表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
9/43

吉古神 王の王ってしんどい

 ここで、ワイドオークとオークの代表が集まって打ち合わせになった。オークには、とりあえず用を足してもらう。ワイドオークには、一族を背負った命がけの修行をしてもらうつもりだ。


「みんな、さっぱりしたか『ヌーバ』!」

 まず畑の元を作った。オークは、魔物なので、羞恥プレイにはならなかった。


「おれの後ろに来てくれ。これから増殖魔法を実演する。ワイドオークは、土魔法を使う。土魔法の真骨頂は、増殖魔法だ。オレのを見て、死ぬ気で覚えろ。確か詠唱呪文があるはずなんだが、おれは、気合を入れることしか知らない」


 バウワたちが腕組みしている。こいつらも、さっきの戦いを見ている限り、おれと一緒で、気合系なので、このままでいいかなと思う。


「詠唱は簡単だ。ダムドだけでいい」

 おれは、両手を前に突き出して気合を思いっきり入れた。


「『ダムド』!」


 さっき作った畑が、わーーっと放射状に広がった。オークたちのぺけぺけを飲み込んで、さらに広がっていく。


「おおっ」

 どよどよと、感嘆の声が広がる。


「最初は、ちょっとでもいい。ダムドが使えるようになってくれ。バウワは、ここで一番偉いんだ。もっと苦労してもらう。土んでん返しの上位魔法、岩でん返しを覚えてもらう。水路が必要だからな。みんなにも、後で、土んでん返しの防御技、土壁を覚えてもらう。これは、家の礎になる。だけど、当分、家より畑だろ」


「分かった」

「死ぬ気で頑張る」


「わしたちは、これから、森に帰って、終戦したことを皆に伝える。キビト殿は、ここに残って、ワイドオークにダムドを教えるのだろ」


 げーーー休憩無し?


「オレは、一族を率いて、パンの実を持ってくる。収穫できるようになったら、当分タダで分けてくれよ。オレらは、これから何食えばいいんだ」


 はい、そこのボイ。心の声が漏れてるよ。


 身内でそんな話をしていて振り向くと、おびただしいオークの群れ。彼らには、水路の為の溝を掘ってもらわなくてはいけない。溝堀の器具が、ここに有るわけではない。手でやるしかないので、厳しい労働になるだろう。


 コドシとボイを見送って王様を見た。


「バウワ、土んでん返しが使える実力者は何人いる」


「わしだけだ」


「まいったな。さっきボイが、一族を率いてと言っていただろ。しばらくは、ハルク族の世話になるか。おれがいくら頑張っても、パンの実を1日100人分ぐらいしか生産できない。それじゃあ足りないからな。ハルク族に頭を下げてくれ」


「それぐらいなんでもない。もう、女子供をここに呼んでいいか。そうしないと彼女たちの生存率が下がる」


「そうしてくれ、生産したパンの実は、順次女たちに送って生存率をあげよう。ここにいるオークたちにも仕事がある。水路の為の溝を掘ってくれ。最初は水路の大動脈だ。出来るだけ深く掘ってくれ。おれの出すウオーゴーレムは、ガチガチしている。真っ直ぐ道を切り開いてくれるぞ」


「そんなこともできるのか」


「サブ職業が錬金術士だって言ったろ。オークを遊ばせているわけにもいかないから、じゃあ、そこからやるか、ちょっと離れてくれ」


 おれは、どんでん返しの上位の上位の上位技の基礎。石畳を砂漠に出現させた。土んでん返しの上位技が、岩でん返し、その上が、岩石返し。更にその上が、石板返しだ。やはり、どの魔法にも長々とした詠唱があるのだが、それだと戦闘向きではない。だから気合いだ。


「『石板』!」

 更に

「『ウオーゴーレム生成』」


 ゴーレム


 ゴーレムが、ゴギンゴギンときょろきょろしている。


「ごめんな、戦いはないんだ。代わりに川にまっすぐ歩いてくれ。川に着いたら、600メートル遡って、また、真っ直ぐ川から離れる。1Km離れたら。川に沿って遡上。また、川に向かう。それを物凄くゆっくりだぞ」


 ゴーレム

 ファイティングポーズはいらないって。


「バウワ、オークたちに指示してくれ。ウオーゴーレムが歩いたところに溝を掘ってもらいた。ウオーゴーレムの幅だけでいい。ワイドオークの指導者はいらない。オークから選出してくれ」


 実際、ワイドオークからリーダーを出す余裕はない。


 バウワによって、オークから600匹が選出され、その中から、リーダーが選出された。彼らの役目は、水路幅の統一。


「『爆風』」

 ドガン

「深さは、これぐらいだ。ウオーゴーレム行ってくれ」


 ゴーレム


 ウオーゴーレムが、ズシンズシンと歩き出した。その足跡に群がるオークたち。その掘られた溝に、バウワと入って、岩でん返しを見せた。これが、左右、地面と一か所で3面要る。後々まで大変な事業になることだろう。大水脈と言っても、そんなに広くも深くもないから、死ぬほどじゃないが、岩でないと砂漠に水を吸われてしまう。


