君に「好き」と言って欲しいから
初投稿です。
「おはよう、鳴海君っ!!」
「……おはよう、水月さん」
校舎の下駄箱前で私、高校2年生の水月瑠奈は彼、クラスメイトの鳴海雄大君に挨拶をする。
「鳴海君は今日の数字の課題やった?」
「1時間目の奴?やったけど水月さんはやらなかったの?」
「やったよ?だってあの先生厳しいし」
そっか、と返した彼と話をしながら同じ教室に向かい教室のドアの前に近付いた時、私は彼に声を掛ける。
「鳴海君……今日の私、どうかな……?」
「えっ?髪少し切ったの?」
「切ってないよ!でも髪は少し関係あるかな…?」
うーん、と私の髪をジッと見る鳴海君。私から話を振って置いてなんだが少しくすぐったい気分だ。
正面以外にも横から見て少し経ってすぐに気付いたようで、
「髪、今日は後ろでまとめてるんだ?」
と普段は肩まで下ろしている髪をポニーテールで結んでいる事に今気付いたようで聞いてきた。
「校舎前からずっとこれだったのに今気付いたの?」
「うん、横から見て初めて気付いた。ゴメンね水月さん」
申し訳なさそうに言ってくる彼に対して私は
「ううん、全然気にしてないから大丈夫!それでこれどうかな……?」
と髪をまとめている箇所を指差して改めて聞いた。
「そのヘアゴムみたいな奴?似合ってるよ」
「ヘアゴムみたいな奴、じゃなくてシュシュ!でもありがとう!!今日も頑張ろうねっ!!」
欲しい言葉が聞けて嬉しかったので彼から離れて教室に入っていった。
「瑠奈、今朝も鳴海と話してたね」
昼休みの教室で机を向かい合わせてお昼のお弁当を一緒に食べている彼女は萩尾志保ちゃんで幼稚園からの幼馴染だ。
ちなみに鳴海君は普段から学食を利用しているので教室でお昼は食べないので今居ない。
「うん、今日はこのシュシュが似合ってるて言って貰えたよ!」
「『言って貰えた』じゃなくて『言わせた』の間違いじゃないの?今朝のやり取りを見た感じだと」
「そうかも知れないけどさぁ……」
確かに言われてみれば鳴海君はシュシュには全く気付いてはいなかったし、結果的に私が言わせた形になっている。
ちょっと不満そうな顔をしていたであろう私を見て軽くため息を吐いた志保ちゃんは
「2週間ぐらい前だっけ?アンタが鳴海に助けられたのって」
と聞いてきた。それに対し私は
「うん、放課後に階段から落っこちた時にたまたま後ろにいた鳴海君に助けられて」
と答えた。
元々鳴海君とは2年生に進級して初めて同じクラスになった位で、同じクラスの男の子とほとんど話さない私は当然このまま何も無いだろうけどこの時は思っていた。
そんな彼と話すようになったきっかけなんだが、私にとっては間抜けとしか言いようがない出来事である。
その日の私は休日に志保ちゃんと行ったショッピングで一目惚れして購入した髪留めを着けていた。同じクラスの女の子達にも「似合っている」、「可愛い」など言われて上機嫌になっていた私は、髪留めを外してそれをニヤニヤと見ていた。
その時周りに人は居なかったとはいえ客観的にみてその時の私は少し気持ち悪かったと今になって思うのは私だけの秘密だ。
そのまま階段を登っていたが足元を良く見ていなかったせいで踏み外してしまい、背中を大きく打ちつけてしまうと思いながら衝撃を待っていたが私を待ち受けていたのは
少し固い安物のクッションの感覚と
『うぇっ』という男の子の声だった。
起き上がって振り向いてみるとそこにいたのが鳴海君だった。
「ごめん、鳴海君大丈夫!?怪我は!?」
当時の鳴海君の印象はクラスメイトの1人でそれ以外の印象は無かったが、助けてくれた恩人に対してありがたさと申し訳なさから思わず大きな声をあげた。
「大丈夫大丈夫、水月さんこそ怪我無い?それとこれ、水月さんのでしょ?」
そう言った彼の手に持たれていたのは私がさっきまで持っていた髪留めで、どうやらさっき落としたようだ。
「おかげ様でどこも痛くないよ。鳴海君ありがとう」
彼から髪留めを受け取りポケットに仕舞うと
「髪留め付けないの?」
と鳴海君から声を掛けられた。
「今はね、お手洗い場で鏡見ながら着けようと思って」
へぇ、と一言洩らした彼に私は
「着けてるとこ見たかったの?」
とわざとらしく聞いてみた。
「うん、教室で見た時に似合ってると思ったから」
