第一話:出会い
魔王がいた。
魔王は結構悪いやつだった。
他人より相当強烈な魔法を使えるからって好き勝手しやがるのだ。
他人より優秀なんだから、魔法を使う仕事を全部やってくれ、と思ったりもする。
そういうわけで、この俺、ジカルマは勇者をしているのだ。
理由は俺も他人よりかは魔法が得意だから。
ちなみにそういう人間じゃないと勇者になれなかったりする。
なので、俺は割と優秀なのだ。えへん。
そして、そんな俺は現在仲間を探している最中。
でも同じく勇者やってる連中はプライドが高いのか、一人で行動する。
もしかしたら他人と話すのが苦手なのかもしれない。
まあ、他人より優れているから勇者やってるのに他人の力を頼りたくないわな。
しかし、それは間違っている。勇者として間違っているのだ。
なぜならば――
男1人パーティじゃハーレムとは言えないからだ!!
ずびしりっ(効果音)
そういうわけで、街中で勇者を探す。
勇者と一般人の見極めは容易である。
大体の勇者が自己主張の激しいやつなので変な格好をしているのだ。
変な格好をするとカッコイイと思っちゃう病なのである。
そういうわけで変な格好をしている少女を発見。
なんかひらひらしているものを履いている。
見たことのない服装だ。
なんかものすごく清楚な感じがする服だ。
俺は魔法で足音を消して背後から近寄る。
俺の魔法は大体こんな感じの使い方をする。
魔法を使えば秒速10mで動くことだってできるのだ。
少し歩くスピードを速めつつ少女の背後に忍び寄る。
姿勢を低くし、腕に魔力を込め、タイミングを計る。
そして、ここだ、と思ったと同時に魔力によって加速した高速の腕がひらひらしたそれを掴み、一瞬にしてめくり上げる!
そこには白い布が!
なんていうことだ!これは大変なことだ!どうしてってそりゃあもう、こんな簡単にこのような神々しい物体を見ることができるなんて!
とりあえず、ひらひらをめくり上がった状態にしておくために魔法で風を発生させる。
じっくり眺める。
俺は腕を動かしてからそれまでを1秒足らずでやってみせた。
これが俺の訓練の成果である。
「これだけのためにR15に設定しましたーーーーっ!!(←悲鳴)」
よくわからない悲鳴が数秒のタイムラグと共に発生。
少女は俺から離れ、顔を真っ赤にしながら言った。
「あんた……勇者すか」
「その通り。勇者……つまり、勇気のある者さ」
街中で魔法を駆使して見知らぬ人に襲いかかるあたり。
「その勇気をたたえて、二度と人前に顔を出せなくしてやるですよ」
そう言って少女は手をこちらに向けた。
それと同時に電流が俺の腕に放たれる。
しまった、回避ができそうにない。
「――っ!!」
腕にちょっとした痛み。
そして神経がそれを電気信号として手に伝え、手が勝手に動く。
ぴくん。
……ちょっとだけ。
「意味ねー!!」
なのでもう一回ひらひらをめくった。
そしてそのひらひらの中に潜り込む。
視界の多くが白を捉える。
と同時に膝が俺の顔面に直撃して、俺は吹っ飛ぶ。
結構なダメージ。痛い。
「えーっと、まあ、そのなんだ。それはともかくとしてだね」
俺は立ち上がって埃を払いながら本題へ話を移す。
「いや、ともかくて……。あんた加害者ですし」
「君もどうやら勇者のようだね」
「スカートはめくらんですが、まあ勇者です」
あのひらひらはスカートというのか。
しかし、勇者にしては魔力が低い気がする。
とすると……?
「そうか……。君は本当のところ勇者ではないんだね?」
「――っ!?」
「そして、君には魔王を倒して英雄にならなければならない理由があるわけだ」
「そ、そんなストーリー後半になって明かされるようなことを今ここでっ!?」
この少女は混乱するとよくわからないことを口走るようだ。
しかし、俺には確信がある。
こういうパターンだと、俺の経験上どういう理由かはなんとなく想像がつく。
「まあ、別に深い理由なんてないんですけどねー」
「ずばり君は英雄になって得た富で救わないといけない人がいるわけだな」
……。
…………。
しばらくの間、無言。
「ないのかよっ!!」
俺は叫んだ。
「でもいいや、とにかく女の子なんだから仲間になってよ」
「イエローピーポー呼ぶぞこの野郎」
笑顔で言われた。
イエローピーポーってなんだろう?新手のモンスター?
「でもでもでもさ、ほら、そんな魔法だと仲間が必要じゃない?」
「まあ、そうなんですけどねー」
「そうだろう。そうでしょう。そうですとも。そうであるべきです」
「でもこんな野郎の仲間は嫌です」
魔法弱いくせに口は強い。
腹が立ったのでもう一度スカートをめくる。
今度はめくると同時にノックバックして反撃を避ける。
「そういうわけで、君の名前は?」
「嫌だ……。スカートめくりでテンポ取る会話なんて嫌だ……」
泣いていた。
「俺はジカルマっていうんだ。魔法で自分の体を強化するのが得意」
とりあえず話を進める。
これからよろしくな、と言いつつ友好の証としてスカートをめくる。
これで僕達仲間だね。
「んなわけあるかーっ!」
少女はそう叫んで手当たり次第に魔法を放つ。
しかし炎は燃えず水は勢いがなく電気はそれほど意味がない。
やがて彼女は降伏した。
「スカートめくりで繋がる絆」
「嫌だ……。そんなキャッチコピー嫌だ……」
「で、名前は」
「名前……ですか」
少女は名乗った。
「えっとですね。私はユミ言います。ジョシコーセーやってるっす」
ジョシコーセー?
知らない職業だ。
どうやら、思ったよりこの世は広いようだ。
きっと旅して魔王を倒してもまだ知らない世界の一部があったりするに違いない。
そういうわけで、俺と彼女は仲間になった。
一緒に旅をする記念にスカートをめくっておいた。殴られた。