吉古神 王の王ってしんどい
ここで、ワイドオークとオークの代表が集まって打ち合わせになった。オークには、とりあえず用を足してもらう。ワイドオークには、一族を背負った命がけの修行をしてもらうつもりだ。
「みんな、さっぱりしたか『ヌーバ』!」
まず畑の元を作った。オークは、魔物なので、羞恥プレイにはならなかった。
「おれの後ろに来てくれ。これから増殖魔法を実演する。ワイドオークは、土魔法を使う。土魔法の真骨頂は、増殖魔法だ。オレのを見て、死ぬ気で覚えろ。確か詠唱呪文があるはずなんだが、おれは、気合を入れることしか知らない」
バウワたちが腕組みしている。こいつらも、さっきの戦いを見ている限り、おれと一緒で、気合系なので、このままでいいかなと思う。
「詠唱は簡単だ。ダムドだけでいい」
おれは、両手を前に突き出して気合を思いっきり入れた。
「『ダムド』!」
さっき作った畑が、わーーっと放射状に広がった。オークたちのぺけぺけを飲み込んで、さらに広がっていく。
「おおっ」
どよどよと、感嘆の声が広がる。
「最初は、ちょっとでもいい。ダムドが使えるようになってくれ。バウワは、ここで一番偉いんだ。もっと苦労してもらう。土んでん返しの上位魔法、岩でん返しを覚えてもらう。水路が必要だからな。みんなにも、後で、土んでん返しの防御技、土壁を覚えてもらう。これは、家の礎になる。だけど、当分、家より畑だろ」
「分かった」
「死ぬ気で頑張る」
「わしたちは、これから、森に帰って、終戦したことを皆に伝える。キビト殿は、ここに残って、ワイドオークにダムドを教えるのだろ」
げーーー休憩無し?
「オレは、一族を率いて、パンの実を持ってくる。収穫できるようになったら、当分タダで分けてくれよ。オレらは、これから何食えばいいんだ」
はい、そこのボイ。心の声が漏れてるよ。
身内でそんな話をしていて振り向くと、おびただしいオークの群れ。彼らには、水路の為の溝を掘ってもらわなくてはいけない。溝堀の器具が、ここに有るわけではない。手でやるしかないので、厳しい労働になるだろう。
コドシとボイを見送って王様を見た。
「バウワ、土んでん返しが使える実力者は何人いる」
「わしだけだ」
「まいったな。さっきボイが、一族を率いてと言っていただろ。しばらくは、ハルク族の世話になるか。おれがいくら頑張っても、パンの実を1日100人分ぐらいしか生産できない。それじゃあ足りないからな。ハルク族に頭を下げてくれ」
「それぐらいなんでもない。もう、女子供をここに呼んでいいか。そうしないと彼女たちの生存率が下がる」
「そうしてくれ、生産したパンの実は、順次女たちに送って生存率をあげよう。ここにいるオークたちにも仕事がある。水路の為の溝を掘ってくれ。最初は水路の大動脈だ。出来るだけ深く掘ってくれ。おれの出すウオーゴーレムは、ガチガチしている。真っ直ぐ道を切り開いてくれるぞ」
「そんなこともできるのか」
「サブ職業が錬金術士だって言ったろ。オークを遊ばせているわけにもいかないから、じゃあ、そこからやるか、ちょっと離れてくれ」
おれは、どんでん返しの上位の上位の上位技の基礎。石畳を砂漠に出現させた。土んでん返しの上位技が、岩でん返し、その上が、岩石返し。更にその上が、石板返しだ。やはり、どの魔法にも長々とした詠唱があるのだが、それだと戦闘向きではない。だから気合いだ。
「『石板』!」
更に
「『ウオーゴーレム生成』」
ゴーレム
ゴーレムが、ゴギンゴギンときょろきょろしている。
「ごめんな、戦いはないんだ。代わりに川にまっすぐ歩いてくれ。川に着いたら、600メートル遡って、また、真っ直ぐ川から離れる。1Km離れたら。川に沿って遡上。また、川に向かう。それを物凄くゆっくりだぞ」
ゴーレム
ファイティングポーズはいらないって。
「バウワ、オークたちに指示してくれ。ウオーゴーレムが歩いたところに溝を掘ってもらいた。ウオーゴーレムの幅だけでいい。ワイドオークの指導者はいらない。オークから選出してくれ」
実際、ワイドオークからリーダーを出す余裕はない。
バウワによって、オークから600匹が選出され、その中から、リーダーが選出された。彼らの役目は、水路幅の統一。
「『爆風』」
ドガン
「深さは、これぐらいだ。ウオーゴーレム行ってくれ」
ゴーレム
ウオーゴーレムが、ズシンズシンと歩き出した。その足跡に群がるオークたち。その掘られた溝に、バウワと入って、岩でん返しを見せた。これが、左右、地面と一か所で3面要る。後々まで大変な事業になることだろう。大水脈と言っても、そんなに広くも深くもないから、死ぬほどじゃないが、岩でないと砂漠に水を吸われてしまう。
