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1.

数ある作品の中からこちらに辿り着いてくださってありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ、と思います。

「俺と家族にならないか?」

 目の前でニッコリと笑っている男は上司のエドアルド。

 なぜ、こんな流れになったんだっけ? とミーナは頭を抱えるしかない。






 天才魔導士と呼ばれている男がいる。いた、ではなく、いる。今でも健在。その男の名前はフレドリック・オリン、年は二十八。十二歳で王立学院を卒業し、そのまま魔導士団へ入団した。ただこの天才魔導士にも欠点はあり、とにかく人と付き合わない。つまり、人付き合いが下手。むしろ下手を通り越しての人間嫌い。その人間嫌いの男が今でも魔導士団に所属していることができるのは、彼の上司のエドアルド魔導士団長のおかげだ。エドアルドはフレドリックの兄と同い年でありながらも、フレドリックとは同級生であった。そして彼より八つ上の三十六歳。この年齢まで彼と付き合うと、彼の人となりというものがわかってくるものである。


 魔導士団の中でも魔法研究部に所属していたフレドリックは研究一筋。すでにこの王宮に専用の研究室さえ構えている。そして天才故に、彼が魔物討伐に参戦すれば、騎士の出番は無いとさえも言われている。だが人間嫌いのフレドリックは気が向いたときにしか魔物討伐に赴かない。日々、自由気ままに研究に励んでいる。


「おい、フレド。魔物討伐の御指名だ」


 名を呼ばれた彼は、目を落としていた本から顔を上げピクリと右の眉毛を動かした。

「指名? 誰からの指名だ? 私を指名するようなもの好きはいないはずだが」


「いるさ、何よりもお前を指名したのは俺だからな」

 エドアルドが胸を張ると、フレドリックは嫌そうな顔をした。


「断る。時間の無駄だ。研究が遅れる」

 そこでまた本に視線を戻す。長い茶色の髪がパサリと肩から流れる。


「研究ねぇ」


 エドアルドは胡散臭そうなものを見るような言い方をする。だからといって、フレドリックの研究は胡散臭いものではない。


「まあ、いい。今回はただの魔物じゃないぞ。ドラゴンだ、ドラゴン」

 興奮して、エドアルドはその対象物を二回言った。フレドリックの眉が、またピクリと動いた。無表情な彼であるが、眉が動くときは何かしら興味を持ったということ。良くも悪くも。


 エドアルドはフレドリックの机に身を乗り出す。


「どうだ、俺と一緒にドラゴン退治に行かないか?」


 いつもの彼であれば、ここですぐに断るという答えが返ってくる。だが、それがこないということは。


「わかった。引き受けよう」


 エドアルドの作戦勝ちだったようだ。いや、むしろドラゴンという響きに惹かれたのか。


「それから、いつもの如く騎士団は出る。さらに、今回は面白いのを連れて行くからな」


「面白いもの?」

 またフレドリックの眉がピクリと反応した。どうやらエサに食いついたようだ。

「なんだ、それは?」


「今、教えたら面白くないだろう? 当日までの秘密だから面白いんだよ」

 言い、エドアルドは部屋を出て行った。残されたフレドリックは、再び魔法書を開いた。



 薬草の里のウルセライから王宮の騎士団へドラゴン討伐の依頼が来たのはほんの数日前。その対象物がドラゴンであったことから、すぐさま魔導士団へも話しがやってきた。ドラゴンはその性質上、騎士団のみでの討伐は難しいとされている。とにかく、火を吐く、牙を向く、そして飛ぶ。そのため、魔導士団のサポート魔法が必要であり、場合によっては攻撃魔法でドラゴンに対抗してもらう必要もある。


 その話を耳にしたエドアルドは一人の天才魔導士の顔が脳裏に浮かんだ。というのもそのドラゴンは通常の騎士団と通常の魔導士団での討伐は不可であると即座に考えたから。


 それから最近、騎士団の中に面白い人物がいるという話を耳にしていた。庶民出の自警団あがりの団員らしい。その面白い話に釣られて様子を見に行くと、その面白い団員からは魔力を感じた。だがけして強い魔力ではない。微力な魔力を器用に操っているのだ。


「君は、騎士として入団したんだよな」


「はい。私は騎士であります」


「だが、それは魔法だよな」


「はい。生まれつき、魔力が備わっていたようです」


「だったらなぜ魔導士にならない?」


「私程度の魔力では魔導士は無理であると判断しました」


「そう言われれば、そうだが……。だが、君はなかなか面白い」


 エドアルドが騎士団の団長に相談を持ち掛けたところ、その面白い団員は騎士団から魔導士団への異動となった。正確に言うならば、騎士団所属の魔導士団預かりという微妙な立場だ。騎士団の中でも優秀な人物ではあったのだが、微力ながらも備えている魔力のせいで、他の団員もそして団長自身も彼女の魔力の扱いに困っていたらしい。そこへ魔導士団団長自らの申し出。断る理由も無い。