「えっ、!!そ、そうなんだ……その…ありがとうございます…?」
別に、とか素っ気ない返事を予想していた私は「似合ってる」と言われて驚き、焦り気味に答えた。
その様子を見た鳴海君は少し困ったような顔をして
「あまり話した事ない男子からこんなこと言われても困るよね、ゴメンね?」
と言って来た。それに対し私は
「ううん、全然気にしてない気にしてない!むしろどう似合っているのか教えて欲しいかなって……あっ、」
若干食い気味に否定した後、思わず彼にとんでもないを聞いた事にほとんど言い終わった後に気付いた。
「鳴海君、最後の方はその……っ!」
「水月さんって普段から元気一杯なイメージあるし、その向日葵?みたいな柄が水月さんに似合ってて可愛いなって思ったんだけど……どうかした?」
「……っ!、ううん、何でもない!その……ありがとう!また明日ね!!」
そう言って私は会話を切り上げてその日鳴海君と別れた。
鳴海君に似合っていると言われ一瞬驚いたがそれよりも嬉しかった。
次の日から私から声を掛け話すようになり何気ない話だったり、今朝みたいな髪留めやシュシュみたいな小物類の感想を聞いたりする。
そんな私を見て志保ちゃんは
「瑠奈、鳴海の事好きなの?クラスメイトじゃなくて1人の異性として」
と聞いてきた。
「うーん、どうだろう?良くわかんないけど鳴海君と話してて楽しいかな」
そう返すと少し考えだした志保ちゃんを見て
「志保ちゃん去年鳴海君と同じクラスだったよね?去年の鳴海君ってどんなだったの?」
と聞いてみた。
「鳴海ねぇ……今と同じであまり騒がない奴だったけど一つだけ印象に残る出来事あるわ」
「何?」
「同じクラスの岸本っているじゃん?アイツも去年私と鳴海の同じクラスだったんだけどね…」
岸本君は同じクラスの男の子で誰とでも分け隔てなく話す人だけどちょっとグイグイ来るのが私はちょっとだけ苦手だったりする。
志保ちゃんは続けて
「岸本ってちょっとグイグイ来るところあるじゃない?仲の良い相手ならともかくそうじゃない相手にもそんな感じでくるから私はちょっと苦手だったのよ。それである日岸本が鳴海に絡んでてさ、私も席近かったから少し聞き耳立ててたんだけど鳴海が岸本に言ったのよ。
『岸本ウザい。俺とお前さ、全然仲良く無いのに何なのその距離感。迷惑なんだけど』って。」
「えっ……」
驚いた。普段話してる時はそんな事言う人だとは思わなかったし考えた事も無かった。
志保ちゃんは続けて
「私も聞いてて鳴海がそんな事言うとは思わなかったし、岸本もいきなり言われてショック受けてた感じだったし。それから岸本も少しマシになったんだけどね。」
そう言われてみれば岸本君にグイグイ話しかけられたとき少し返事に戸惑うと岸本君は話すのを止めて謝ってくることがたまにあったけど鳴海君が関係していたなんて……
それに今、私と鳴海の状況を考えると1つのイヤな事を考えてしまう。
「志保ちゃん、もしかして……」
「鳴海が本当は瑠奈の事を迷惑に思ってるんじゃ無いかっって?」
「うん………」
志保ちゃんが言った通りだ。この2週間のほとんどが私から話しかけていて鳴海君から話しかけてくれた事はほとんどない。今までは気にしていなかったが本当は私と話すのが嫌なんじゃないのか、ウザいと思っているんじゃないのかと凄い不安で怖い。
私の考えが表情に出ていたのか志保ちゃんは少し焦ったように
「で、でもさ瑠奈と話してる時の鳴海の表情は岸本の時と雰囲気違う感じだし、今話したのだって去年こんな事あったよっていう話をしただけだけだからアンタが気に病む必要は無いわよ?」
「志保ちゃん、心配してくれてありがとう」
「どういたしまして、アンタと私の幼稚園からの仲じゃない」
「瑠奈、私放課後に職員室に用あるんだけど終わったら一緒に帰らない?近くのカフェでお茶飲みながら話したいし」
「わかったよ志保ちゃん、教室で待ってるね」
放課後、私は教室の窓から外を眺めながら志保ちゃんを待っていた。
教室で待っている間考えてたのは鳴海君の事だった。志保ちゃんは心配いらないと言っていたが一度不安に思うと中々消えない。
もし、鳴海君に
『水月さん、ウザいからもう話し掛けて来ないで』
と言われたら。
考えただけで怖い、胸が苦しい。でもどうしてだろう?
