Interlude- 2 * 魔法使いの記憶
私を絵画に封印した魔法使いは、不慮の事故で亡くなった。だから、私の封印は完全に解くことができなくなった。
私を絵画に封印を命じたかつての友人は、私の願いがこもった指輪を渡し、……ティーンを自分の妻にした。
━━もう、……ザックは帰ってこない。王太子殺害未遂事件の主犯だから、永久追放になってしまった。もう、……ザックは帰ってこれないんだよ。
私の無実を信じる……ティーンは、友人の言葉を信じない。
━━……ザックはそんなこと、しない。一緒に、私の田舎へいって暮らすのだと約束したから。彼が無実の罪を晴らして迎えにくるのを待つわ。
愛しい私の……ティーン、私の無実を知る……ティーン。
君だけは、私を信じてくれる。
━━わかるよ、……ティーン。あいつはいいヤツだった。僕だって、俄には信じられなかった。
でもね、永久追放だから、いくら君が待っていても、……ザックは帰ってこない。帰ってこないんだよ。
━━ファビアン、あなたのいうことはわかるわ。でもね、私はやっぱり……ザックが好きだし、……ザックを信じていたいの。
━━……ティーン、君の気持ちを尊重するよ。なら、僕も一緒に待っていよう。ひとりで待つよりかはふたりで待つ方が、ずっと心強いだろうから。
━━ファビアン、ありがとう。でも、ファビアンにはファビアンの都合があるだろうから、そのときはそちらを優先してね。
━━本当に、なんて君は優しいんだ。ありがとう、……ティーン。そのときがきたらそうするよ。それまでは、僕が君のそばで一緒に待っていてあげる。
私の存在は日毎に悪評が重ねられ、それまで築いてきた信頼はどんどん地に落ちていく。
そんな周りの辛辣な言葉に、私を信じて待ち続ける……ティーンは心身ともにどんどん疲弊していく。
奴はその状況をうまく使い、ますます……ティーンを囲い込んでいった。
━━……ティーン、やっと気持ちの整理がついたのだね。嬉しいよ、君が僕の花嫁になってくれるなんて。大事にするよ。ずっと一生そばにいる。
私の存在は、王太子の兄を殺害しようとした第十五王子。魔力が他の兄弟よりもほんの少しだけ強かっただけで、それを鼻にかけ、王位に就こうとした愚かな反逆者。
奴は狂った友人の暴走を止めることができなかった正義の貴族令息。長年の私との友情と国への忠義の狭間で悩んだ末、最後には悔やみながらも王子の私を告発し国を守った英雄。
真実を知らない……ティーンが、どんなに心を強く持っていても、一向によくならない現実に心の限界がやってくる。
私は無実だが、絵画封印されては何もできない。苦しみ嘆く彼女に、優しく声をかけることも、震える肩を抱くことも、零れる涙を拭ってあげることも。
それならば、悔しいけれど、願うは……ティーンの幸せだけ。
私ではなくあんな奴とだけど彼女が幸せになるのなら、この額縁の向こう側から見守ることにしよう。
……ティーンが幸せであるのなら。
だが奴は、兄王の要求に応じて、妻……ティーンを愛妾として差し出したのだった。