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27.

 エドアルドはなんとなく気付いていた。なんとなく気付いていたから、フレドリックに尋ねたところ。

「だから、なんだ」

 という切り返しをされてしまったため、彼に聞くのをやめた。となれば、もう一人の方に聞けばいい。


「団長。書類をお持ちしました」

 片手で抱えることができるくらいの書類を持って現れたのがミーナ。

「そこに置いてくれ」

 ちょうど別な書類にペンを走らせていたため、手を離すことができず『そこ』を顎でしゃくった。

「では、こちらに置いておきます」


 ミーナが書類を置いて、立ち去ろうとしたところをエドアルドは呼び止めた。

「ちょっと待て。君に聞きたいことがある」

 そこでちょうどペンを置くことができた。両手を組んで、ミーナを見つめる。


「で。フレドリックと、どうなってるんだ?」


「え、あ、は。何がですか?」

 みるみると顔を赤く染まっていく彼女を見れば、どうなっているもこうなっているも一目瞭然なのだが。フレドリックではこんな面白い反応を見せてくれないだろう。


「ちょっと話が聞きたい。そこに座れ」

 そこ、というのはソファのこと。


「えっと。できれば戻りたいのですが」

 ミーナが一歩下がる。


「まあまあ。いいから。ちょうど俺もお茶でも飲みたいなと思っていたところなんだ。悪いが、淹れてもらってもいいかな?」


 そんな風にエドアルドに言われてしまったら断る術がない。しかたなくお茶を淹れると、彼の向かい側に座る。


「で。フレドとはどこまでいったんだ?」


 なんでこういう話を楽しそうに聞いてくるのか。そしてその質問にまともに答える人間がいるのだろうか。


「ちょっとそこまで」

 とミーナは誤魔化した。

「ちょっとそこまで、ね」

 それでもエドアルドは楽しそうに笑う。


「それで、君たちの関係は、どのように認識しておいたら良い?」

 カップに口をつけていたところだったので、ミーナは咽た。

「いや、あの。普通に。師弟でお願いします」


「普通の師弟に見えないから、こうして聞いてるんだけど。結婚、するのか?」

 直球だった。直球の切り替えし程苦手なものはない。


「そのうちは、するかと思います」


「そのうち、ね」

 そこでエドアルドはカップに口をつけた。

「君の淹れるお茶は、相変わらず美味いな。それでフレドの家族とは、会ったのか?」


「え? オリンさまって、ご家族がいらっしゃるのですか?」


 ミーナのそれにエドアルドは苦笑するしかなかった。やはり、フレドリックは肝心なことを伝えていない。


「一応、フレドだって人の子だ。家族くらいいるだろう」


「そうなんですね」

 と呟いたのは、人の子に対する呟きなのか、家族くらいいるに対する呟きなのかはわからない。


「ミーナ。フレドは俺にとっても弟みたいな存在なんだ。フレドのこと、頼む」

 と、ふいにエドアルドが頭を下げたので、ミーナは困惑してしまった。

 それから少し、他愛もない話をして、ミーナは研究室へと戻る。


 なぜか、フレドリックがバタバタと動いていた。


「あ、ミーナ。戻ってきたか。兄から連絡がきてな。今なら会えるということで、お前を連れてこい、と」


「え。フレドさまのお兄さまですか?」


「そうだ。着替えは。まあ、魔導士の服だから問題ないか」

 そんなことを一人でつぶやいている。


「フレドさまには、お兄さまがいらしたんですね」


「そうだな。あまり会ってはいないが」


「でしたら、なぜ、急に?」


「お前のことを連絡したからだろう。私の結婚の話は前々から言われていたことだ。また、適当な女をあてがおうとしたから、お前のことを教えた。そうしたら、すぐに連れてこいということだ。ほら」

 フレドリックが左手を差し出してきたので、ミーナはその手に自分の手を重ねた。するとフレドリックは満足そうに笑みを浮かべる。


「とりあえず、挨拶だけしとけばいい。お前が孤児であることも伝えてある。何も心配するな」


 何も心配するなと言われても、フレドリックの兄と会うというその事実が心配な事案であるのだが。


 フレドリックはミーナを引っ張るようにして歩き出す。しかも例のフレドリックの部屋にある後ろの扉から。


「え、こちらから、なんですか?」


「ああ。周りに見つかるといろいろと面倒くさいからな」

 ミーナはほとんど引っ張られるようにして歩いた。きっとフレドリックも余裕をなくしているのだろう、と思った。隠し通路は暗くて、脇にも何本か道はあるし、ミーナはもうどこを歩いているのかがわからなかった。そもそもこの敷地内の建物を把握しているわけでもない。とにかくフレドリックと離れてしまったら、この通路から出られないのではないか、とさえも思ってしまう。


 彼はまた、一つの扉を開けた。そこは、明るい部屋だった。だが、誰かがいる様子もない。


「あれ、ここは?」


「私が、昔、使っていた部屋だな」


「え?」

 驚き、ミーナはフレドリックの顔を見上げた。その顔は懐かしんでいるのか、悲しんでいるのかよくわからない表情だった。


「フレドさま?」


「ああ、すまない」

 感傷にでも浸っていたのか。フレドリックは我に返ったかのように呟いて、その部屋を後にした。

 そこは、廊下もとても華やかな場所だった。とにかく明るい。豪勢でありそして厳か。こんな場所、ミーナは知らない。


「ここに兄がいる」

 重そうな扉を押して開ける。


「やあ、久しぶりだね。フレド」

 フレドリックの姿を見つけた相手が、陽気に声をかけてきた。その相手はミーナでさえも知っている人物だった。


「え、え?」

 ミーナはまたフレドリックを見上げる。苦虫をかみつぶしたようななんとも言えない表情を浮かべていた。

 フレドリックに向かって久しぶりと言った人物、それは、この国の国王であった。

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