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22.

 ウルセライでのホワイトドラゴンの保護を無事終えることができたのは、やはりフレドリックとミーナというコンビの働きによるものが大きいだろう、とエドアルドは密かに思っている。フレドリックに預けたミーナは、クソ弱い魔力と評されていたそれを、普通の魔導士レベルにまであげることができたようだ。ただ、フレドリックの人間嫌いは相変わらずだった。ミーナ以外と話をしようとは思わないらしい。

 しかも困ったことに、彼女が他の魔導士と話をしていると、ものすごく不機嫌なオーラを発している。どうやら、フレドリック自身は気付いていないらしい。周囲は、元々の彼が不機嫌なオーラの塊のような人間という認識であるため、やはり気付いていないらしい。

 エドアルドは失笑するしかない。


 ウルセライからの帰り道、前回と同じようにエドアルドの領地にある食堂で食事休憩をする。だが、フレドリックが飲み物にしか手をつけていないことにミーナは気付いた。彼女はすっと立ち上がると、果物のような加工されていない食べ物を手にする。それをフレドリックに手渡しながら、「オリンさまには、戻ってからお食事の方を準備いたしますね」と言う。その言葉にフレドリックは驚きつつも、少しだけ顔をほころばせた。そんな二人を遠目から楽しそうに見つめているのは、もちろんエドアルドだった。


「疲れましたね」

 いつもの研究室に戻って来てミーナの第一声はそれだった。そろそろ日が傾きかけてきた頃。暗くなる前に戻ってくることができて、ミーナは少し安心した。

 そして今回は、彼女は騎士服でも魔導士のローブでもない衣装を身に着けていた。魔導士のローブを動きにくい、動きにくいと言っていた結果によるもの。騎士服と魔導師のローブを足して二で割ったようなデザインだ。


「あの。着替えたいので浴室をお借りしてもよろしいでしょうか」


「ああ、好きに使え」


 好きに使えと言われたミーナは、軽く湯浴みをしてから着替えた。ここにいるときは魔導士のローブ。これはこれで動きにくいけど、ゆったりしているから、今のようにゆったりとしたい気持ちのときには着心地がいい。

 ミーナが着替えて浴室から出ると、フレドリックはソファの方にいた。


「オリンさま。終わりました」


 声をかけても、返事は無い。そしてピクリとも動かない。腕を組み、足を組んだ姿勢で、そのまま眠っているらしい。ミーナは馬車の中でばっちり爆睡してきた。硬い椅子でも眠ることができるのは、今までの生活のなせる業だろう。

 きっと目が覚めたフレドリックはお腹を空かせているだろうから、今のうちに何か食事の準備をしよう。そう思い、食材をもらいにカミラの元へと向かう。


「カミラさん」


「お帰りなさい、ミーナさん。ミーナさんがこちらに来た、ということは食材ですよね」

 カミラが楽しそうに笑う。もう、ミーナの行動は読まれていたようだ。


 ミーナが食材を抱えて戻ると、フレドリックは先ほどと同じ格好のまま、ただ先ほどの角度からやや横に三十度くらい傾いて眠っていた。そのうち、ソファに対して水平になるのではないか、と思う。