「『岩でん返し』、『岩でん返し』『岩板』。こんな感じだ。やれそうか?」


「無理だ。岩を出したことが無い」


「出来ないじゃない。やるんだ。じゃないと砂漠に水を全部持って行かれるぞ」


「分かった、やる」


「今は、まだいいよ。増殖魔法の方が急ぎだしな。最悪、岩盤を作れば、側壁は、オークに作業を任すことが出来る」


「それならやれそうだ。土を固くすればいいのだろ」


「そうだ。すごく堅くできないと岩が崩れる。慣れるまで、おれが側面かな。まだ先だけど。じゃあ、増殖魔法をやるぞ。沼を作る水と土魔法の合わせ技のヌーバは、おれしかできない。それを広げてくれ。こうだ『ダムド』!」


 また、ドーーンと、畑が広がった。

「これが、全部飯の元になるんだ。すごいだろ」


 それを聞いて、ワイドオークたちがやる気を出した。


「『ダムド』」

「『ダムド』」

「『ダムド』」


「気合いが足りん『ダムド』!。こうだ」


「『ダムド』」

「『ダムド』」

「『ダムド』」


「『ダムド』」ピコッ


 バウワだけだが、ピコッと伸びた。ゼロより1がすごいに決まっている。王とはいえ、同族の者が、魔法を発動したのだ。みんな、自分もできると確信した。


 ピコ、ピコ、ピコ。みんな、ほんのおわずかだが、魔法が成功している。


「みんないいぞ。疲れたら休め。夕食は、ハルク族が持って来てくれるぞ。心置きなくやれ」


 夕方前にハルク族が一家で戻って来たので、人心地着くと安心したが甘かった。ハーン一家は、総勢32人。食料の備蓄がそんなにあるわけがない。成長魔法のアウレアが現在使えるのはおれだけ。そこからは、更に必死になって、パンの実を成長させた。いくら、レベルが高くても、太陽が沈んではどうしようもない。アウレアを、ハーン一家とそれを追ってきたコドシとミヨの見守る中。MPが尽きるまで全力でやりつづけた。


「お疲れ、もう日が沈むぞ」


 ボイが肩をたたいてくれた。


「そうか、収穫は随時やってるな。ミヨさんたちも食事の準備をしているか」


「やってる。休んでくれ」


 ボイにそう言われて気を失った。王の王って、しんどい。




 夜中に焚き木のパチッという音で目が覚めた。横にはコドシが起きて、おれを守っていてくれた。


「起きたか」


「おれ、どれぐらい気を失っていた」


「日が昇るまで、あと半分ある。まだ、休んでいろ」


「飯が食いたい。明日、力が出ないからな」


「それはそうだ。ウラを起こしてくる。少しだが、ここにいる全員が食事出来たぞ」


「嬉しいよ。頑張った甲斐がある」


「待ってろ」


 待っていると、ボイもバウワも起きてきた。


「大将、やったな」


「大将はよしてくれ。戦争は終わったんだろ」


「王よ、何て呼べばいい」


「キビトでいい。王様は、おれのタイプじゃない。バウワが王なんだろ」


「キビトか、良い名だ。それは、吉古神よしこしんという神の、古い名だ。それがいい」


「そうなのか!」

「そうだ。良い名だ」


「自分の名前だからな。それでいいよ」


 おれは、その日から、キビト。吉古神として、オークに崇められるようになった。オークは、その名前をすぐ憶えて、おれに声を掛けるようになった。でも、そのあと何を言っているかわからない。分かっていたら、顔が真っ赤になって、逃げだしていただろう。崇めすぎだ。キビトは、王の上に立つ人。オーク王バウワは、キビトが養っているオークに使える人になった。おれなんか下僕になった気分だけどなー。



 ウラが、パンとおかずとスープをたくさん持って来てくれた。ウラの飯は旨い。これが一番の楽しみだ。


「おれだけこんなに食っていいんですか?」


「その分、明日も働いてもらうに決まっているさね」


「ですよねー」


 みんなで笑った。ここ(異世界)も、悪くないと思った。


 オレが起きたと聞いて、オークのリーダーがやって来た。ウオーゴーレムがまだ動いていたのだ。それを止めないと、みんな休めない。食事もそこそこに、ゴーレムを止めに走った。気が付いたら、朝になっていた。おれが働かないと、昼食の食材がない。今日も結構なことになりそうだ。みんなに魔法を教えるも何も、気合でやっているので、見て覚えて貰うしかない。早朝から、そんな感じになった。

 オークに、朝のお通じをやってもらい。ヌーバ。それをダムド、ダムド、ダムド。そこにパンの実を綺麗に蒔いてもらってバイオコーラス、アウレア。昼飯を確保したところでまた倒れた。おれって、虚弱体質? 昼過ぎに起き上がって、ゴーレムを動かし、朝と同じことをする。今度は、コドシが、気絶する前に止めてくれた。ゴーレムを休ませて、夕食。それが、しばらくの日課になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