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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
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災害級魔法火砕流

 シイナ国皇帝軍の、元味方だったはずの左右軍捕虜への扱いは、とても冷淡なものだった。元々の皇帝軍で無かったこともあるが、彼らは、軍旗を侵した。ホウギ将軍がヒデラ皇帝の声を聴いたときの最初の命令は、皇帝の真偽が明らかになるまで戦うなという指示だった。左右軍の将軍や上級士官を皇帝軍に引き渡したら、間違いなく首をはねられただろう。バウワは、優しすぎるのだ。ここから捕虜が逃げ出さないようにしていたのは、我々もそうだが、皇帝軍本陣の兵士達の方だった。彼らの兵糧は、全部無事なので、自炊をさせるために物資を運んできてくれたのだが、そのままそうなった。皇帝軍の中で、左右軍は、全く別の軍だと従来の兵士たちが思っていた証拠だ。


 皇帝は、未だにうちの軍中にいる。ヒデラは、ホウギ将軍やハクオウ軍師を疑っているわけではない。エルフの長スメルと話す機会が、もうないのではないかと時間を惜しんでいるだけだ。しかし、皇帝を見殺しにしそうになった後ろめたさを持っている軍の将や兵士たちは、そう思っていない。そのせいで、よけい、皇帝を攻め立てた左右軍に辛くあたっているのだ。


 おれが捕虜たちがいるところに向かうと、鬼人たちが、護衛とばかりに着いて来た。ついでに捕虜の見張りを交代する気だ。塩湖の宴会場には、美味い物がたくさんある。


「お前ら、もっと飲み食いしていいんだぞ」

「大将を一人にできやせん」

「さっき言ってたじゃないですか。おれ等の犠牲が多いのを何とかしたいって。お願いがあるんですが、いいですか」

「言ってみろ、出来ることなら聞くぞ」

「士ゴーレムと、練習したいです。そうすれば今より強くなれる」

「おれは、お前らの突っ込み癖を直したいがなー。自信をつけさせたら逆効果じゃないか」

「きっと、死ななくなりますよ」

「そうか?、戦うだけじゃなくて、バウワみたいに戦場が読めるようになってくれるんならいいぞ。つまり、学も同じだけ訓練しろ。それが士ゴーレムを貸す条件だ」

「勉強ですか?」

「バカ!、やります。士ゴーレム、お願いします」

「調子いいこと言ってんじゃないだろうな」

「やります」

「勉強します」


 角の生えた大男たちが、おれにペコペコ頭を下げる。なんか怪しいとは思うのだけど、まあいいか。


 捕虜がいる本陣前に行くと、わが軍は、本陣を守っているだけな感じになっていた。本陣の後ろには救護テントがある。それを守っている感じだ。その他の場所には元味方だったはずのシイナ兵達が、周りを囲むように目を光らせている。


「なんかあれ、酷くないですかい」

「味方だったんじゃないのかよ」

「いや、皇帝側と十老子側という見方をすると、同じ国でも敵同士だな。お前ら、あいつらを見張るのかったるかったら、シイナ兵に任せていいぞ」

「そうはいかないでしょう。こっちには救護テントがある」

「あいつら信用できねえ」

「まあな」


 極端に言うと、士ゴーレムを見張りに付かせているから、問題ない。岩五郎は、宴会担当。


「お前ら見栄えがいいからな。おれの横についてくれ。ちょっと、捕虜に話がある。ここは、宴会場と違って薄暗い。松明を大目で頼む」


 そう言って土台のような岩壁をズズズズズズっと擦り上がらせた。



 プワーーーン

「お前ら聞け。もう、ヒデラ皇帝の沙汰は、本陣を通じて聞いていると思う。お前らは軍旗を犯した罪人なうえ、おれたちの捕虜だ。3年の労役についてもらう。今いる場で働け。この何もないところに畑を開拓するんだ。だからと言って絶望するなよ。オークの開拓村も、ここと同じ砂漠だった。この大地の下に地下水脈があることは調査済みだ。井戸が掘れる。ここは豊かな畑になるだろう。お前らには、ここで使っている音文字というのを教えてやる。その51文字と、少しの記号を覚えれば、商業文字も読めるようになる。3年後は自由だ。文字が読めるんだ。里に帰って、オークたちと貿易するもよし、ここに家族を連れて来てもいい。どうだ、少しは、やる気が出て来たか?」


「大将、音文字って何です?」

「さっき勉強しろと言っただろ。捕虜に負けるなよ」

「うえー」


「ただし、岩壁は、もう少し増やさせてもらう。真面目に3年間労役出来なかったものは、シイナ国に送るから覚悟しろ。最初は自分たちの兵料があるが後は、食料は、自分たちで何とかしろ。ここの掟は、『働かざるもの食うべからず』だ。わかったな」


 彼らは、シイナ国に送られることを極端に嫌っていた。そうなれば、よくて奴隷。悪くすると死刑だ。寡黙に頷いていた。


「シイナ兵よ聞け。後で、本陣から通達があると思うが、この捕虜たちの名前と出身を調べてもらう。ここから逃亡した者は、そちらに通達するから、後は好きにしていい。左右将軍や士官もこちらで預かることになった。同じに扱ってくれて結構だ。明日それをやってくれ。お前ら、明日から働いてもらうからな覚悟しろ」


 捕虜たちは、がっくり肩を落としていた。最初は、オークの開拓村で研修のようなものだから、楽だと思うけどな。



 翌日、本当にペイ村のおっさんと約束した日におれは暇になった。そうでなかったら食料を置いてさっさと戦場に戻っていたところだ。ペイ村は、おれの案を受け入れると言っていた。



