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21.

 トファーがいなくなって、やっと静かになったと思った頃。また廊下の方から騒がしい足音が聞こえてきた。


「おい、フレド」


 こうやってこの部屋に入ってくるような人物は二人しか心当たりはない。だがそのうちの一人は立ち去ったばかりだから、残りの一人。そう、エドアルド。


「お前、自ら魔物討伐に行くって言いだすなんて、どういう風の吹き回しだ」


 団長室からここまで走ってきたのだろう。エドアルドは扉を開けて、その扉に手をついて肩を激しく上下させていた。廊下は走ってはいけない、とあれほど自分で言っているくせに。


「あ、団長。どうかされましたか?」

 フレドリックの隣で、間の抜けた声をあげるミーナ。


「何か用か」

 また邪魔な奴が来た、と思っているフレドリック。


「何か用かって。だから、どういうことだ? 何が起こったんだ?」


「何がだ?」


「だから、お前が魔物討伐に行くって言い出したことだよ」


 エドアルドはこちらに向かって歩いてきて、先ほどまでトファーが座っていたところに腰をおろした。


「行くなって言うなら行かないが? だが、そうなるとホワイトドラゴンの保護は無理だろうな。最初から無理とわかっているような遠征にミーナもやらん」


「いや、誰も行くなとは言ってない」


 この話は長くなるなと思ったミーナは、すっと立ち上がってエドアルドにお茶を淹れた。


「ああ、悪いな」

 そのお茶を彼女から受け取ったときに、エドアルドはふと気付いた。

 以前よりもこう、身体つきが女性らしくなってきたのではないか、と。顔つきも少し大人びてきた、というか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。


「まあ、まあいいや。お前が、その、自分から遠征に行きたいと言ったと聞いたからな。念のための確認だ」

 ミーナはさりげなく、エドアルドの前にお茶菓子を置いた。それに気づいたエドアルドは、また「悪いな」とだけ言う。


「悪いと思ってるなら、さっさと帰れ」

 相変わらずのフレドリック。


「いや、せっかくミーナに準備してもらったんだ。これを食べないで帰る方が悪いだろ」


「あ、そうだ。団長にも聞きたいことがあったんですけど」

 ミーナがちょっと難しい表情を浮かべて口を開いた。

「どうした?」


「私、太りましたかね?」

 エドアルドは口に入れたお菓子を飲み込んだ直後で良かったと思った。

「どうしたんだ、急に」


「いや。最近。トファーさまから、すぐ太ったって言われるので」


 エドアルドは心の中でトファーに悪態をつきたくなった。元部下だからって、言っていいことと悪いことがあるだろ、と。


「太ったんじゃなくて、成長してるんだろ」


 無表情を装ってそう答える。


「成長? 残念ながら、身長は伸びていません」


「そうじゃなくて」

 エドアルドはミーナの胸元を指さした。ミーナはその指先にあるものに視線を向ける。そこにあるのは、自分の胸。


「胸とか尻とか、女性らしくなってきたんだろ? まったく、俺に何を言わせるつもりだ。そういうのはカミラにでも相談しろ」


「では、太ったわけではないんですね。肉断ちしなくていいんですね?」


 喜ぶところはそこかよ、とエドアルドは思わずにはいられなかったのだが。

 

「それよりも、お前、いくつなんだ?」

 ふと、エドアルドはミーナの正確な年齢を知らないことに気づいた。


「え? お肉の数ですか?」


「違う、年だ、年」


「団長。女性に年齢を聞くなんて、失礼じゃないですか」


 騎士団から引き継いだ資料において、彼女の年齢欄は空欄だった。


「真面目に答えろ」


「うーん、私もよくわからないんですよね。多分、十六くらいですかね?」


「よくわからないっていうのは?」


「だから、孤児院育ちなので。自分がいつ生まれたとか、わからないんです」


 フレドリックがピクリと反応した。


 エドアルドは出された茶菓子を食べ終えると、ミーナに礼を言って立ち上がる。部屋を出ていこうとしたら、フレドリックに呼び止められた。ミーナには聞かせたくない話なのだろう。廊下で少し立ち話をする形になる。


