第十三話:変化
街が変わっていた。
破壊された建物が可愛らしくなって復活している。
「うおおおおっ!?」
ぬいぐるみが歩いている。
「世界の人間を変えれば、世界の主も変わるわ。世界の主が変われば世界も変わるから、当然の結果ね。……しかし、あなた高校生でこれは……」
「いやー!私の頭の中まるわかりー!」
お菓子屋さんがある。
服屋がある。
そしてお菓子屋さんにお菓子屋さんがあり、その隣にはケーキ屋さんが存在している。
「女の子って怖い!」
なぜか恐怖を感じた。
「なぜ恐怖するんですか」
「おっ、エローンなお店発見ー」
「ない、そんなものないっ」
いや、ありますよ?
「ほら、そこに」
「ないです」
「どう見たってぐふふなお店っすよ?」
「幻覚ね」
「はい!?」
幻覚だと!?
そんな!
くっくっく、口ではああと言いながら――
っていう展開じゃないの!?
「なんてことだ、おそるべし」
それでも何か。
こう、やつにとって恥の塊であるような店はないのか。
きゃー、お嫁に行けなくなっちゃいますー。
っていうような店が物影に隠れてひっそり営業中なはずだ!
探す。
「おや?」
飾り付けが多彩な他の店と違い、可愛げのない店を発見した。
目立たない看板からはまるで、お店ではないですよ、と言いたげな空気すら感じる。
「ここだな……」
入る。
「ククク!お前の頭の中の恥をご堪能してやるーーっ!!」
金槌ショップだった。
ありえない。
眩暈がする。
「落ち着け……まだ俺はセクシャルしてない……ハラスメントじゃないんだ」
がくがく。
頭が全く働かない。
倒れそうになる。
うう。
早く出なければ。
「……どうしたんです?顔色が悪いですよ?」
「オマエハオレノテキダーッ!」
「きゃー!?」
気がついたら金槌で叩かれて気絶してました。
これはある人間が作り出した
架空の世界の話。
これは架空の世界で
旅をする勇者たちの話。
これは旅をする勇者たちの
戦いの話。
これはその戦いの
記録。
彼らは名乗る。
勇者軍団アセトアルデヒドと。
彼らは、メンバーの一人であるユミの魔法によって彼女らしさが前面に出た街で、休息をとっていた。
露天風呂である。
彼女らしさが出たその風呂は美容などに効き目があるらしい。
即決だ。
もはや旅などどうでもいいと言わんばかりに、その温泉での滞在が決定した。
二泊する予定らしい。
「ごくらくー」
女風呂。
それは男にとって覗いてみたい場所である。
しかし、ジカルマはもう寝ている。
ジカルマはもう寝ているのです。健全なる紳士のみなさん。
ここで念を押してみなさんに把握していただきたいことは、寝ている彼にとって、女風呂を覗くだなんてことは生きながらにして天国の花畑を見ることに匹敵するほどに不可能であるということなのです。
ですから、ここで二人の女性が一糸まとわぬ姿で存在している、その光景を彼はたとえどんな優れた美術家であったとしても記録することはおろか、記憶することもできないのです。
当然のことでしょう。知覚できないのですから。
そう、知覚していないのですよ。紳士のみなさん。
彼は金槌のことも頭の中から放り出して、安らかに眠っているのです!
この夜だけは、少なくとも彼は安全であるはずであり、安全でなくてはならないのです!
「胸が大きくなる温泉とかないんですかねー」
お、おおおおお!
ひっひ!!ひっひーー!
んぬー! んぬー!!
ナイム!ネナ!!イムネ!!!
ハナヂブー!!
やばい、やばいですよ。
これは映像メディアじゃなくてよかったですよ。
DVD修正版じゃないと見ることができない映像ですっっ!!
「これは、やばい。やばすぎるぞー」
「あなたの命がね」
真後ろから冷たい冷たい声。
まるで背中に氷を入れられたみたいだ。
「ひいいい!?」
「このクソ弟が……」
「ぼぼぼ、ぼくジカルマじゃないよよよよ」
「今回はあなたの視線で進行する回なのでしょうがっ!!」
蹴り、いただきました。
天国のお花畑、ちょっとだけ、見れました。
ぼくたちーわたしたちはーきょう、はばたきますー。
「どこにだよっ!」
目覚めると、真っ暗な部屋で寝ていた。
随分長いこと気絶していたようだ。
「ぬう……」
二人はもう寝てしまったのだろうか。
部屋、別だからわからん。
ちょっと待てよ?
二人が仮に寝ていると仮定する。
寝ているときは無防備だ。
さすがに寝ているときに金槌を正確に振り回せるはずがない。
ということは、今がチャンス……?
そして、どちらかが妊娠するのだ。
しかし、俺が治療方法のない病気にかかってしまい、衰弱していくのである。
死を目前にどんどん近付く二人の距離。
必然として待ち構える俺の死。
一人残されて、まるで世界から孤独になってしまったような、そんな空っぽな感情が立ち込める。
だけど大丈夫。
私はこの子供を産む。
そして彼の、ジカルマの分も頑張って生きるのだ。
完。
「ちょー泣ける」
「どこがだよ」
一人でボケとツッコミをする。
後はこれで大爆笑してくれる良い人間がいたら夜通しで笑い飛ばせたのだろう。
でも一人だと空しいので寝た。
「おやすみー」
「うん、おやすみー」
「また明日な」
「おう、また明日」
一人芝居を十分くらい続けてから寝た。
その日、俺はユミとサキさんから襲われる夢を見た。
普通の意味で襲われた。
殺されかけた。
わけのわからない力で、体を食いちぎられそうになる。
そんな夢だった。