 食事の準備をしていたら、夕刻の鐘が鳴った。

 ドラゴンの保護という大仕事をやり終えたミーナは非常にご機嫌だった。多分、鼻歌なんかを歌っていたのだろう。だから、背後に立つフレドリックに気付かなかったのだ。


「ご機嫌だな」

 そう声をかけられて、思わず振り返ってしまった。そこにいたのはもちろんフレドリック。ミーナはほころんだ笑みを浮かべながら「お目覚めになられましたか」と声をかける。


「ああ。いい匂いがするな」


「もう少しでできますので。先に、湯浴みでもされたらいかがですか?」

 言うと、ミーナは料理の方に視線を戻した。


「違う。料理ではない」

 お前だ、と囁かれた後、うなじをパクリとされてしまう。


「ひゃ」

 変な声をあげたミーナはそこに手をあてる。ジロリと睨みながら振り返ると、そこにはすでにフレドリックの姿は無かった。

 まったく、なんなんだ、あの男は。

 出来上がった料理をいつものテーブルに並べていたら、湯浴みを終え、着替えもしたフレドリックは、黙っていつもの椅子に座った。


「オリンさま。実は、こういうものもいただいたいのですが。お飲みになりますか?」


 ミーナが手にしていたのは果実酒だった。


「オリンさま。お好きですよね?」

 ミーナは、彼が部屋に隠し持っているのを知っている。掃除をしていたときに見つけてしまったのだ。

 にも関わらず、返ってきた言葉は。

「嫌いではない」

 まったく、素直ではない。


 料理を並び終えたミーナは、グラスを二つ準備した。そこに果実酒を注ぎ入れる。フレドリックは不安気にミーナを見るが、「私も、成人していますから」という彼女の言葉を聞き入れる形になった。

 だが、ミーナが成人しているというのは、あながち嘘ではない。


 既にフレドリックは、ミーナが預けられていたという孤児院に足を運んでいたのだ。彼女が預けられた当時を、なかなか思い出すことのできなかったシスター。しびれをきらしたフレドリックは、彼女の真理を覗くという行為に出る。するとシスターが、ミーナが預けられた時に一枚の紙が一緒に置いてあった、ということを忘れていた、ということに気付く。それは大事に金庫の奥にしまってあった。

 その紙には、コモッティの言葉で彼女の名前と生年月日だけが書かれていた。ミーナとは彼女の愛称であり、正式な名前はウェルミナと書かれていた。その名と姓から推測されるミーナの出生。

 だが、フレドリックはそれを彼女に伝えるつもりはなかった。黙ってその用紙をエドアルドに手渡すと、エドアルドのほうで保管するという流れになった。多分、これは他の誰かに見られてはいけないやつ。だから、団長である彼が責任をもって預かる、と。


「オリンさま。乾杯、です」

 二つのグラスを傾けた。勢いよく、グラスの半分ほどを飲み干すミーナ。

「はあ。美味しいです。一仕事を終えた後って、こう、気分がハレバレしますよね」


「そうだな。今回は特に、お前もいい働きをしたと思う」


「オリンさまに褒められると、なんか、気持ち悪いですね」


 サラダを取り分けながらミーナは言う。

「オリンさまもお食べになられますか?」

 彼の返事も聞かずに勝手に取り分けて、勝手に彼の前にそれを置く。

 今回の話題は、もっぱら遠征についてだった。むしろホワイトドラゴンについて。ミーナが一方的に喋り、フレドリックはたまに相槌を打つ。その程度。


 食事を終えると、飲み直すために、グラスと果実酒、そして軽いおつまみをお盆の上にのせてソファの方に移動した。


「お前、そんなに飲んで平気なのか?」

 頬が蒸気しているミーナを心配そうにフレドリックは見つめるが。

「はい、だいじょーぶです。たぶん。私、すぐに顔が赤くなっちゃうんですよねー」

 という、あまり大丈夫ではないような答えが返ってきた。

 それでもミーナはグラスに果実酒を注ごうとするので、フレドリックはそれを止めた。かわりに、水を注ぐ。


「おりんさま?」


「もう、やめておけ。大事な話ができない」


「大事な話?」

 キョトンとミーナはフレドリックを見上げた。大事な話と言われると、なぜかそわそわとしてしまう。何だろう、もしかして、異動の話とか。もしくは、クビの話とか。そういうことを考えてしまう。


 フレドリックは一度、ソファに限界まで寄りかかると、天井を仰いだ。それから大きく気を吐き出す。酔いをさますかのように。そして、再び姿勢を正すと。


「ミーナ。私と結婚しないか?」


「え?」

 食べるために手にしていたつまみがポトリと落ちた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

やっと話が進みました!最後までお付き合いいただければと思います。

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