最近仲良くなった友達だから?
きっとそうだろう。友達と喧嘩して仲直りするまで、胸が苦しくなる事は無くても仲直り出来なかったらと考えると凄い怖い気持ちになる事が良くある。
明日の朝、鳴海君に会ったらどうしよう。今まで通り話し掛けようか、それとも話し掛けないで通り過ぎてしまおうか。
そんな事を考えてる内に教室のドアが開く音がした。志保ちゃんかと思い振り返ると
「水月さん?」
「鳴海君……?」
そこには鳴海君がいた。
「水月さんどうしたの?誰か待ってるの?」
「うん、志保ちゃんと一緒に帰る約束してて、今職員室に行ってるの。鳴海君はどうしたの?」
「俺?俺は忘れ物しててそれを取りにきたんだけど……っと有ったコレだよコレ」
そう言って彼が見せたのは今日の授業で使った教科書だった。
「じゃあ俺はこれで…」
「待って鳴海君!」
教科書をカバンに閉まって教室を出ようとした鳴海君を、私は思わず止めてしまった。
どうしよう、まだ何も決めてないのにほぼ見切り発車の状態だ。怖いけど今聞かないときっと後悔する。そうも思うから今聞こう。
「何、水月さん」
「えっとね、……最近鳴海君に良く話し掛けるじゃない?今朝までは気にしなかったんだけどね、もしかしたら迷惑だったんじゃないかなぁって思って……」
「迷惑、ねぇ……」
そう呟いた鳴海君、その沈黙が辛くて私はまた話す
「無理に気を使わなくて大丈夫だよ?私こう見えて打たれ強いし」
「いやそういう訳じゃないんだけど……もしかして去年の俺と岸本のアレ知ってる?」
「うん、志保ちゃんに聞いて……」
「志保ちゃん、志保……あぁ、萩尾さんか。あの時近くの席いたから聞こえてたのか」
そっかぁ、と呟いて気まずそうに頭を掻く姿をみて私だけでなく志保ちゃんにも良くない感情に抱かれる事が怖くて、志保ちゃんは悪くないと説明しようと口を開きかけたら
「水月さん」
「は、はい!!」
「別に水月さんの事は迷惑だとは思ってないよ?」
「でも去年のは……」
「岸本のは本当に嫌だったからそう言っただけ。水月さんと話すのは楽しいよ?」
「そうなんだ……良かったぁ」
そう言った鳴海君の表情は柔らかく、私はさっきまで抱いていた不安が吹き飛んだ。
「それにさ……」
「それに?」
「水月さんには感謝してるんだよ?」
「えっ?」
どういう事?迷惑じゃなかった事は良かった。でも感謝される事はした覚えがない。
必死に記憶を呼び覚まそうとしている私を置いて鳴海君は喋りだした。
「中学のときも2週間ぐらい前の水月さんみたいに前を歩いてた女の子が転びかけてた娘がいてその娘を助けたんだよね」
「そうなんだ……」
「でもその娘に言われたんだよね
『どこ触ってんの、気持ち悪い!!』
って」
「ヒドいよ、そんなの!」
「その場にいたその娘の友達もそう言ってくれたんだけど余計興奮して結構言われたんだよね」
「それで鳴海君はどうしたの……?」
「……それなりにショックだった。でもその日が金曜で土日挟んで月曜にはその娘も謝ってくれたんだけどね」
その時を思い出したのか少し困ったような表情をした彼を見て
「鳴海君はその人の事が好きだったの?」
「いや、そういうのは無かった。ただ良かれと思ってやった事が否定されたのがショックだったって話だよ」
「でもそれがどうして私に感謝してる事になるの?」
