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18.

 それから数日後。ミーナは騎士団を退団した。それをトファーが発表したときに、えーという不平不満の声が上がったことは言うまでもない。

「あまり騒ぐと、フレドに殺されるから、諦めろ」

 その一声が効いたのか否か、騎士団のメンバーは温かく送り出してくれた。


 代わって魔導士団の入団時には、簡単にエドアルドから紹介があった程度だった。実は、魔導士預かりとなったときも、お披露目などは一切されなかった。

 ウルセライからの途中で、エドアルドは副団長のシルヴァンに向かって面倒くさいからあとで紹介すると言ったにも関わらず。エドアルドが言うには嘘をついたわけではないらしい。ただ、忘れただけだ、と。

 だが、それが良くなかったのだろう。こんな中途半端な時期の入団にも関わらず、簡単な紹介。さて、彼女の実力はいか程に、と思ってしまうのが魔導士団。一人がそうやって言い出すとすぐさま同調してしまうのも魔導士団。


 エドアルドは苦い顔をして、フレドリックに視線を向けると、彼は涼しい顔をしていた。


「いいのか?」


「ああ、正式に魔導士団になったんだ。とりあえず見せつけておくのも悪くはないだろ?」

 しれっとそんなことを言うフレドリックは、絶対に楽しんでいる。

「誰か、彼女の魔法を受けたい奴はいるのか?」

 口の片方の端をピクリと上げながらそんなことを言うフレドリックは、絶対に楽しんでいる。


 おずおずと手を挙げた男は、副団長のシルヴァン。彼は副団長という立場であるからこそ、自ら受けなければならない、と思ったのかもしれない。


「ほぅ。そのやる気だけは認めてやる。だが、悪いことは言わない。先に防御魔法を張っておけ」

 フレドリックの笑みは不敵な笑みというやつ。

「おい、エド。万が一に備えて、お前もフォローに入れよ」

 フレドリックを修飾する言葉は、楽しそうという言葉が適当かもしれない。

「ミーナ」


「はい」

 魔導士のローブに身を包む彼女も、なぜか見慣れてきた。忠実なフレドリックの部下のように見えてくるのも不思議なもの。


「あいつに、氷属性の魔法を放て。私が合図を送ったら、それに合わせてすぐ放て」

 フレドリックの言うあいつとはもちろんシルヴァンのことで、その彼が防御魔法を張ったらすぐに合図を送るつもりでいた。そしてフレドリックはさりげなくミーナに魔力を注ぎ込む。


「防御魔法は必要ですか? 彼女の魔法と同時にこちらから攻撃魔法を仕掛けるというのはダメですか?」


 シルヴァンは問う。彼女の力を疑いたくなる気持ちもわからなくはない。そして彼女の攻撃魔法との相殺を狙っている。


「万が一、ということもある。そうなると責任を取らされるのは俺だ。お前が防御魔法を張らないのなら、俺が張ってやる」

 エドアルドがシルヴァンに向かって防御魔法を放った。


「ミーナ」

 フレドリックが彼女の名前を呼ぶと当時に、ミーナは氷属性の魔法を放つ。

 ドンッ。

 銀色の光がシルヴァンを包んだ。


 周囲の人間がはっと息を飲む。あまりにもの速度に誰もが目を疑う、と同時にその副団長の名前を呼ぶ。


「シルヴァン。おい、無事か」


「はい、団長の防御魔法でなんとか。なんなんですか、あの速さ。あれから防御魔法を張っていたら間に合わなかった」


「だから、先に張っておけと言っただろ」

 ふんとフレドリックは鼻先で笑った。しかも、ほら見たことかと自慢するかのように。


「これで、彼女のことは認めてもらえたということで、いいだろうか」

 エドアルドは全員の顔を見渡すようにして言った。シルヴァンが「はい」と頷くと、それに倣うかのようにして他の者も頷き始めた。


 このような入団の挨拶も無事終わり。フレドリックからは「私はエドと話があるから、先に研究室へ戻っていろ」と言われたため、研究室へと戻ろうとしていたミーナのその足を呼び止める者がいた。


「ミーナさん」


 あの副団長だ。


「初めてお会いした時と見違えてしまって、驚いていますよ。かなり、魔法の練習をしたんですか?」


「え、ええ。はい。オリンさまに教えていただきました」


「あのフレドリックさまが教えるなんて、よほどあなたの魔力が魅力的だったんですね。今では私もそれを感じますが。特にあの魔法を放つと決めてから実際に魔法が放たれるまでの速度。多分、あれだけ早い人は魔導士団の中には、他にはいませんよ。どのような練習をされたのですか?」


