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第十話:影響

ついに着いたのだ。

思ったよりも短かった。

敵を殺せば、そいつの金が奪える。

その金で移動することができる。

我ながら、スムーズな行動だった。

まるで、想像していたよりもはるかに道のりが短かったような。

そんな感じだ。

それにしても、これまた想像以上に人を殺した気がする。

どうしても返り血がかかってしまうのが問題だ。

不衛生。

あ、そうだ。短剣を買い替えることにしよう。

さすがに、新品でないと不安が残る。

いつでも殺せる準備は必要だ。

例えば、今目に入った勇者っぽいやつが、俺の命を狙っていたとしたら?

攻撃してくるまで待つよりも、先に殺してしまった方がよいだろう。

……。

短剣二本分の金を手に入れた。

少し騒がしいな、と思うと、俺と目があった人間がどんどん逃げ出す。

なんだなんだ?

何が起きている?

そう戸惑っていると、誰か来た。

本当になんなんだ?

誰か説明してくれ。

……とりあえず、追加で大量のお金を手に入れた。



図書館の前に、魔女がいた。


「おひさし」

「……久しぶりね」


ザ・セクハラターイムッ☆

と飛び込もうとしたら、吹っ飛ばされた。

魔法の威力は今日も絶好調なようだ。


「あなた、やけに赤いのだけれど」

「赤?ああ、返り血?」

「やけにそれっぽい色をしていると思ったら、まさにそれだったのね」

「そりゃ、人殺せばつくよ」


そこに、また武装した集団がやってくる。

しつこいなあ。

殺す。


「なんか、この街に来てから俺、追われてるんだよね」


死体の持ち物を探る。

ぴくり、と体が動く。

あれ?

まだ生きていたのか?

ぐちょり。

念のため、もう一回刺しておく。

ぐちょ、ぐちょ、ぐちょ。

動かなくなったのを確認。

再び持ち物を探る。


「武装しててさ、服装が同じだから同一集団だとは思うんだけど」

「その人たちは治安を守る人たちよ」

「治安を?」


ぐちょぐちょ。

財布発見。

中身を見る。

よかった、赤くなってない。

二人目の持ち物を探る。

一人目みたくまだ息があったりするかな?

とりあえず、確実に生きていない状態にする。


「で、治安を守る人がなんで俺を襲ってくるわけ?」

「……」


反応がない。

俺は黙々と作業をしながら返答を待つ。

持ち物を探り終わったやつはわかりやすいように背中を傷だらけにしておく。

四人目の持ち物の捜索を始めたところで、返事がきた。


「あなたがちょっと見ないうちにそこまで狂っているからよ」

「狂う?」

「まだユミのようになった方がましだったわね。答えはまだ見つかってないのでしょう?」

「答え?ああ、そういえばそれを探しにここに来たんだっけ。ところでユミは相変わらずなの?」

「ええ。変わったのは図書館に足を運ぶようになったってことくらいね」


それは困った。

どうにかして元気を出させないと。

俺との再開で元気になったりしないか?

無理か。それは。

とりあえず、手に入った金で豪華なご飯でもどうだろう。

豪華なものなら食えるのではなかろうか。

そうと決まればがんばらなくっちゃな。

ぐちょぐちょぐちょ。

捜索の効率を上げる。

お金は結構手に入った。

豪華なご飯どころの騒ぎじゃないぞ、これは。

そういうわけで、図書館に入ろうとすると、吹っ飛ばされた。

魔法?

魔女の、か。


「何すんだよ」

「何をするつもり?」

「ユミに会って、景気づけにご飯でも、と」

「あなた、その状態で?」

「その状態って何のことだ?」


わからない。


「血まみれの明らかに人を殺してきましたっていう格好で会う気なの?」

「あー」


そっか。

人殺すの、苦手だもんな。

それが原因でこうなっちゃったんだもんな。


「それ以前に、今のあなたのような危険な存在を彼女に近づけるわけにはいかないわ」

「危険?なんで?俺、ユミに攻撃なんてしないじゃん」

「たった今大量虐殺をした人間がそれを言ったところで、説得力はないわ」


魔法の圧力にかまわず、前に進む。

前に進めるとわかった瞬間、魔女は俺が何を言っても反応しなくなった。

その代わり、魔法の力が一気に強くなって、俺は吹っ飛んだ。


「いてー」

「弱いというのは、困りものね」

「何が」

「弱いと、それだけ変化しやすい。中途半端に弱いあなたには、殺人の影響は大きすぎたのよ」


わけがわからない。

と、そこに図書館からユミが出てきた。


「あ、ユミ、おひさー」


手を振ると、ユミは固まった。


「どうにかやっていけてる?」

「その、どうしたんです?」

「どうしたって、何が?」

「その……血……」

「ああ、返り血だよ」


人を殺して、持ち物をあさるんだ。

そうするとさ、財布を大抵持っているんだ。

それで資金を入手してさ、馬車とかで移動するんだ。

これが結構便利でさ――

そう話していると、ユミがこちらへ歩み寄ってきた。


「ばか」


そう呟いて。

意識が一瞬飛ぶ。

何が起こったのか、理解できなかった。

顔が痛い。

そして、意識の飛ぶ少し前に捉えたユミの足から、俺が蹴られたことを認識した。


「な、なにを」


するんだ。

そう口から出る前に、ユミはどっかに行ってしまった。

なぜ俺は蹴られたんだ?

思考する。熟考する。長考する。

なぜ?

なぜ?

なぜ?

……ああ。

そうか。

人殺しってよくないことなんだな。

まだ魔女が傍にいた。

魔女に話しかける。


「俺、悪いことをしてたみたいだ。それも、随分と過激なの」

「ようやく、気付いたのね」

「変化しやすいって、このことか」


思えば、いつの間にか殺人が平気になっていた。

生活の一部になっていて、

そして、普通の行動となっていた。

で、今蹴られて。

身近な人からばかとだけ言われて、蹴られて、それだけで。

それらに気付いてしまった。

殺人が平気でない人間にまた変化した。


「なんで、弱いと変化しやすいんだ?」

「それがこの世界の常識だからよ」


魔女は平然と言った。


「それに、意思が弱ければ影響の強いものに飲み込まれてしまうから」

「……へえ」


しばらく、ぼおっと考える。

……あれ。


「もしかして、ユミに影響されてる?俺」

「ええ」

「……俺ってユミより弱いの?」


不安。


「そうじゃないわ」


魔女はユミが去って行った方向を見た。

俺もそれにつられてそっちの方を見る。

ユミの姿はまだ見える。


「あれが彼女の力だからよ」


明確にわかる答えは、俺には与えられなかった。

とりあえず、彼女に感謝をしなくては。

そして、彼女を元気にしないと。


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