第十四話:敵
もしもこの街がユミによって変化したように。
俺の力で何かを変化させたら、どのようになるのだろう?
ケーキ屋とかはまずないだろう。
セクハラ専門店みたいなものはできるかもしれない。
あとは……。
やはり、他の街とあまり変わらないのだろう。
本質的にはこの世界と俺は同一人物だ。
「かぁぁわぁぁれぇぇぇ!!」
金槌屋を思いきり殴る。
そして、拳から壁へ魔力を思いきり注ぎ込む。
さあ、どうなる。
全く別の建物に変わるか?
建物が跡形もなく消えるか?
「うぐぐ」
これでもか、というくらいの時間を使って魔力を注入する。
何になったらいいだろうか。
やはり、セクハラに役立つ道具が売っている店ができてほしい。
これまでより高精度のセクハラをするのだ。
他人より優れたことをするのは勇者として当然であるだろうし、他人には想像もできないような、そう、「想像を絶する!」なんてことを口走らせるようなことをしてみせてこそ英雄として認められるわけである。
それを補助するための道具というのは必然的に必要なのであって、勇者にはそういうスペシャルなアイテムがつきものである。
「でりゃああああああ!」
拳を離して飛び退く。
バク宙(←意味ない)。
そして、着地。砂煙が立ち込める(←でも意味ない)。
視線を上へ向け、目を光らせる(←限りなく意味がない)。
「ええええええ!?」
変化なしだった。
そこには金槌屋。
中に入れば金槌。
なぜだ。
あいつらにできて俺にできないなんて何事だっ!
とてつもない劣等感。
溢れだす劣情。
……なぜそうなる。
「けっ、女性は強いってか」
前かがみになって、体を大きく横に揺らしながら歩く。
そういえば、図書館は無事かな。
大惨事になっていたから、ユミの影響を受けているのだろうけど。
例えば、日記。
あれは今となっては色々なことを理解するにはもってこいなアイテムだろう。
他にも世界がどういうものかわかった今では重要な意味を持つものはあるはず。
そこらへんのキーポイントは残っていないとまずい。
「ぬう」
本屋になっていた。
諦めるな俺。
まだ本屋なんだから、本はある。
中に入る。
男が二人で抱きあっている絵が視界に飛び込んできた。
半裸。
半裸です。
「ぐふぅ」
挫折してもいいですか。
というより、女性でもこの絵はきついだろ。
趣味の世界は不思議に満ちている。
今日は、謎に包まれたユミの趣味をご紹介しよう――
不思議を発見し放題。そんなにおいがした。
「うげ」
「ぎゃー」
「ひいいいいい」
「うっ」
「あああああ」
「きゃああああ」
全部俺の悲鳴である。
所々、人間の趣味とは思えないものもありました。
世界よ、安心してくれ。
もっとおかしい人はいっぱいいます。
ぐっ。
心の中で親指を立てて、不敵に笑った。
誰に投げかけたメッセージかは自分でも不明だが。
「それはともかく、日記。日記を」
探す気にはなれないが。
一冊ずつ、確かめていく。
地獄だ。
例え一見まるで関係なさそうなものでも、重要だったりするかもしれない。
俺はそう思いつつ、ゾンビの眼球の写真を眺める。
そう、ゾンビの眼球。
ここから連想するメッセージが何かを解決するヒントになったりするかもしれない。
見つめる。
ちょっと、眼球が動いた気がする。
いやまさか。
紙だぞ?
いくらこれがどんな呪いのかけられている書物であったところで、そんな超常現象は起きないだろう。
うごうご。
……動いてるなあ。
不思議だ。
こんな不思議な本だ。
きっと重要なアイテムに……
この世界にとって有益なヒントに……
「ならねーよ!!」
叫ぶ。
ただのユミの趣味だ、これは。
日記だ日記。
とにかく日記を探そう。
「……」
結局、見つからなかった。
見つけなくてもいいものを見つけてしまった。
理解しなくてもいいものを理解してしまった。
僕は、僕は……。
ぐすん。
「どうしたんですか?泣いてて?」
「男だろうと関係ない。僕は君を欲しいんだ」
「っっっ!?」
「君のどんな部分だろうと、僕は愛しているんだよ」
「ななな、なぜそれをををを!?」
「ふ、ふふ、ふふふふ」
ユミと楽しく会話した。
スーパー拒絶魔女を発見。
質問に対する回答が得られそうなのはこの人だけである。
おかげさまで有力な資料もないしな。
「なあ」
「なに」
「魔王を倒したら、この世界の主はどうなるんだ?」
「……」
黙りこむ。
やがて、口にしたのは
「どうなると思う?」
疑問文で返された。
考えろ、ということか。
「魔王は、一番魔力が強いんだろ。ってことは魔王はこの世界の中心人物ってことになる。それが倒されるってことは、この世界の主に精神的にただならぬダメージがくるんじゃないのか?」
「……まあ、そのような感じだけれど」
ナイス俺の推理。
「ただならぬダメージでは済まないでしょうね」
「……はい?」
「おそらく、人間の抜け殻と言うべき状態になるのだと思うわ。この世界の人間で試したらそんな感じだったから」
「な、な」
なんだってーー!!
魔王さんめちゃんこ重要な立場でいらっしゃりすぎではございすぎませんか。
「だから、代わりにあなたを魔王にしてある程度安定させるつもりではいるわ」
「なんと」
「それだけ大量の魔力を早く持てるようになっていただきたいと思う次第でございます」
「ぜぜ、善処しまふ」
つまり。
魔王を倒すと主が人間の抜け殻になる。
それを防ぐには誰かが代わりの魔王になる必要があって、俺がそれの候補。
ということか。
話が単純で助かる。
「ただ、あなたはもっと頑張る必要があるわ」
「え?」
「私がこの世界のものを消し、彼女はこの世界のものを変化させる。それは、それだけ本来のあなたが欠けるということよ」
それは、俺と彼女たちが敵であるという宣言だった。




