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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
39/43

右方決着

 右方側は、バウワが出たことで、現場は、バウワに任されることになった。ザインは、バウワの手並みを見たい。これを静観する構えだ。



 バウワ軍は、中央に盾役のゴーレム岩五郎を中心に据えたオークの本体が前面に出てきた。後詰めにオーク+ダークエルフ。右方にワーグ+ハルク隊。その後ろに100と短い剣とバックルを持ったエルフ。更にその後ろにエルフ弓隊150。エルフ弓隊の中には、女も多数いる。そして左方の壁際が鬼人隊だ。鬼人隊は、50人ほど。その中に女の鬼人も見ることが出来る。さっきまでは71人いたが、21人ほどが、左方の応援に向かった。士ゴーレムが気になるみたいだ。


 対して敵軍は、前面に重歩兵。その後ろに、盾て隊と槍隊の盾垣。歩兵本隊。更にその後ろに将軍率いる歩兵精鋭と騎馬隊。弓兵は、エルフにやられて、隊と言えるほど数が残っていない。メイジ兵も各隊にいるが、メイジ兵の数は少ない。連絡役と、そこの将を守るのが主な仕事。


 こちらが、広がっているのに対して、中央突破でも狙っているかのような敵の縦列布陣。左方、つまりおれらの後ろから来るであろう右軍の応援を期待しているのがありありしている。挟撃を意図しているのが見え見えだ。だからと言って敵軍は来ないけどね。


 敵は、ここから、それなりの動きを見せる。大盾隊が、エルフの弓を防ぐ為にそちらにシフトし始めた。槍兵は、重歩兵に付く。バウワもそうだが、どちらも、前進する構えだ。


 鬼人の隊長がバウワに進言した。

「我々が、先頭集団に穴を開けましょうか。そのまま突っ込むと歩兵に被害が出る」


 最初のぶつかりの被害を抑えたいとは、旨い言い方だ。バウワは、土んでん返しで、先頭集団に穴を開けようと思っていたが、鬼人に、いいところを譲ることにした。


「20名で隊を作ってくれ。我々が土んでん返しで、目くらましをする。貴殿らには、それを合図に、敵に突っ込んでもらいたい。我々もすぐ後を追う」

「20名ほど、中央に回します」

 鬼人の隊長は、ものすごく嬉しそうな顔をした。先陣は、鬼人族に決まった。



 歩兵同士の戦い、間合いがどんどん近づいて行く。もう、一触発という時、向こうの歩兵集団から、巨大な火の玉が膨れ上がった。メイジのファイヤーボールだ。これで、オーク隊の先頭集団を牽制するのだろう。これに対して、ハイオークは当初の予定通り、土んでん返しの土が爆発したような魔法で、壁を作った。本当は、これ、土煙という技。図らずも技を一つ憶えていた。うちの魔法は、詠唱というより気合いだから。


 大きな火の玉がいくつも空を飛んだ。これに対して防炎のような土煙が上がる。その双方がぶつかったドオンとい音が、開戦の合図になった。


 ドオン

 そして土煙がバラバラと、宙に舞う。双方一斉に気勢を上げた。


 オオーーーーーー


 そして、その土煙の中から、巨大な鬼人が、槍と変わらない長さのこん棒を持って飛び出した。鬼人は、重歩兵ごと槍兵を薙ぎ払う。


 ドゴン、ドガッ


「敵に穴ができたぞ。そこに突っ込め」


 ウォーーー

 オオーーー


 これを契機に、エルフが弓を射りだした。残りの鬼人族も敵に突っ込む。そして、オークたちが、岩五郎と共に突っ込んだ。岩五郎のゴーレムの核は、体内にあるので見えない。左軍のメイジも右軍同様、攻撃主体の火の魔法使い。相性が悪い相手に攻略法が見いだせないでいる。しかし、魔法攻撃は、魔法使いの領分。何とかしようと岩五郎を火で攻撃しだした。おかげで、火魔法による被害が少ない。オーク歩兵には、各隊にハイオークが付いていて、火の攻撃には土煙で対応しているのだが、思ったより飛んでこない。ハイオークたちはより多くのオークを守ることに専念できた。そんな状態の中で、オーク歩兵も自慢の腕力を使って戦う。それも、勝てそうな相手でも、数人で組んで戦う。これは、ずっと訓練していた戦法だ。


 おれは、遠目にオークたちの戦いを見て感心した。一度戦っている相手だ。その時はガリガリで、見るも無残だったが、今日は見直した。


「みんな強いぞ!」


 戦場は、自分の位置から遠いし、怒号が飛び交っているから聞こえないと思うけど応援した。

 その時、地上から鬼人達が声を掛けてきた。


「大将、敵の歩兵が瓦解して、左将軍の隊だけになったら、左将軍を捉えてくださいってバウワの旦那が言ってましたぜ。そこで、将軍をこっちが捕まえたら、敵は降伏するそうです」


