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20.

「おい、フレド。ミーナを貸してくれ」


 そう言いながらこの部屋に入ってくるような人物には、二人ほど心当たりがある。


「お前たちは一体何をやっているんだ?」


「えっと、初めての共同作業を」

 とミーナが言ったときに「おい、ミーナ」とツッコミを入れてくれるのは、二人のうちの一人しかいない。つまり、騎士団長であるトファー。

「お前、もう少し言葉の使い方を勉強した方がいいぞ?」


「え。見たままですよね? これは、私とオリンさまの共同作業ですよね」


「そうかもしれないが、その言い方は誤解を与えるからやめておけ」

 どんな誤解? とミーナはフレドリックの顔を見上げたが、彼もさあ? と首と傾けた。

 ミーナはすっぽりとフレドリックの身体に包まれていた。ミーナが構えている剣を、フレドリックは彼女の背後に立ち、そこから手を伸ばして剣を一緒に構えていた。


「で、何をしているところだ? まさかフレドがミーナに剣術を教えている、というわけではないだろう? その逆ならわかるが」


「魔法付与です。以前、トファーさまからいただいたドラゴンの角。それでこの剣を作り終わりましたので、魔法付与をしていたところにトファーさまがやってきた、ということになります」


「それは悪かったな。終わるまで待ってるわ」


 トファーはいつものソファにドサッと腰を沈めた。ただ、この二人のこのような状態を目にするのは、心の毒だ。だが、魔法付与に興味はある。仕方ない、毒を食らわば皿までだと思って、じっと見ることにした。

 剣がぽわっと赤く光る。確かあのドラゴンはレッドドラゴンだった。そのドラゴンの角を使った剣ということは、炎の魔法でも付与をしているのだろうか。


「終わりだ」

 フレドリックが静かに呟き、その剣から手を離すとミーナからも離れた。


「どうだ?」


「私には、いつもと変わらないように思えます。あ、そうだ、トファーさま」


「なんだ。俺を巻き込むなよ」


「いや、この魔導剣。もしかして、トファーさまでも使うことができますかね、ということを確認したくて」


「お前たちの共同作業の剣など、恐ろしくて使えねーよ」

 とか言いながら、手を差し出すトファーは、やはり興味はあるらしい。


「どうぞ」

 ミーナがその剣をトファーに渡した。その途端。


「あちっ」

 とトファーは手を引いた。「なんだ、これ。熱くて持てねーぞ?」


「そんなことないですよ」

 トファーが落とした剣を、ミーナは膝を折って拾い上げた。

「ほら」


「ミーナ。それ、危ないから振り回すな。そして、さっさと仕舞え」

 どうやらトファーはその剣から熱を感じているらしい。持たなくても、熱いと言う。だから、さっさと仕舞えという流れ。


「オリンさま。持てますか?」


 ミーナはその剣をフレドリックに持たせてみた。彼は難なく持てるらしい。


「ですが、オリンさまが魔導剣を持てたとしても、これでは宝の持ち腐れ。あー、せっかくのレッドドラゴンの角がぁっ。魔法付与、失敗じゃないですか」

 頭を両手で抱え込むミーナ。


「失敗なのか?」

 逆にトファーに問われてしまった。


「結局、私とオリンさましか使えないのであれば、今までとかわらないじゃないですか。本当は騎士団の皆さんにも使っていただこうと思っていたのに」

 ミーナはフレドリックからその剣を受け取ると、いつもの腕輪の中に仕舞い込んだ。それもこれもトファーがさっさと仕舞え、と言ったからである。


「あ、すぐにお茶をいれますね」

 ミーナはパタパタとお茶の準備を始める。フレドリックはトファーの向かい側に黙って座る。

 お互いが無言。これはどちらかが先に言葉を発した方が負け、とかそういうゲームなのではないか、というくらいの無言。


「お待たせしました」

 とその無言の空間をミーナがぶち壊す。

 二人の前にお茶の入ったカップを置くと、ミーナはいつもの通りフレドリックの隣に座る。


「それで、トファーさま。どのようなご用件でしたか?」

 フレドリックが何も言いそうにないため、代わりにミーナが口を開いた。


「ああ、そうだそうだ。ミーナ、お前に用事があって来たんだ。悪いんだが、次の討伐に同行して欲しい」


 その言葉に反応したのはフレドリック。


「どこだ?」


「またウルセライだ。そんでもって、またドラゴンだよ、ドラゴン」

 トファーのその答えに。

「もしかして、またあの洞窟ですか?」

 ついつい尋ねてしまうミーナ。


「ご名答」

 トファーは右手の人差し指をピシッと立てた。


「えー」

 といかにも嫌そうな顔をするミーナ。「あそこ、走りにくいんですよね」


「走りにくいね、それよりもミーナ。お前、しばらく見ない間に、やっぱり太ったんじゃないのか? それで、本当に走れるのか?」


「トファーさま。人が気にしていることを」


「とか言いながら、そうやって菓子に手を伸ばしてるからだろ」

 その手をピシャリとトファーに叩かれる。


「酷い」

 叩かれた手をわざとらしく反対の手でさするミーナ。

 そんな二人のやり取りを面白くなさそうに見ているフレドリック。


「また、レッドドラゴンか?」

 不機嫌そうな口調でフレドリックが尋ねた。その不機嫌さにトファーも気付いた。


「いんや」

 トファーはソファに寄り掛かって、腕を組んだ。「今度はホワイトドラゴン。しかも二匹」


「ホワイトドラゴンは討伐の対象じゃないですよ。むしろ、保護の対象じゃないですか」

 懲りずにミーナはお菓子をモグモグと食べていた。


「そうだ。だからお前も連れて行きたいんだよ、ミーナ」


「私も行こう」


 トファーは思わずその声の主を見てしまった。


「あ、お前が?」

 このときのトファーの「あ」はむしろあに濁点が入ったものに近い。


「何か文句あるのか?」


「いや、無いけど。お前が魔物討伐に行きたいだなんて。どういう風の吹き回しだ? 今までこっちから頼んだって、行こうとしなかった奴が」


「ホワイトドラゴンだからだ」

 前回もレッドドラゴンに釣られたフレドリックではあるが。

「こいつ一人では無理だ」

 フレドリックの言うこいつとはもちろんミーナのこと。

「もちろん、騎士団だけでも無理だ。だから、私も出る」


「そう、はっきり無理って言われても、イラっとするけど。まあ、相手がホワイトドラゴンだから仕方ないっちゃ仕方ないか」


 そこでトファーは腰をあげた。

「エドには俺から言っておくわ。それよりもミーナ」


「はい」

 思わず姿勢を正してしまう。


「もう少し、痩せろ」


 去り際にそんなことをトファーから言われてしまう。反論したかったにも関わらず、彼はそれだけ言うと勝手に部屋を出ていく。


「オリンさま」

 おずおずとミーナはフレドリックに尋ねる。

「私、そんなに太りましたか?」


 難易度の高い質問だった。これに対する正しい答えはなんだ。とりあえず。

「そうか、私は気付かなかったが」

 とだけ言っておいた。

いつもお読みくださりありがとうございます。

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