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第二話:旅立ち

誰もが拒否をした。

深く関わり合いたくないというような目をしていた。

魔王も勇者も孤立を望むのは、きっと一人で生きていけると信じているからなのだろう。

仲間は、増えなかった。


「やっぱ、女性だけでなく男性にも声をかけた方がいいんじゃないんすかねー」

「いや、まあ、そうなんだけど」


そうなんだけどさ。


「その方針でもう十日くらい歩いているじゃないか……」


そうなのだ。

全くもって誰も仲間になってくれない。

性別、年齢、住所に国籍その他もろもろ問わず声をかけているのだが。

誰も関わりを持とうとしない。

そこを見抜いて、ユミはとうとう断ってきた相手に罵詈雑言を投げつけるまでになった。

相手はそれを聞こえないふりして立ち去るのであるが。

十日間同じ場所に滞在しているせいもあるだろう。

けれども、下手に外へ出てモンスターに返り討ちにされても困るのである。


「性格が暗ければ暗いほど魔力が強いとかそういうことだったりー」

「それは困る。見ず知らずの他人に話しかけるのが苦手なシャイボーイである俺にとってきつすぎる」

「……」


冷たい視線を送られる。


「いやいやいや!本当だって!」

「スカートめくり」

「ああ、あれはなんか恥ずかしさより欲望の方が――」


ドスッ

欲望を体で持って体現する優れものな器官が蹴り上げられた音である。


「だって、なんか他の人とは違う感じがしたんだモン……」


本格的に痛みが体中を駆け巡る前に。

俺は言いたいことを言った。

倒れる。

悶絶。


「それが彼の最期の言葉となった――」


そう言って彼女は去って行った。

一人取り残された俺を、通り過ぎる人々がちらりと見ては見なかったことにして去っていく。


人間は、

世界は、

孤独だ。


股間を押さえながら俺はそんなことを思っていた。



やがて復活。そして合流。


「げー、まだ生きてやがったー」


不満そうだ。

ならば仕方がない。

俺は素早く姿勢を低くして手でユミのスカートの裾を掴み、思いきりめくる。


「……」

「……」


沈黙。

彼女の手には金槌が握られていた。


「金槌を買ってみました」

「はい」

「これであなたを殴ろうと思います」

「ふっ」


俺は鼻で笑った。

金槌で?殴る?

ばかばかしい。

そもそも俺は勇者だ。訓練されているのだ。武装した人間の攻撃と言えども武器は所詮金槌であって、そのような短い武器では俺を捉えることなど月を掴もうとするかのごとく不可能であり、仮に当たったとしても拳で太陽を砕こうとすること並に無意味な攻撃でしかないの――

ごいんっ

俺のマジカルスティック(伸縮可能)に直撃していた。


「そういや、最近、民家やら宿屋やらが一晩のうちに消えたりすることがあるそーですよ。魔女がうんたらと言ってました。絶対何かのイベントフラグだと思うんでここで話させていただきますが」

「……」


重要そうな話をこんな時にしないでください。

俺は地面に体を密着させている。というより、立てない。

……フラグ?

なんだそれ。


「とりあえずその魔女を味方につけられたら心強いのではないかとー。あるいは倒せば経験値ががっぽがっぽとか。そういうわけで派手な行動をしてそいつをおびき寄せるというのはどうですかねー」

「……」

「おや?」


喋る余裕がなかった。

意識も朦朧としてた。



「で、その魔女に遭遇するとして」


復活。

攻撃の影響で機能が破損していないか不安である。


「どうやって戦うの?」

「戦ったら負けるに決まってるじゃないですかー」


問題点多し。


「まー、別にそんなことはどうでもいいのですよ」

「なぜに」

「とりあえず、何らかのイベントを発生させて話を進行させるなり何かの情報を手に入れるなりしないとならんのですよ」

「……君は時々わけわからんことを言う」

「あるいは、外に出て別の場所に行くしかないです」

「!!」


とんでもないことを言ってきた。

外に出るだって!?

とんでもない。

モンスターと遭遇したらどうするんだ。

死んじゃうぞ。痛いぞ。辛いんだぞ。


「気になったんですが」

「……なに」

「モンスターなんて出てくるんですかね?」

「はい?」

「いやー、恥ずかしながら長らく旅をしていますが一度たりとも遭遇したことがないのでー」


なんてやつだ。


「そりゃもう頻繁に遭遇するという話だ。しかもそのモンスター、攻撃が効かないのなんの。遭遇したが最期だって話が主流。だから勇者といっても外に出ることはほぼ無いね。わざわざ命を落としにでかけるほど馬鹿じゃないというか、死んじゃったら魔王だって倒せないしさ。そういうわけだから外に出ることは勇者界では最も愚かな行為だと――」

「……」

「どした?」

「外に出ない勇者に仲間なんて必要なんでしょうか」


……あ。


「そもそも外に出ないなんて半ばひきこもり同然の勇者じゃないっすか」

「勇者と呼ぶに値するかどうかも怪しいな」

「自分ダイスキーが多いというかなんというか、それで勇者かよ!っていう感じです」

「ああ、まったくだ」

「というわけで外に出ます」


良い様に誘導された!?

このままでは命の危機だ。

逃げよう。


「そうか……達者でな」

「さあ行きましょうー♪」

「いやだー!死んじゃうー!」


首を掴まれて引きずられていく俺の図。

別に外に出なくたっていいじゃないか。

本当に魔王を倒すつもりか?彼女は。

俺は面倒な人間を仲間にしてしまったなと思った。

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