「ありがとう、そうするよ。お前ら、左方に行くのか」


「士ゴーレムが気になるじゃないですか。戦闘にも加わります」


「分かった。頼むよ」


 おれは、士ゴーレムに鬼人族と共に戦えと、命令項目を増やした。



 敵歩兵は、どうしても目立つ岩五郎を攻撃しだした。実際の戦いの要は、ハイオークなのだが、どんでん返しは、地味な魔法だ。彼らは、戦局を読み間違えた。


 ゴーーーレム

 ドオン

 岩五郎が砂漠をなめる。敵は「ワー」と歓声を上げた。


 岩五郎は、敵の怒涛の攻撃に、体の岩を削られ、地面にうつぶせになった。これを見た、この岩五郎と苦労を共にしてきたオークたちの怒りは、頂点に達した。岩五郎はゴーレムで、すぐ復活するのだが、オークたちの怒りは、それどころではない。


「ブヒー、貴様ら許さん」

「死を持って償え」


「馬鹿もん、隊列を乱すな。ええい仕方ない。『岩壁』!」


 ドガン


 岩五郎がいるところに、オークたちが押し寄せた。バウワは、これを見て不味いと思った。敵が放つファイヤーボールの餌食になる。バウワは、敵の魔法の前に立ちはだかって、岩壁を打ち出した。今まで出したことが無いぐらい大きな岩壁は、メキメキ立ち上がり、メイジたちのファイヤーボールを見事防いだ。


 バウワやるなー、オレの出番がないや。


 それに今回、ワーグ救護隊は、危険な戦場まで、足を運ばなくて済んでいる。負傷兵は、オーク隊で後送。それをワーグのメスたちが、ソリで、本陣裏の天幕まで運ぶという従来のやり方ができるようになった。昨日の戦いは、狭い戦場での大混戦だったので、ワーグたちも無理したが、今回は訓練通りに事が進んだ。


 そのせいで、おれのやることが無い。つい中央で、ふよふよ浮いていたら、バウワが、こっちに来いと手招きしているのが見えた。


 戦局が動いたのだ。鬼人が本陣まで吐出していた。今度鬼人とは、その辺をちゃんと話し合わないといけないと思った。戦の展開を早回ししすぎだ。バウワは、親指を立てて、それを下に向けた。マジャ将軍を捕らえろという指示だ。


 おれは慌てて急加速した。ズギューーーンと、マジャ将軍がいる二階建ての戦車を目指す。今度は、速度を上げ過ぎたと思ったが、もう遅い。空を飛んでいると、急には止まれない。ドガンとぶつかりながら、マジャをラリアットする様に捕まえた。


「よう、マジャだったか。早い決着だったな」


 そう声を掛けたが気絶していた。ラリアットというよりアックスボンバーのような衝撃に、なってしまったようだった。


「オビト殿、この壁に、マジャを吊るしてくだされ」


 先ほど、バウワが立てた岩壁だ。戦場の中央にそびえたっている。ここに用意していた縄で、マジャ将軍を吊るした。バウワは、この壁の真ん前に立ちはだかって大声をあげた。


「見ろ、貴様らの将軍は、我らが捕らえたぞ。降伏しろ。もう、鬼人が、本陣を攻めている。早く降伏しないと壊滅だぞ」


 オーク王の声は、良く通った。敵兵は、マジャ将軍の気絶して、だらんとしている様を見て力を抜いた。もう、戦う気力は残っていなかった。戦場が静かになりだした時、本陣から副官と思える将と、側近と思われる将三人が、馬を駆って戦場の中央に来た。白旗など用意していなかったのだろう。3人は、馬から降りて、バウワに土下座した。


「オークの王よ。降伏する」


「武器を捨てさせよ。降伏を徹底させるのだ」


 副官は、土下座したまま。残りの二人が降伏すると触れて回った。


「皆の者。我らの勝利だ。エイ、エイ、オー」


 オーーーー、ドオン


 ものすごい歓声が上がった。


 いやいや、まだ、半分ですから、バウワさん。と思ったが、戦勝処理が必要だ。生き残った者を今すぐ、敵本陣に送り返すわけにはいかない。生き残りが、そのまま敵の増強になっては敵わない。本陣の騎馬兵は逃げ出したが、その辺りには鬼人がいる。歩兵は、逃げるのを諦めた。


 オレの目には、どう見ても1000人の捕虜ができたように見えた。


 いっぱい残ったなー 赤人族のミヒトマに、また愚痴をいっぱい聞かされそうだ。赤人族は、最後衛と、言うか。戦闘訓練ばかりしているオークや鬼人の為に、畑の世話をずっとしている。戦争になって、包帯が足りないと、赤人族の女が駆り出され。飯もままならない状況。今日は、ハイオークの女たちが炊き出しに入っているから、機嫌が直っているだろうが、1000人か。まだ、増えそうな予感がする。


 ミヒトマの「この戦闘狂達が!普通に働かんか」などと、ぶつぶつ言っているのが聞こえてきそうだ。


「バウワ、実は、向こうも1500ぐらいしか残っていないんだ。でも、弓とメイジのタッグが強力で困っている。ダークエルフとワーグ隊を貸してくれ。後は、ここの処理を頼む」


「今日は、旨い酒が飲めそうですな」


「戦後処理があるんだ。そうはいかないよ。向こうが、まだ、やる気だったらまずいから、兵の引き締めを頼む」


「了解しましたぞ」


 バウワは、おれを見送った後、気絶してよだれを垂らしているマジャ将軍を見上げて、この馬鹿をどうしたものかと、頭をひねった。

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