これまでの話を聞くと嫌な思いをしただけだし、なにより私が全然出て来ない。
鳴海君は続けて
「その中学の一件があってから人助けがちょっと苦手になったんだよね、手を伸ばそうとしても伸ばせなくて。でも事故とはいえ水月さんを助けた感じになったじゃん?その水月さんから『ありがとう』って言われて嬉しかったんだよね」
そう言った後、一呼吸置いた彼は私のほうを見て
「だから俺は、」
「あの時助けたのが水月さんで良かった。ありがとう」
照れくさそうに笑った
「……っ!!」
言葉が出ない。「どういたしまして」と言えば良いのに、今朝みたいにちゃんと返せば良いのにどうして?
鳴海君を見るとドキドキする。顔が赤くなってる感じがする。どうしてだろう?
まるで彼が好きみたいな―――そうか、
私は鳴海君の事が好きなんだ、1人の男の子として
そう納得出来たら頭の中がさっきまでとは打って変わってスッキリした
私が何も言わないのを見て鳴海君はバツが悪そうな顔をして
「ちょっと気取ったセリフだったかな?気持ち悪くてゴメンね?」
と言ってきた
「ううん、全然!凄く嬉しかった!鳴海君ありがとう!!」
「そっか、良かった。それじゃまた明日、学校で」
鳴海君はそう言って教室の外へ向かって言った私はその背中に向けて
「鳴海君、また明日ね!!」
と返事をした。
鳴海君と入れ替わるように志保ちゃんが教室に入ってきて
「瑠奈、お待たせ。さっき鳴海とすれ違ったけど何か話したの?」
「志保ちゃん、カフェ行こ!聞いて欲しいことがあるの!!」
カフェに入って注文の品が届いた後、私は志保ちゃんに話した。
放課後に鳴海君と話した事、彼に恋をした事を
「ふーん、昼休みは全然違うって言ってたじゃない?」
「うん」
「放課後にそう言われて好きになったって事?」
確かに今の話を聞くとそうかも知れない。でも、
「違うよ志保ちゃん。私もさっき気付いたんだけど、あの時階段から助けて貰った時からもう鳴海君の事が好きだったみたい」
今ならわかる。似合っていると言われた時に嬉しかったのは鳴海君だったからなんだ。他の男の子に言われても鳴海君とは全然違う。
ふーん、と返した志保ちゃんは聞いてきた。
「瑠奈、鳴海に告白しないの?」
「まだ告白しないよ。まだ鳴海君の事わからない事あるし私の事を全然知って貰ってないし」
彼はまだ私の事を友達、いやクラスメイト程度にしか思ってないだろう。
今の状態で告白してもそれは友達として『好き』と言われる位だ。
私はその先の関係になりたい。鳴海君に1人の女の子として『好き』と言って欲しいからー。
「瑠奈、頑張りな私も力になるから。まずはここの代金奢ったげるから」
「志保ちゃんありがとう!私、頑張る!!」
翌朝の今、私は下駄箱前にいて、近くには私の好きな男の子、鳴海雄大君がいる。
今日の私は髪をおろして髪留めを着けている。鳴海君と話すキッカケになったあの髪留めだ。彼は気付いてくれるだろうか、いや気付かなくていい。
これは私の私による私の為だけの決意表明だ。ここから始まるんだ――。
私は一歩踏み出すと足音が聞こえたのか鳴海君がこっちを向いた。
そして私は彼に声を掛けるー
「おはよう、鳴海君っ!!」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
感想等を気楽に書いて頂けると嬉しいです。