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Interude-4*金色の瞳

 長い長い時間の中で、私は死んでいた。

 長い長い孤独の時間は、絶望を産み、

 長い長い絶望の時間は、希望を塗りつぶしていった。


 絵画の猫だから、

 食事を必要とすることもなければ、私は成長することもない。

 成長もしなければ、私は老いることもない。


 絵画の猫だから、

 話しかけられることもなければ、私が話しかけることもない。

 耳は声を拾っても、私の叫びが誰かの耳に届くことはない。


 壁に飾られる日もあれば、資料室に埋もれる日もあった。

 壁に飾られて陽射しを浴びても、人の視線を浴びることはなかった。

 画伯による猫でもなければ、高名な人物でもないのだから、一体、誰が私に注意を払おうか。


 月日は流れ、

 人は死に、新たに生まれ、成長し、死んでいく。

 何度もそれを繰り返す。

 でも、私は変わることなく死んでいた。


 いつしか年を数えるのに飽き、

 神に幸運を求めて祈ることをやめ、

 悪魔の出現すらも望まなくなり、

 ただ死んでいた。


 あの日がくるまでは。


 ━━猫ちゃん、おはよう。今日はいい天気よ。金木犀が咲きだして、外はいい香りなの。

 ━━猫ちゃん、今日は雨だよ。いっぱい汚れちゃうから、明日は掃除が忙しくなって、ここで本は読めないわね。

 ━━猫ちゃん、今日は戻ってきた本が多いから、また明日ね。


 穏やかな光量の図書室に、階段を上がる足音が響き、

 足音はだんだん大きくなり、近づいてくる。

 額縁の中の私の前にぴょんと茶色の髪が揺れた。

 金色の瞳が、私を覗き込んだ。


 ━━猫ちゃん。

 ━━猫ちゃん。


 二百年ぶりに私へ声をかけてきたのは、この図書室の掃除娘だった。

 クリスティーンの銀色とは正反対の金色の瞳の娘であった。


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