生きるために戦う
この世界は、おれが、前いた世界でやりこんでいたネトゲー。ファンタジーLD〈ライト&ダークネス〉と同じ世界だ。おれは、そこで、最強の魔法剣士だった。
ある時、「頭の中にコンピューターを埋め込む技術が確立したので、その被験者を探しているます」と、脳に電極を差し込んでコンピューターと繋がっている第一世代の人達に、国を通して、「ニューロチップ適合者の適性検査を受けてください」と、連絡があった。
おれは、いいや、適性検査を受けた同級生は、みんな、そのニューロチップを頭に埋め込むことが出来る。第二世代になれる合格者だった。おれたちは、全国から、集められ、まず健康を守るためのナノマシンを体に注入されたのち、ニューロチップを脳に注入された。ニューロチップは、脳内にネット網を張り巡らせた。そこで、ニューロリンクを構成。無線で、マザーコンピューターのクラウドと通信するようになった。
ここで、おれにとって、とても大きな変化があった。ファンタジーLDをニューロリンクでやるようになって、反応速度が格段に上がったのだ。それは、ゲームパッドでチャカチャカやっているスピードの比ではない。この時おれは、もう、ファンタジーLDをカンストしてLv100になっていたが、おれの感覚で言うとLv120になった様な強さだった。その上、色々ずるしていたので、実力Lvは、126だと思う。
異世界に放り出されるなんて言う今の状態は、担任の宮迫の野郎の性だとは思うのだが、おれは、ニューロリンクの第二世代から、第三世代を覗いてしまったのだろう。それで、この異世界にいる。
第三世代とは、非現実から現実を手に入れる世代のことだった。最近そのヘルプを見つけた。実際そのおかげで、現在、現実に、ファンタジーLDの魔法や剣技が使えている。
おれのファンタジーLDでのメイン職業は、魔法剣士。魔法と剣士のいいとこどり。しかし、専門職には敵わない。だから躍起になって、強化してきた。ところが、ニューロリンクのおかげで、実質レベル100オーバーしているので、専門職換算でも、レベル112ぐらいある。更に魔法は、専門属性にしないで、何でも使えようにしているので、これも専門属性を使う魔法師に劣る。高レベルでも、スキル的に使えない魔法があるということだ。それでも、専門属性魔法士換算でレベル102あるのだから、とんでもなく強い。理不尽な男だと思うのなら思え。
更にサブ職業が、錬金術士なので、合成魔法が得意。ゴル砂漠に、畑を出現させた魔法は、土の水の合成魔法ヌーバ。これで、オークたちを食べさせることが出来るようになった。
今回使う合成魔法も、土と水だ。これで、素早く動くウオーゴーレムを11体作る。十一体とは、士という意味にちなんだ。十一を縦に書くと士になる。だから、武器の刀もゴーレムの一部にした。こいつらが、左軍の足止めをする。ゴーレムには、結晶石が必要だ。だから量産できない。欠点の結晶石を砕かれたらまずいので結界を張るのだが、土だけだと破る敵魔法使いがいると思う。昨夜敵軍のテントで良いヒントを貰った。別属性の二重結界は、この世界の住人では。まず破れない。これで、コアの結晶石は守られる。それに水という流体を間接に使うことでゴーレムのスピードが上がる。我ながらいい案だと思うんだ。
ゴーレムは、コアさえ砕かれなければ、何度でも復活する。水属性で、スピードが上がる分、防御力が落ちるが、このゾンビアタックは、敵を困らせること間違いなしだと思う。
ゴーレムを動かすということは、常に魔力を消費しているということだ。おれは今日もおとなしく昨日やったのと同じようにワーグ救護隊のバックアップをしようと思う。今度こんなことがあったら、ドワーフをワーグ救護隊に乗せようと思う。ドワーフは、小さいのに、力持ち。良い補助になると思う。でも、ずいぶん練習しないといけない。今だとワーグにしがみつくのが精いっぱいだろう。
翌朝、全種族の王や長が集まって戦議になった。敵将ホウギ将軍とハクオウ軍師の考えは、ヒデラ皇帝を安堵させるものだった。
「ホウギ将軍とハクオウ軍師は、我々と戦う気がないようだ。それよりシイナ国の体制を修復をするために、軍に巣くう十老子の息のかかった左右将軍というがんを一掃したいそうだ。この左右にいる将軍の兵も、それら将軍の私兵。おれたちが、この2将軍を倒したら、私兵化して、盗賊になりかねないと言っていた。おれは二人に、敵はゴーレムが使えないと教えられた。こっちは、おれが使える」
