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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
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戦闘訓練を実践で

 翌朝、コドシとミヨに、魚の燻製をふるまった。鱗も落としているから、絶品のはずだ。


「旨いな。我らでは、こういう加工はできんぞ」

「もう少し食べたいわ」


「オークの解体を引き受けます。オレも食べたいですし。でも、オークって、でかいでしょう。燻製にするのに1カ月かかります。燻製にして2か月の保存が可能なんで、3カ月は、食べられますよ」


 どうぞと、ミヨに、魚の燻製を出しながら、3カ月も食料に困らないのだから、このオアシスを手入れしましょうと提案した。砂漠側に流れている湖の水を塞き止めて東に流せば、草原に街が作れる。ハルク族をここに呼べれば、ワーグに取っても悪い話ではないはず。せっかくの真水も砂漠だと、ただ蒸発するだけ。

 ワーグに街はいらないが、仲が良いハルク族が住めると言うと、それを聞いたコドシが、ハルク族の族長に話してみようと言ってくれた。ハルク族は、エルフの原始人。エルフほどの高知能はないが、その分力持ち。人の町ぐらいの発展が見込める。放牧に出るグループと、オークを刈るグループに分けると、草原の環境を壊さないで、そのまま農業までできてしまうだろう。牧畜もできるようになるということだ。そのバランスだと草原の砂漠化は起きない。飯もうまそうだ。自分の立案ながら、ハルク族の町を見てみたいと思った。


 午前は、作戦会議。午後は、戦闘訓練。オークを森におびき寄せて、何体かで、オークの中に分け入る。そこでオークを倒して、それをいい加減に引きずりながら逃げて、餌にする。これによりオークを森と草原に分断。森に入ったオークを、こちらが囲んで殲滅するという簡単な作戦。シュミュレーションしてみたら、それを10回繰り返さないといけない。そこで、コドシが、ハルク族に援軍に来てもらおうという。だから、又、釣りをして、魚の燻製をいっぱい作った。どうせハルク族に話してくれるのなら、燻製製作も手伝ってもらえないかと言おうと思う。


 コドシが、森から出かけて直ぐ帰ってきた。たまたまハルク族が、近くで遊牧していた。


 翌日、その人達が来てくれたから、作戦が、めちゃめちゃ楽になった。近くに居たのは、32人の小さい一家のハルク族だった。ハルク族は人形で、柵なんかの囲いが作れる。それだけで、ワーグたちの生存率がぐっと上がる。


「ハーン家のボイだ。人が、魔族を助けるの珍しい」


「魔族の方が、人より、話が通りやすいですよ。肉体能力も上だし。人族の事も個々に見てくれて、差別をしない。人より平等なぐらいです」


「まま、燻製を食べてみてください」と、勧めながら話す。


「旨いな、この魚、どうやった」


 そう聞くので、製法を教えながら、オークも同じことが出来ると教えた。そして町の計画も。


「おー、今の話が全部成功したら、このオアシスの側に、ずっと住めるのか。それは、嬉しい。年とったら遊牧キツイ。ここで隠居したい」


「農業は、教えます。水さえ引ければ楽勝ですよ」

 実際は、よく知らないが、知識は、コンピューターの中に有る。


 灌漑事業は、ハルク族で出来る。ワーグたちは、水路堀りの手伝いと、ここ一帯の警備を交代で、やってもらえば十分だと思う。ワーグは、言葉は、話せないが、ハルク族と意思疎通ができる。中々面白いことになって来たと思う。


 おれは、異世界に飛ばされた理不尽な状態をいつものゲーム的なイベントで、ごまかしている。それでも、楽しければいいんじゃないかと思った。



「キビト、柵、これでいいか」


「いいね。柵は、二重にしたいから、もうひと頑張り頼む」


「おー、任せろ!」


 人形は、おれの作戦を実行しやすいんだな。


 夜は、ハルクたちの宴会に招待された。ワーグの主、コドシとミヨもいる。おれは、ハルク族の夕食を食べて驚いた。まともな食事どころではない。生まれて15年間。今まで、こんな美味しい食事をしたことが無い。泣きながら、「旨い旨い」と、言って食べていたら、ハルク族の女たちが、嬉しそうに、ご馳走をいっぱい目の前においてくれた。この日のことをおれは、一生忘れないだろう。


 それにしても、明日、戦闘だって言うのに、ハルクたちは酒を飲み過ぎだ。おれにもすごく勧めるけど、おれは、まだ、未成年なんですけど。


 コドシとミヨの所に行くと、焚き木に映るコドシの顔が引き締まって見えた。ミヨが、明日、何匹か死ぬであろう戦争のことを憂いて、悲しそうな顔をしている。


「ミヨさん、回復ポーションを全部預けます。体に振りかけてもいいタイプです。14本はあります。少ないので、重症の人にだけ使ってください。敵は、1000匹はいるのですから」


「そうします」


 そうなのだ、おれは、アイテムボックスが使えることを発見した。ゲームの時のアイテムがそのまま使える。今回、振りかけても効果が有るハイポーションは、全部なくなるかも知れないない。でも、そうなっても問題ない。この森は、薬草の宝庫なので、すく元通りになると思う。