 翌々日、ヒデラ皇帝が、都に戻る日が来た。ヒデラは、これから大変だ。十老子は、首都鳳籠の、最高の治療で、すでに、鼓膜を再生していることだろう。彼らを無力化しなくてはいけない。ヒデラには、ホウギ将軍とハクオウ軍師が付いているのだから大丈夫だ。既にヒデラもここの生活になじんでいて、ヒデラもつるんを気に入っていた。今度、乾麺でも土産に持って行ってやろう。



 おれは最後に、ヒデラに大魔法を見せると約束していた。1万人の死者を一度に葬るためと、捕虜の畑の手助け。その周りの広大な砂漠を草原化するための魔法だ。

 ゴル砂漠には、1Km強にも及ぶ岩壁がある。この内側に、巨際な火砕流を流し込もうと思っている。偶々、ヒデラが帰る日は、北風だとコドシの予報。コドシは、ワーグが進化したローガで、北風の加護を受けている。


 主要メンバーが見守る中、自陣本陣の中央にある物見やぐらに上がったおれは、魔力を思いっ切り注いで、火と土と水の合成魔法火砕流を発動した。それは火と土煙の火山煙それをに水を注いで爆発させる。火砕流は北風を帯びて岩壁にぶつかった。そこからは、岩壁に沿って左右に広がっていく。


「皆おれの後ろに控えてくれよ『プロテクト』!。じゃあやる『火砕流』!」


 ドン、バリバリバリ。


 おれもびっくりしたが、火砕流が巨大だったため火山雷が起きた。あの中は、千度くらいある。その上、雷の巣になっていた。あんなところにいたら、誰も生きていられないと思う。


 ドオンドオンドオン


 そして各所で起こる水爆。水爆の性で、火砕流の中は、500度ぐらいに下がったと思う。火山雷が収まる。その代わりに、北風を受けて、火砕流は、岩壁沿いに、さーーーっと左右に広がった。水爆もうまく機能したと思う。


「成功だ。あの噴煙は、ミネラルをいっぱい含んでいる。バウワ、火山灰の後をヌーバするぞ。肥料はいつものだが、育ちはこっちのほうがいいと思う。井戸は、士ゴーレムに掘ってもらおうよ」


「了解した。ここは、水をあまり使わなくて済む作物を中心に植えましょう」


 ヒデラは、あまりのスペクタクルに呆然としていたが、これ、荒野の土壌改良にも使えるんじゃないかと、ハクオウと話し合っていた。火山灰は、水はけがいい。湿地になっているところなら、すぐ畑にできるのではないかとハクオウが進言していた。


 戦争で、この魔法を使っていたら大変なことになっていたのに、みんなそのことには触れない。唯一、エルフの長スメルが、無表情で、こそっと言ってきた。


「キビトは、敵も味方も作らない方がいい。今後も、今の立ち位置でやりましょう」

「戦争に参加しちゃったけど?」

「自衛はいい。それに、こんな壊滅的な魔法は、使わなかった。わざわざこちらから脅威を与えて敵を増やすことはない。下手に味方を作るということは、同時に、敵も作るということですよ。開拓村の政治は、オーク王バウワに任せなさい。キビトは、今まで通り身を粉にして働けばいいんです」

「なんか、褒められている気がしない。一応、凄い魔法だったと褒めてくれたんだと思うことにするよ」


 スメルは、きょとんとした顔をして、「褒めているに決まっている」と言い切った。

 もっと分かりやすく褒めてほしい。


 スメルは、過日、エルフ会議の時に、おれを東の果ての人間に仕立てていた。今回の戦で、皇帝軍の十老子の息がかかっている左右軍は、全て西の民族だった。スメルが何処まで、シイナ国のことが見えているのか計り知れない。この火砕流の魔法の件も正しい判断なのだろう。良き隣人がいてくれて本当に助かる。


 バウワが言うには、開拓村の脅威は、シイナ国だけではないという。西の地にも東の地にも蛮族や、魔物がいる。逆に助けたい魔物や亜人も多いという。まずは、捕虜2000人を養わないといけない。

 なんか、また増えちゃったな。

 ただいま開拓村人口6000人。これで、捕虜の家族が頼ってきたら、一挙に1万とかに増えそうな勢い。自分も美味い物を食うために一生懸命働く。最近は、果樹とか甘いものが食べたいと贅沢なことも考えている。今更6000でも1万でもどんとこい。物凄く頑張ろうと思った。



 ツンドラ地帯に毛長牛を追いに行っていたザイ一家のワーグがいち早く連絡に戻って来た。今日、北風に乗ってザイたちが、毛長牛を連れて戻ってくる。これで、牛乳が飲めるようになる。秋真っ盛り。ゴル砂漠の空は、いつもの通り真っ青。清々しい北風を感じて、ザイたちを迎えに行った。


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最後まで読んでくださってありがとうございます。読み終わった人に言うのも何なんですが、この「人族なのに、魔物の王の王になってしまいました」は、王の王と、なろうで検索すれば、一発で出ます。最近気づきました。

王の王と言っても、この物語で開拓村にいる王は、オーク王バウワしかいません。魔物や亜人で浮かぶ王は、エルフ、ドワーフ、巨人族、精霊の各種王です。ゴブリン王というのもいますが、ゴブリンの進化系がオーガ。つまり、鬼人族なので、もういますし、狼頭のコボルトは、王がいてもおかしくないでしょうが、コドシの方が上でしょう。ツンドラ地帯にマンモス王とか居たら面白いですかね。はは、それでは、ありがとうございました。

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