「おい、エド」


「どうした?」

 なぜか楽しそうなエドアルドはニヤニヤと笑みを浮かべている。


「気持ち悪いな、お前。まあ、いい。悪いが、ミーナの孤児院というのは調べられるのか?」


「ああ、それはわかってる」


「そこで、ミーナの出生について、情報を引き出すことは可能か?」


「おい、フレド。お前、何を考えている?」


「いや。ただ、あれは間違いなくコモッティの魔法使いだ。あれがここにいるのが謎なだけだ」


「つまり、孤児院に預けられた時のことを調べたいってことか?」


 ああ、とフレドリックは静かに頷いた。


「後でその孤児院は教えてやる。だがな、本当に彼女がコモッティの人間であるなら、あまり深入りするなよ」


「どういう意味だ」

 フレドリックは目を細めた。


「あそこは、数年前から内戦が起こってるからな」

 エドアルドはそれだけ言うと、その場を離れた。

 フレドリックが肩で息をついてから部屋に戻ると、ミーナはちょうど後片付けをしているところだった。フレドリックに気付くと、ニコリと笑ってくれる。


「団長とのお話は終わったのですか?」


「ああ」


「あの、オリンさまにお聞きしたいことがあるのですが」


「なんだ? 立ち話もなんだから、まあ、座れ」

 そして結局、元の位置に座る二人。


「ホワイトドラゴンは討伐ではなく保護の対象ですよね。どのようにして保護をするのですか? 今まで保護対象のものと遭遇したことがなかったので」


 フレドリックは腕を組んだ。そもそもホワイトドラゴンがウルセライのあの洞窟に居座っていることがおかしい。彼らはドラゴンの山から滅多には降りてこないはず。


「まあ、一番手っ取り早いのは、眠らせて洞窟の外に運び出すことだな」


「眠らせるってことは、魔法で、ですか?」


「そうだな。もしくは、眠り薬を使う」


「それって、私の出番はありますかね? 私、眠りの魔法は使えませんよ?」


「そうなのか?」


 はい、とミーナは頷く。


「私が使えるのは基本の四属性のみです」

 四属性とは風火地水のこと。水属性の発展形が氷属性。ミーナが氷属性を得意としていることはなんとなく感じていた。


「だから、魔法付与も基本的にその四属性ですし。オリンさまとの訓練の時も、多分、そのうちのどれかしか使っていないと思うのですが」


 そう言われるとそうだったかもしれない。


「ということで、ホワイトドラゴンの保護はどうしましょう?」


 どうしましょう、と言われてもどうしましょうだ。


「お前には、いろいろと言うべきことがあるのだが」

 どのような順番から説明すべきか、フレドリックは少々悩む。


「まず。お前が魔導騎士と呼ばれるようになった所以だが。それは、武器や防具にその四属性の魔法を付与することができるからだ」


「でも、魔法付与はオリンさまもできますよね?」


「ああ。魔導士も魔法付与はできるが。ただ、四属性の魔法付与はできない」


「へ」

 と言う彼女の口の形はへであった。フレドリックは頷いてから。

「私たちの魔法付与は、例えば耐毒性、耐睡眠性など、対抗力をあげるものが一般的だ。お前のように四属性、まして攻撃力をあげるような魔法付与はできない。むしろ、お前しかできない」

 それはコモッティの魔法使いだからできるものだと思っていた。

「だが、お前しかできないような魔法があるなかで。なぜ、基本的な眠りの魔法が使えない」


 え、言いたいところはそこなの? オチはそこ? というのがミーナの思いだった。


「お前の魔法は完全に攻撃型だということがわかった。ちなみに聞くが、回復魔法は使えないな」

 否定で確認に入るところがフレドリック。もう、その期待に応えるしかないだろう。


「はい、もちろん使えません」


 フレドリックは、鼻から息を吐くしかなかった。

いつもお読みくださりありがとうございます。

もう少し続きます。

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