「私は魔導士団団長のエドアルド・ニクソン。今日から君は魔導士団預かりだ」


「ミーナです。お世話になります」


 魔導士団の団長室。執務席の前に立っている一人の少女。騎士服に身を包む彼女はペコリと頭を下げた。


「君がなぜ魔導士団に異動になったか、わかるかな?」


「魔力がある、からですか?」


「それもあるが。君は今、非常に不安定な立場でね。我々は君のことを魔導騎士と呼ぶことにしたんだ。つまり、騎士でもなければ魔導士でもない。また言い換えれば、騎士でもあり魔導士でもある。だが残念ながら、この国に魔導騎士部隊もなく、さらに魔導騎士としての前例も無い。ぶっちゃけ、どっちにいっても扱いに困るし、どっちからも必要とされている」


「申し訳ございません」


「いや、謝ることではない。それに」

 エドアルドは言葉を続ける。

「君は、騎士団から『晴天の野獣』と呼ばれていることを知っているか?」


「なんですか、その痛い呼び名」


「君の二つ名だよ」

 言うと、彼女はものすごく変な顔をした。

「いればその場は明るくなるのに、ひとたび剣を振るうと野獣のようだ、と」


「もう少しかっこいい二つ名をつけてもらいたいものです」

 彼女が呟くと、エドアルドは笑った。


「そうだな、他の二つ名でも考えておくか。ただ、君が魔力を高めその剣技も極めてくれれば、この国にとって必要不可欠な存在になる」


「そうなったら、お給料は増えますか?」


 真面目にそんなことを尋ねる彼女が急に子供のように見えてきた。エドアルドは声を出して笑った。


「ああ。君がそれなりに活躍したら、給料は増えるだろうよ」


 エドアルドのその言葉に安心したのか、彼女は顔中に笑みを浮かべた。そのような表情をされると、今までよりも幼く見える。


「そんなに、生活に困っているのか?」


「私は孤児院あがりですので、今は騎士団の寮に住んでいます。ですから生活に困るようなことはありません。ただ、その孤児院へ恩返しがしたいだけです」


「そうか」

 エドアルドは右手の肘を机の上に置くと、その右手で顎を撫で、うむ、と考え込む。孤児院にこのような人物が隠れていたとは、盲点だった。もう少し幼いころから訓練を積めば、今頃それなりに、いや今でもそれなりなのだが、もっと早くからそれなりに使えたかもしれない。少しもったいないことをしたな、と思う。


「あ。騎士団から魔導士団への異動になりましたから、もしかして騎士団の寮も追い出されてしまうのでしょうか」


「あー、そうだな。急いで魔導士団の方で部屋を準備しよう」

 住まいを確認することを失念していた。異動と共に部屋を追い出されては、たまったもんではないだろう。これからの活躍が期待される魔導騎士だ。


「君の武器を見せてもらってもいいだろうか?」


 エドアルドは、ミーナの腰にさしてある剣を指した。彼女は両手でそれを差し出した。


「これが魔導剣?」

 彼が尋ねると、ミーナは頷いた。


「炎の魔法を付与してあります。ですが、魔物に合わせて武器に付与する魔法を変えます」


「器用だな」


「ただ一つ、問題がありまして」

 ミーナは真面目な顔をして右手の人差し指を立てる。

「私以外の騎士は、この魔導武具が使えないってことです」


「ん? どういうことかな?」

 エドアルドは椅子に寄り掛かり腕を組んだ。


「言葉の意味の通りなのですが。私以外の人が装備しても、魔導武具がただの武具になってしまって、魔法が発動しないんですよね。多分、私の魔法付与の仕方が悪いと思うのですが」

 ミーナもエドアルドの真似をして腕を組んだ。


「それは困ったね」


「はい。ですから、できれば魔法も教えていただきたいのですが、欲張りでしょうか」


「いや。君を魔導士団へ呼んだのは、君の魔力を高めることも目的の一つだ。誰か適任者を探しておくよ」


「ありがとうございます」

 ミーナはペコリと頭を下げた。すると、後ろで高い位置で一つに縛っていた黒い髪が、前に垂れ下がり、頭を上げると同時にその髪が後ろへと舞い戻る。まるで髪の毛にも意思があるかのように。


「ただ、魔導士団は少し曲者が多くてね。騎士団とは雰囲気が違うかもしれない」

 特に庶民であり、かつ孤児であったミーナには厳しい環境かもしれない。だから、それを含めて適任者を探しておく必要がある、と彼は考えている。

「それから。すぐにドラゴン討伐に向かう。悪いが、それは騎士団の指揮下に入ってくれ。向こうからの御指名だ」


「承知いたしました」


「では、すぐに部屋の準備をしようね」

 エドアルドは椅子をきしませると、ゆっくりと立ち上がった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブクマ・☆をポチっとしていただけると嬉しいです。

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