「キビト、飲んでるか?」と、ハルクの族長ボイが背中をボーンとたたいてきた。ハルク族は、力ありすぎ、ふっ飛ばさないでほしいと思う。

「おー、すまんすまん」


「ボイ、すまんな」

「何言ってるコドシ。ワーグは家族だ。何を今更」


 ボイは、相当酔ぱらっていた。明日は、戦闘だって言うのに、大丈夫か、このおっさん。


 エルフの原始人は、エルフと違って感情豊かだ。ボイは、コドシの側で酔いつぶれてしまった。ワーグは、良い友達種族を持っている。数押ししてくる奴らには、絶対負けられないと思った。




 昨夜から砂漠を見張っていたワーグの斥侯隊が戻ってきた。敵は、ワーグのオアシスから、15Km先にいる。オアシスから湧き出た水が蒸発する地点、塩湖の近くだ。ワーグの足は遅い。


 翌朝、塩湖を見下ろせる砂漠の丘の上におれたちは陣取った。


 おれは、この世界には無い武器であるライトソードを出してコドシの上に乗っていた。おれが、オークを切る。足の速いワーグを10匹選抜。彼らが、その死体を餌のように広げ置いて共食いを誘う。


 まだ、森から、15Km。草原の端から5Kmもある砂漠の中。ここで、おれたちは、たった10匹と、その上に乗るおれとボイだけで、オークを待ち構える。ここは、草原から5Km砂漠に入ったところの丘の上。砂漠を見下ろすと、大量のオーク。日が高いというのに覇気がない。のそのそと動いている。


 いきなり、ここに奇襲をかける。オークを分断する練習を実践でやろうというのだ。


 斥侯隊には丘から、おれらの戦闘を見てもらって、オークが。組織立って動くか見てもらう。もう一つは、共食いして、オークの足がどれぐらい止まるかだ。たぶん大量に倒さないといけない。それだと、この12人では厳しいことになり、オークを分断する人数を増やさないといけなくなる。だから、そのやり方をよく見てもらおうと思っている。


「行軍の先頭は任せろ。大将、行くぞ」

 ボイが、おれに声をかけてきた。戦闘開始だ。


 あれだけ酒を飲んで、酔いつぶれていたのに、ボイの元気なこと。ワーグに乗って元気いっぱいだ。自分の部族にいる相棒のようなワーグと何か話し合っている。ボイの持っている獲物は、ナタの様な重そうな剣。ボイは、巨漢なのだが、それを乗せているワーグも巨漢。ワーグに乗り慣れていないおれの方が、足手まといになるかもしれない。そこは、オレを乗せているコドシが助けてくれると思う。


 おれはライトソードを発動して、その光る剣を掲げた。


「突撃!」


 ボイが、行軍しているオークの先頭とぶつかり足止めをする。おれたちは、オークの群れの中央に突っ込みオークを倒していく。オークを倒すのは、おれと、ボイだけ。後は遺体を引きずる。引きずる係と、囲まれないよう警戒する係。何処まで、餌になるオークを拡散できるかが、本作戦で一番見たいところ。これは、ハルク族が来る前に建てた作戦だ。これで様子を見る。


 オークたちは、こん棒や斧を持っておれたちにせまる。それに対して、ライトソードの切れ味と来たら、格段の差。オークたちは、反応遅くなすすべがない。それでも、数で押してくる。


「みんな大声で脅してくれ。囲まれないようにするんだ」


「うおーーー」

 ガオン

 ガオーーーーーー


 最初の衝突で、オークを10匹ほど、あっけなく倒した。この死体をワーグが引きずり回す。ワーグの身体能力が高すぎて、暇を持て余しているという感じだ。そんな状態なので、オークに囲まれるのを警戒しているワーグも戦闘に加わっていた。


 こりゃ、引きずるより、帯状に倒していった方が早いな。


 ピーーーィ


 おれは、口笛で、撤退の合図を送った。全員丘の上に戻る。おれとボイで20匹ぐらい。ワーグが5匹倒した。おれの組は、後衛のワーグがちゃんと引きずった。ボイ側は、引きずる事をせず倒して回ったという感じだ。


「おいおい、ひでえな」


 ボイが頭を掻いている。オーグの死体に2~30匹が群がっている。遺体処理に15分と掛からない。


「キビト殿、ボイ隊のやり方の方が効率が良いのでは?」


「そうだよな。ボイ、お前さんのように戦えるハルクの戦士は、まだいるか」


「三人いる。カイ、クイ、ムイだ。うちのワーグを使うか?」


「いいね。もう一度待ち伏せして、さっきと同じことをしてみよう。コドシ、さっきの戦闘はどうだったか、斥侯に聞いてくれ」


 コドシの所の斥侯隊が、くうん、くうんと何やら話している。


「オークの指揮官がいるみたいだ。相当後ろの方に居たから、統率が取れなかったのではないか。我々が引き返した後、行軍の行列が持ち直したそうだ」


「指揮官がいるのか。そいつの顔が見たい。次は、もっと、敵陣深く行こう。それじゃあ、皆、引くぞ」

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