔をしたんだぞ?」


「いえ、邪魔だったのはあなたのほうです。ドラゴンが襲い掛かってきているのに、無防備に立ち呆けとは、襲ってくださいと言っているようなものではないですか」


「攻撃魔法のタイミングを見計らっていたんだ。どこかの誰かに突き飛ばされたがな」


「え?」

 またエドアルドはぷっと吹き出した。


「おい、エド。この女、こともあろうに私に向かって、邪魔だ、どけとまで言ってきたんだぞ? 教育がなっていないのではないか?」


 エドアルドはトファーが言っていた意味をようやく理解した。フレドリックとミーナの組み合わせは、面白い。それをもっと面白くしてやろうと、彼は考えている。


「ミーナ。これが誰か、わかるか?」

 エドアルドがこれと差しているのはフレドリック。


「いいえ。存じ上げません。不勉強で申し訳ありません」


「魔導士団魔法研究部のフレドリックだ」


 エドアルドがそう紹介すると、ミーナはまた「え?」と言って固まった。


 フレドリック・オリン。ミーナでさえその名前は耳にしたことがある。多分、公爵家だか侯爵家だかの出身。天才魔導士と言われ、十二歳で魔導士団に入団。以後、王宮に専用の研究室を構え、魔法の研究に明け暮れているが、彼の魔法で救われた命や領地は数知れない。


 ミーナは三歩ほど、よろよろと後ろに下がった。そして。

「申し訳ございません」

 といきなり土下座をする。このままでは、地面に穴を掘って埋もれる勢いだ。

「天才魔導士といわれているオリンさまとは知らず。数々の暴言を吐いてしまいました。挙句、オリンさまの邪魔をしてしまうとは、大変申し訳ございません」

 土下座を通り越して、まるでフレドリックに祈りを捧げているようなポーズになっている。そして彼女はその額を地面にキリキリとこすりつけていた。

 ダメだ。面白過ぎる。エドアルドは笑いをこらえていたが、こらえきれずにまたぷっと吹き出した。


「ミーナ。先に伝えておかなかった俺の責任だ。顔をあげろ」


「しかし。オリンさまに会わせるような顔は持ち合わせておりません」


「だってよ、フレド。どうする?」


 フレドリックは大きくため息をついた。


「もういいから、顔をあげろ」


「しかし」


「私がいい、と言っているんだ」


 その言葉を信用してミーナは顔をあげた。額に少し血が滲んでいる。どれだけ額をこすりつけていたのか。


「おい、エド。お前が言っていた面白いものとは、これのことか?」


「そうだ。面白いだろう?」


 フレドリックの言う面白いと、エドアルドの言う面白いの意味は少し違うような気もするが。


「オリンさまの心遣いに感謝いたします」

 ミーナはその声を絞り出した。フレドリックはつかつかと彼女に近寄り、顎を持ち上げ、その瞳を覗き込んだ。


「おいおい、フレド。いきなりそれでは彼女もびっくりするだろう?」

 エドアルドはちょっとだけ笑いをこらえている。


「エド。なんだ、これは?」


「なんだ、これはって。なんだ?」


「だから。こいつはなんなんだ? って聞いてる」


「とりあえず彼女から手を放そうか? 怯えているからな」

 ミーナは本当に怯えていた。多分、自分がやらかした無礼の数々を思い起こしているのだろう。


「彼女はミーナ。先日から魔導士団預かりになった」


「私が聞いているのはそういうことではない」


 エドアルドはわかっていて答えている。こんなに感情をあらわにするフレドリックが面白くて仕方ない。


「この国初の魔導騎士だ」


「魔導騎士、だと?」

 だからか、と呟いている。


「おい、エド。これを私に預けてくれないか?」


「いいよいいよ。魔法を教える代わりに、お前の身の回りの世話でもやらせようかと思っていたんだ」

 もうエドアルドは笑いをこらえることをやめた。お腹を抱えて大笑いだ。


「おい、お前。立てるか?」

 フレドリックがミーナの前に手を差し出した。彼女は考えていた。この手をとってもいいものかどうか。だが、無言の圧力で手を取れと言っている。そっと、ミーナはその手に自分の手を重ねた。


「クソ弱い魔力だな」


 そういうことか。触れることで魔力の鑑定をした、ということ。すっとミーナは立ち上がった。


「おい。血が出ているぞ」

 フレドリックはミーナの額に触れ、そのケガを治した。これが回復魔法。


「オリンさまのお手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

 ミーナは頭を下げるが、いつもペコリと力強く揺れるはずの黒い髪が、今は元気が無い。


「いやぁ。フレドがミーナを預かってくれて助かったよ。騎士団から引っ張ってきたのはいいけど、どうしようか悩んでいたからさ」

 あははは、とエドアルドは笑っている。

「ミーナ。君は今からこのフレドリック付きな。魔導士団魔法研究部所属だ。わかったな?」

 エドアルドのその言葉にミーナはコクリと頷く。

「承知、いたしました」


「フレド。後は頼んだぞ。いいか、彼女はこの国初の魔導騎士だからな。それの意味を忘れるなよ。それから、彼女に魔法を教えてやってくれ」

 フレドリックの眉がピクリと動いた。


「あの、オリンさま。武器を回収してきてもよろしいでしょうか」


「好きにしろ」

 ミーナは走って武器を二本回収した。両手剣と片手剣。どちらも魔導剣。


「おい」

 フレドが声をかけた。


「ミーナです」

 彼女が名前を言う。つまり、名前で呼べ、ということか。


「ミーナ。その武器を見せて欲しい」

 エドアルドの思っていた通り、フレドリックはミーナの武器に食いついた。あの研究オタクが魔導武具に興味を示さないわけがない。


「どちらがよろしいでしょうか」


「どっちでもいい」

 ミーナは片手剣をフレドリックに手渡した。


「この魔法付与は、お前がやったのか?」


「はい」


「クソ弱い魔力のくせに、魔法付与ができるとは。面白い奴だな」

 ミーナはフレドリックの言っている意味がわからなかった。


「まあ、いい。明日からこき使ってやる」

 鉄仮面と呼ばれている彼の口角が少し上がったことに、エドアルドは気付いた。


「おい、ミーナ。馬はどうする」

 なかなか戻ってこない三人にしびれを切らしたのか、トファーがまた戻ってきた。


「なんだ、お前。馬でここまできたのか?」

 ミーナはフレドリックに見おろされた。はい、と頷く。


「帰りは私の馬車に乗れ。お前に興味がある」


「あの、馬は?」


「騎士団に任せておけばいい。お前は私の部下だからな」


 その二人の会話を聞いていたエドアルドはトファーに声をかける。

「だそうだよ、トファー。お前が言った通り、面白い。俺はここだけで一年分笑ったような気がする」


「だけどな、エド。ミーナは魔導士団に預けただけだ。いずれは返してもらう」


「それは、どうかな?」

 エドアルドの視線の先には、何を話しているのかわからないフレドリックとミーナの姿があった。

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