土んでん返しとザイン
オークは、雑食性だ。主に肉を食う。共食いも平気でやるものだから、魔物と呼ばれている。魔物と呼ばれているが、魔法は使えない。ところが、オークから進化した。ワイドオークは、土魔法が使える。本人たちは、意識していないだろうが、地面をバーンと、ひっくり返す。強い奴ほどその範囲が広くなり、広範囲攻撃になっていく。あの、特に体の大きかったオークは、地面をでんぐり返す魔法。「土んでん返し」が、強力に違いない。おれ一人で対処しないと、こっちに被害が出てしまう。土には、風なのだが、それこそ周りを巻き込みかねない。今日、おれが、窮地に陥ったと、周りから見られたのは、まずかった。おれって見た目、華奢だし、みんな過保護だ。
ボイが意気揚々と明日の作戦を語る。
「明日も、同じやり方で行こう。あいつら、食料ができて、進軍の足が止まったぞ」
「いいね、今日、向こうの大将を見つけた。明日は、おれ一人で、中央突破していいかい。向こうの大将と戦うよ」
「キビト殿。それは、無謀だ」
「大将が一人で、敵軍に突っ込むなんて、聞いたことが無いぞ」
「いや、その方が、効率が・・」
「逆だろ、ワーグの護衛を2匹つけろ」
ワンワン!
若いカイにまで、進言されてしまった。オークだけなら、おれが後方から指示するという選択肢もあったのだが、相手は、ワイドオークだ。奴らは、土魔法を使う。土んでん返しは、まずい。
「理由があるんだ。向こうの大将は、ワイドオークだ。土んでん返しと言う魔法を使う。これの対処は、風魔法で、ひっくり返っている土の壁を風化させて砂に戻す風化という魔法だ。これも範囲魔法だから、砂漠に足を取られる可能性がある。味方を巻き込むかもしれないんだ」
コドシが、その作戦はまずいと言って来た。
「砂漠だとまあいいが、その作戦をずっと続けるとは良くない。向こうの魔法を砂化するのだろ。それだと草原が、痛まないか」
「えっ」
「わしは、風魔法が使えるぞ。ザインで十分だ」
「ザイン?聞いたことない」
「わしは、風をまとうことが出来る。土の壁ぐらい突破できると思うぞ」
「コドシって、魔法が使えるの?」
魔物特有の魔法ってことかな?
「当り前だ。主とはいえ、ワーグが話すと思うか?わしは、ワーグが進化したローガだ」
「わしらも、風魔法だぞ」
エルフの原始人だから?
「ハルク族は、何が使えるんだ」
「こんな、なりをしているが、治癒魔法だぞ。女どもを呼んで、魔法を使わないで、普通に治療してもらっているのは、その方が気分がいいからだ。名誉の負傷だからな」
「傷が残らないと、名誉無い」
意外過ぎる。変な所にこだわっているし。
「じゃあさ、試してみる?。おれ、土んでん返しを使えるよ」
おれの言葉に、みんな一挙に盛り上がった。
「キビト殿の土んでん返しを突破したら、一緒に中央突破に参加していいの?」
若いハルクが、ものすごく興味を示した。こいつらには、おれが思っている壁の厚さを倍にしよう。多分あのワイドオークは、レベル30と、言ったところだ。土壁の厚さは、1メートル。
本番の森と草原の境のの戦いは、中央突破してから、左右に分かれる。だけど、全員が中央突破に参加したら、いざ本番の時、森の中に入った隊と、後続隊を分断できない。一応みんなおれのことを大将と呼んでいるのだから命令で、なんとか成るのかな。そんな気しないけど。
とにかく、腕試しをしたいハルクとワーグが集まった。
「みんないいかな。土の壁を作るから、それを壊してくれないか。土んでん返しの突破と変わらないから、それでもいいだろ」
「いいぞ」
「いいよ」ゴキッゴキッ
ワオーーーン、ブルブル
みんな腕を鳴らしたり、武者震いしたりしている。
最初に、若いクイとムイが、友達の精悍そうなワーグに乗って、大きなナタを振り上げて前に出た。力技で突破しようとしているの見え見え。
こいつらには、厚さ2メートルの土壁を出そうと思ったけど、普通でいいか。なんか弱そう。
「『土壁』!」3:3:1メートルの土壁を錬成
ドオンと言う音と共に2階建てぐらいの土壁がせりあがった。みんな、ちょっと引いているが、若者たちは無謀だ。
「ハイ!」
「やあ!」
あれって、壁に追突するんじゃないかな。二人の相棒のワーグも無謀だ。
ドゴン
二組とも、当たって砕けた。ヘロヘロになって、その場に倒れる。慌てて助けに走ったが、みんなは、大笑いしている。
「ガハハハ。クイ、ムイ、戻ってこい。不名誉の負傷を消してやるぞ」
土壁に振り向くと、壁に亀裂が走っている。
二人ともいい線いっていたんだ。
「『ファオ』」
強度を戻すために、ファオと言う、消去魔法を唱えて、いったん土に戻し、もう一回。
「『土壁』!」
ドオン!
今度は、ボイと、カイだ。
ドガガン
土壁が崩れた。
「二人ともさすがだ」
そして、コドシ。
「『土壁』!」
ドオン!
「いいぞ」
風がフューっと、コドシの前に集まっている。余波で、こちらにも涼しい風。
「ザイン」
コドシは、風をまとって、土壁に突っ込んだ。ただ風をまとったわけではない。自分の鼻先に風を集中させていた。だから、こうなる。
ドブン
土壁に穴が開いて突き抜けた。そしてゆっくり土壁が崩れる。
「すごいな。まさか、土壁に穴が開くとは思わなかったよ」
「どうだ、キビト殿。わしがいれば、この壁を通り抜けられるぞ」
「だから、わざと大きな穴にしたんだ。明日もコドシに頼むとするか。それでいいか、ボイ、カイ」
「問題ない」
「コドシには、参ったよ」
二人とも腕組みしている。ちょっと負けたと思ったんだろう。
「それで、みんな気づいてくれた? おれ、ワイドオークと同じ魔法が使えるんだよ。剣士だし、ワイドオークより強いと思わなかった?」
「えっ」
「そうなの?」
「ひどいなー、いいけど」
でも、この感じ。
自分たちの問題は、自分たちで解決するその姿勢。人より彼らの方が、好感が持てる。人は、権力で従わせようとする。社会構造もそうなっている。オレも人族だけど、そういうのは、大嫌いだ。
今晩は、斥侯を放って、森の前で野営をする。12Km先のオークは、全く動こうとする気配がない。メスのワーグに乗ってきたハルク族の女たちが、ご馳走を用意してくれた。ハルク族も、ワーグも人族だと魔物扱い。こうして接してみると、全くそのような気がしない。飯旨いし。飯旨いし。大事なことなので二度言った。ここ数日で、ずいぶん認識を変えさせられた。オークは、災害扱いだから、容赦ない対処をしているが、オークの事も、ちょっと気になった。
飢餓のオーク。それは、あの3日間の飢餓状態を経験したおれには、身のつまされる話だった。