「『岩でん返し』、『岩でん返し』『岩板』。こんな感じだ。やれそうか?」
「無理だ。岩を出したことが無い」
「出来ないじゃない。やるんだ。じゃないと砂漠に水を全部持って行かれるぞ」
「分かった、やる」
「今は、まだいいよ。増殖魔法の方が急ぎだしな。最悪、岩盤を作れば、側壁は、オークに作業を任すことが出来る」
「それならやれそうだ。土を固くすればいいのだろ」
「そうだ。すごく堅くできないと岩が崩れる。慣れるまで、おれが側面かな。まだ先だけど。じゃあ、増殖魔法をやるぞ。沼を作る水と土魔法の合わせ技のヌーバは、おれしかできない。それを広げてくれ。こうだ『ダムド』!」
また、ドーーンと、畑が広がった。
「これが、全部飯の元になるんだ。すごいだろ」
それを聞いて、ワイドオークたちがやる気を出した。
「『ダムド』」
「『ダムド』」
「『ダムド』」
「気合いが足りん『ダムド』!。こうだ」
「『ダムド』」
「『ダムド』」
「『ダムド』」
「『ダムド』」ピコッ
バウワだけだが、ピコッと伸びた。ゼロより1がすごいに決まっている。王とはいえ、同族の者が、魔法を発動したのだ。みんな、自分もできると確信した。
ピコ、ピコ、ピコ。みんな、ほんのおわずかだが、魔法が成功している。
「みんないいぞ。疲れたら休め。夕食は、ハルク族が持って来てくれるぞ。心置きなくやれ」
夕方前にハルク族が一家で戻って来たので、人心地着くと安心したが甘かった。ハーン一家は、総勢32人。食料の備蓄がそんなにあるわけがない。成長魔法のアウレアが現在使えるのはおれだけ。そこからは、更に必死になって、パンの実を成長させた。いくら、レベルが高くても、太陽が沈んではどうしようもない。アウレアを、ハーン一家とそれを追ってきたコドシとミヨの見守る中。MPが尽きるまで全力でやりつづけた。
「お疲れ、もう日が沈むぞ」
ボイが肩をたたいてくれた。
「そうか、収穫は随時やってるな。ミヨさんたちも食事の準備をしているか」
「やってる。休んでくれ」
ボイにそう言われて気を失った。王の王って、しんどい。
夜中に焚き木のパチッという音で目が覚めた。横にはコドシが起きて、おれを守っていてくれた。
「起きたか」
「おれ、どれぐらい気を失っていた」
「日が昇るまで、あと半分ある。まだ、休んでいろ」
「飯が食いたい。明日、力が出ないからな」
「それはそうだ。ウラを起こしてくる。少しだが、ここにいる全員が食事出来たぞ」
「嬉しいよ。頑張った甲斐がある」
「待ってろ」
待っていると、ボイもバウワも起きてきた。
「大将、やったな」
「大将はよしてくれ。戦争は終わったんだろ」
「王よ、何て呼べばいい」
「キビトでいい。王様は、おれのタイプじゃない。バウワが王なんだろ」
「キビトか、良い名だ。それは、吉古神という神の、古い名だ。それがいい」
「そうなのか!」
「そうだ。良い名だ」
「自分の名前だからな。それでいいよ」
おれは、その日から、キビト。吉古神として、オークに崇められるようになった。オークは、その名前をすぐ憶えて、おれに声を掛けるようになった。でも、そのあと何を言っているかわからない。分かっていたら、顔が真っ赤になって、逃げだしていただろう。崇めすぎだ。キビトは、王の上に立つ人。オーク王バウワは、キビトが養っているオークに使える人になった。おれなんか下僕になった気分だけどなー。
ウラが、パンとおかずとスープをたくさん持って来てくれた。ウラの飯は旨い。これが一番の楽しみだ。
「おれだけこんなに食っていいんですか?」
「その分、明日も働いてもらうに決まっているさね」
「ですよねー」
みんなで笑った。ここ(異世界)も、悪くないと思った。
オレが起きたと聞いて、オークのリーダーがやって来た。ウオーゴーレムがまだ動いていたのだ。それを止めないと、みんな休めない。食事もそこそこに、ゴーレムを止めに走った。気が付いたら、朝になっていた。おれが働かないと、昼食の食材がない。今日も結構なことになりそうだ。みんなに魔法を教えるも何も、気合でやっているので、見て覚えて貰うしかない。早朝から、そんな感じになった。
オークに、朝のお通じをやってもらい。ヌーバ。それをダムド、ダムド、ダムド。そこにパンの実を綺麗に蒔いてもらってバイオコーラス、アウレア。昼飯を確保したところでまた倒れた。おれって、虚弱体質? 昼過ぎに起き上がって、ゴーレムを動かし、朝と同じことをする。今度は、コドシが、気絶する前に止めてくれた。ゴーレムを休ませて、夕食。それが、しばらくの日課になった。