大将使いが荒いな
次の奇襲ポイントは、草原の3Km手前。一度、森まで帰って、ハルク族のカイ、クイ、ムイと、その相棒のワーグに、戦闘に参加してもらうことにした。みんな屈強そうだ。クイと、ムイは、見た目は、おれより遥かに大きいが、顔を見るに、おれと大差ない。年下だと感じた。
「今度は、倒すだけでいい。おれとコドシは、深くまで切り込むが、ボイたちは、おれの後を追うな。オーグを倒せるだけ倒してくれ。ボイが全軍指揮、二手に分かれた隊列で、囲むようにやるんだぞ。逆に、囲まれそうになったら草原に引け。おれたちの心配はするな。相手は弓を持っていないから、単独でも逃げ切れる。おれらも適当な所で退散するよ」
そう指示すると、ボイが、更に詳細に、全員に指示していた。ワーグたちも、おれの言葉を理解しているようだったが、ハルク族の話の方が分かりやすいらしい。ワオンとか、くうんと言って頷いていた。
「大将、やっぱり奥まで突っ込むのか?」
「さっき指揮官を見ることが出来なかったんだ。指揮官を倒せば、戦列は瓦解する」
「オークに、そんな凄い統率力のある奴が、いるのか?」
「1000匹も砂漠越えして来たんだぞ。居たら倒しておくに越したことはない」
「分かった。適当に引き上げろよ」
最初の戦闘で敵が、あまりにも脆かったから、ボイの奴、調子に乗っているとばかり思っていたが、指揮官の顔をしていた。さっきの言い方なんか、おれの方が無謀だと言わんばかりだった。こりゃ、今回の作戦は、いい線行くんじゃないかと思った。
「コドシ悪いな、オークの隊列の中に入ってくれ。本番は、敵を分断しないといけない。だから試したい。おれらが中に入れなかったらおしまいだ」
「分かっている」
ここにいるのは足の速いやつばかりだ。戦況を見てくれる斥侯隊がいるところは、なだらかな丘で隠れるところがない。だから、こんどは、随分遠いところを出発点にして、突っ込むことになった。
「合戦だ」
「うおーーー」
ギャオン
ワオーーーーン
物凄い大声で突っ込んだが、敵の動きは、さっきと変わらずのろい。
「こいつら、豚人族のくせに、痩せていないか」
「だから、砂漠を超えてきた。それだけで、へろへろなのだろう」
「荒野って、そんなにひどいところなのか?」
「人の国がある所だからな。オークにとって、外敵だらけだ」
その割には、ぼこぼこ子供を産むんだよな。やっぱり、ワイドオークに進化しないと話し合えないか。
最初に、オレと、ボイと、カイで、ドガン先頭に隊列にぶつかった。その勢いで、おれ達は敵奥深くへ。ボイ隊とカイ隊は、二手に分かれて殲滅戦を始めた。
相手がヘロヘロで脆いし、ライトソードの性能が、とても高いせいで、無人の野を突っ切っている気分だ。偶に攻撃をしてくる奴がいるが、コドシがガードしてくれる。
ドカ、ガツッ
ワオーーーン
そのうえ、相手を威嚇することも忘れない。最高の盾だ。
おれはビシバシ、相手を切り裂いて行った。そしてずいぶん敵中深く入った時だ。
「キビト殿、あそこに大きなオークがいる」
本当だ。やっぱりいたか、ワイドオーク。周りにも5体いる。
「ワイドオークだよ。あれを倒せば、こいつ等、瓦解する。でも、ワイドオークの数が多いな、近づけない。今回は、無視だ。敵の親玉を確認できたんだ、引き上げよう」
ワイドオークたちは、ハルク族と変わらない体躯をしていた。あれは手ごわいと思う。
帰りながら戦っていて、魔法剣士の特性が、色濃く出だしたことに気づいた。ゲームの時の解像度では、分からなかったことだ。ライトソードの、光刃が、微妙に伸び縮みしている。おれの特異魔法属性は、光と闇だ。ライトソードに、無意識に魔力を込めているらしい。
今までやったこと無かったけど、ライトソードに、マジで魔力を込めたらどうなるんだ?。戦闘中なのに、興味に負けた。
ズバババババ
光刃が、3メートルぐらい伸びた。
まずい、使い慣れないと、コドシに当たる。こんなんじゃなくて、痒い所に手が届くように伸びないかな。
光刃に夢中になっていたから気づかなかったけど、おれたちは、囲まれ出していた。
何で光が刀の刃みたいになっているかもわからないのに、どうしたらいいんだ。
これでも、サブ職業は、錬金術師だ。この現象を解き明かしたくなるのは仕方ないことなのだ。
「キビト殿、ぼーっとしていないで体を動かせ」
さっきから、コドシ一人に、戦場を任せてしまっていた。
「ごめん」
「ボイたちが心配する。さっさと切り抜けるぞ」
「了解!」
しかし、ボイたちの反応は、早かった。
「見ろ、ボイとカイが迎えに来てしまったぞ」
二人には、迷惑をかけた。遠目に見ると苦戦して囲まれ出したように見えたのだろう。
「大将、何やってる。助けに来たぞ」
「今日は、十分やった。帰ろう」
「すまん」
そこからは、無鉄砲なオークでさえ身を引くようなボイとカイの進撃で、オークを蹴散らした。
オレが帰ると、ハルク族も、ワーグも大喜びした。傷の手当てを受けている者はいるが、死者無し。相手は100匹近い損害。大勝利だった。ここで大将が死んでいたら、勝っているのに、大惨敗になると思ったのだろう。おれたちが帰還して初めて勝利を味わっていた。
「大将、勝鬨をあげてくれ」
「ボイがあげてくれよ。おれ、最後に迷惑かけちゃったし」
「それじゃあ、しまらん。やれ」
大将使いが荒いな。
「今日は、おれたちの勝利だ。えいえいおーといったら、オーって、大声で、手をあげてくれ。これが、おれの国の勝鬨だ。エイ、エイ、オー」
オーーーー!
ガオーーーーン
いけね、ワーグもいた。でも、結果オーライ。