みんな、これを聞いて嫌な顔をした。
「つまりどういうことだ」
「とにかく、左右軍と戦え。本陣では止められないと言って来たんだ」
「なんだと、お前たちは、戦うしかないという言い方じゃないか」
「勝手な言い分だな」
「そうだが、戦は、やりやすくなる。各個撃破の良い的だろ。向こうはゴーレムが使えないんだ。キビトが足止めしてくれたら、余裕で行ける」
「スメル、この左右の兵たちを生かせないか?」
「無理でしょうな。左右一軍だけでも、我々より数が多い。残忍な気持ちで攻めてきます。ある程度戦うのは、やむおえないことです」
「降伏したらしたで、軍などいらない我々には、手に余るのではないですか」
「みんな勝つ気でいるが、まず、戦うことが先決だ。エルフの弓隊の半数と、ドワーフの戦士。ワーグ隊の一部は、キビトのゴーレムをすり抜けた敵軍の処理をお願いしたい。後は、昨夜話し合った戦術でいいと思うがどうだ。昨日の戦議のようにように、三分の一も足止めに使わなくて済むんだ。楽になった」
ザインの言う戦議の優先順位は、もっともだ。まず作戦。全員、各個撃破作戦で行こうという。
まず、右側を攻める。左の抑えが、おれのゴーレム。ハクオウ軍師は、昨晩、「わが軍には、ゴーレムが無いとだけ言っておきましょう」と、言っていた。それは、おれの性なのだが、そこまで思っていないような言い方だった。では、昨日左右軍が、目を血走らせて中央に向かってきたのは、ヒデラ皇帝を殺すためだということになる。スメルは、おれが囮みたいないい方をしていたが、本人がこれを知ったら、やりきれないだろうな。
「やっぱり、おれが、左右将軍を拉致して岩壁に吊るすという作戦は、ダメか?」
「十老子の息が掛かっているのが、左右の将軍だけとは限らないだろ」
「残った兵は、ハクオウ軍師に捨て駒にされるかもしれませんぞ。わしは、敵を簡単に信用できませんな」
「ノーブの言うことはもっともだ」
「おれも、同じ意見だが、兵を多く生かすタイミングはあるだろう。コドシとスメルは、ザインにずっとついていてくれよ。ザインは、おれに合図な。将軍を捕まえに行くから。負傷者もそうだけど、いっぱい生き残ったら生き残ったで、おれが何とかする。それでいいか」
「キビト殿がそう言うのなら」
「いっぱい残していいんだな」
「意地悪言うなよザイン」
そこで、シイナ国のペイ村に、この開拓村主導の自治領を作る案をヒデラ皇帝に提案した。ヒデラは、国の体制が整ったら、まずそれを最初の仕事にすると約束してくれた。自分を殺そうとした兵に、やさしい皇帝だ。だからといって、それを押し付けられたおれは、そんなに優しくない。
「あの、左右軍の私兵というのも我が国の民だ。出来るだけ多く生かしたい。キビトが、ペイ村を開拓してくれるというのなら、彼らも労役させる。それが、この戦の謝罪でいいか」
「やっぱりそうなるか。それって、おれは、今の倍、忙しくならないか」
「自治領なのであろう」
「ワハハ、大将ならやれる」
ボイに思いっきり背中をたたかれた。ハルク族の思いっきりというのは、遠慮してもらいたい。おれは、みんなの円陣の中央に吹っ飛ばされた。仕方ないのでそこで立ち上がった。
「じゃあ、今日も頑張るか」
「いつものことですぞ」
オーク王バウワは、平常心。
「戦いは、早めに終わらせてくれ。ミヨの機嫌が悪いのだ」
コドシは、救護をやっている嫁のミヨに怒られている風。
「戦議は決まった。後は、やるだけだ。大将、掛け声をかけてくれ」
ザインが、また眼をギラギラさせだした。
「みんな、やるぞ」
全員「オウ!」と言って、各方面に散らばった。
おれは戦議が終わった後、こそっとスメルに、「昨日左右軍が中央に攻めてきたのは、おれ目当てじゃなく、ヒデラ皇帝を殺すためだったんだろ」と、聞いてみた。スメルは、真顔で、「私は、お二人と言いました。あなたは、ここの大将なんですよ」。そう言うので、「そんなの、向こうは、知らなかったぞ」というと、「それはそうでしょう。メイジ兵300を一瞬で無力化したんですよ。知っていたら攻めてきません」と、あっけらかんと肯定した。物凄く頼りになるのだが、本当に食えないエルフの長だ。