「えっと。まあ、いろいろと。なんかもう、思い出すだけで冷や汗が出てくるような?」


 ミーナが、あはははーと乾いた笑いを浮かべると、彼もなんとなく察した。多分、これは聞いてはいけないやつで、普通の人なら耐えられないやつだ、と。


「おい、ミーナ」


 背中から彼女を呼ぶ声が聞こえた。


「先に戻っていろ、と言ったはずだ。こんなところで何をしている」


「ええと、世間話を?」


 ミーナがそう答えると、彼女の世間話相手をジロリと睨むフレドリック。


「すいません。私が呼び止めてしまったので」


 シルヴァンはペコリと頭を下げる。

「ミーナさん、ではまた。これから、よろしくお願いします」


「はい、こちらこそ。お世話になります」

 ミーナも頭を下げると、彼の背中を見送った。そしてフレドリックと並んで歩き出す。


「何を話していたんだ?」

 突然、フレドリックがそんなことを聞いてきた。

「え?」

「あいつとどんな話をしていた。私に言えない話か」


「え、いえ。あの。先ほどの魔法が、やはり他の人よりも起動が早いから、どんな魔法の練習をしたのか、と。私としてはあの訓練は思い出したくないのですが。まあ、そのようなお話です。はい」


「そうか」

 どうやらその答えに満足したらしい。それ以上、フレドリックは何も言わなかった。


 研究室に戻ると、ミーナとしてはソファにダイブしたい気分だった。魔導士団のあれだけの人たちに囲まれて、心がものすごく疲れた。


「ミーナ。あっちのテーブルに先ほどカミラが置いていったお菓子がある。それでも食べろ」


「え。どうしたんですか、急に」


「疲れたのではないのか?」


「えと、まあ。そうですけど」


「甘いものは疲れをとるのではないか? 以前、お前が言っていなかったか?」

 うーん、とミーナは記憶を探る。多分、お腹が空いてお菓子をバクバク食べていた時に、フレドリックに咎められたのだ。食べすぎではないのか、と。そのときに言い訳として、甘いものは疲れをとってくれるんですよ、訓練の後はこれを食べないとやっていけないです、とかなんとか。言ってしまったかもしれない。


「では、お茶を淹れますね。こちらでいいですか?」


 ミーナが言うこちらはソファ席のこと。フレドリックのいつもの席か、食事をとるテーブルか。お茶を運ぶ場所は全部で三つあるのだが。


「ああ」

 とフレドリックが返事をしたため、ミーナはお茶とお菓子をソファ席の方に準備した。

 別に、何の決まりがわるわけではないのだが、このソファ席に座るときは、フレドリックはミーナと並んで座ることが多い。そのため、ミーナも自然とフレドリックの隣に座ってしまう。


「カミラさんが持って来てくださったお菓子、高級菓子ですよ、高級菓子」

 言い、一口スプーンですくって食べると、左手を頬に添える。その様子を、フレドリックは黙って見ている。

「やっぱり、美味しいです。はやくオリンさまも食べてください」


「そんなに美味しいなら、私の分も食べるか?」


「いえ。それはダメです。我慢します」


「別に、我慢しなくてもいい」


「いや、違うんですよ。多分、というか絶対、ここに来てから太ったんです。だから、おやつは自分の分だけで我慢します。それはきちんとオリンさまが食べてください」


 でもミーナとしては、納得いかないところがあった。あれだけ、フレドリックから訓練と言われて走らされているのに、なぜか太る、という謎。

 フレドリックは、そうか、と言いながらお菓子に手を出していた。


「ああ、そういえば。エドがミーナのために新しい服を準備してくれるらしい。今の魔導士団の服は動きにくいのだろう?」


「え。本当ですか? そうなんです、動きにくいですよ。でも、オリンさまはこの服は魔力を高める力があるから、これを着ろっておっしゃるじゃないですか」


「ああ、そうだ。魔導士の服にはそういう力がある。だから、デザインだけをかえるらしい。動きやすいように」


「えっと。そのデザインを考えるのはどなたでしょうね。まさかの、団長ではないですよね」


「どういう意味だ?」

 フレドリックは眉をピクリと動かした。


「いや、団長が考えたら、ビキニアーマーとかになりそうで怖いです」

 ミーナが言ったら、ビキニアーマーとはなんだ? とフレドリックが不思議そうな顔をした。

いつもお読みくださりありがとうございます。

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