敵将の顔が見たい
初日の戦いは、死者オーク17名。鬼人2名。これだけで済んだ。敵3万人の内、5千以上倒している。しかし、生き残っている者は、出来るだけ救おうと話し合っていた。救護は、夜中まで続きそうだ。
明日は、こんな奇跡的な勝利は得られないと、みんな思っている。それでもみんなが勝利に沸いている中、おれは、この戦死者を弔った。彼らにも家族がいる。皆泣いている。おれは、どうにかこの戦争を終わらしたいと思う。
戦議が始まった。ここにヒデラ皇帝もいる。おれは、敵の総大将、ホウギ将軍と話してみたいと提案した。ゼインは、今日の勝利に酔っていなかった。「キビトの提案も戦議に入れて話し合いたい」と、みんなに提案した。しかし、基本路線が気になるようで、おれの話は、後回しにされそうになった。
「明日は、今日立てた壁を回りこまれる。敵軍の左右軍は、今日は、瓦解状態だったが、明日は、軍を立て直す。おれは左右どちらかに打って出て、各個撃破を狙うのがいいと思う」
「それは、中央軍と本陣が動かなかったらだろ。おれの提案から戦議してくれよ。明日はおれにも参戦してくれという話になる前に、話し合いの余地があるかどうか聞きたいんだ」
「仕方ない。みんな意見を言ってくれ」
ずっと中央の物見やぐらにいたボイが、最初に話し出した。
「敵の総大将に肩入れするわけじゃないが、今日の敵の戦いはひどかった。あれでは、兵がたまらない。無駄死にだ。左右軍は半減した。それでも、左右軍とも軍は、わが軍より兵が多い。明日も無茶してくるんじゃないか」
鬼人族の長ノーブは、意気軒高。このままで行こうという。
「相手が無茶な戦い方をするなら、それを屠ればいい。もし、中央軍と本陣が動かないなら、左右軍を沈黙させらえる。そこで話し合いを持ち掛ければいいのではないか」
エルフの長スメルは、今日話し合いをするべきだという。ダークエルフの戦士長エンドルフは、まだ、戦い切れていないとスメルの話を切り返した。
「今日、向こうは、夕方まで無策で攻めてきたのだ。内部でもめているのは、間違いない。もう一押しではないか」
「もう一押しと言っても、どうする。使者を送ろということか?今だと、敵に恨みを買っているだけではないか。私は、ノーブに賛成だ。まだ、戦果が足りない」
「だから、おれが行くって。おれって、向こうから見たら小僧じゃないか。飛んで行くっていう威嚇をしないで、歩いて行けば、話を聞いてくれるんじゃないか」
「我も一緒に行きたい」
「ヒデラはダメだ。それだと飛んで行かないと逃げられなくなる。それこそ、まだ早いんじゃないか」
みんな、そう思っている。
「そうですぞ、結局敵は、今日一日、ずっと我々を攻めていたではないですか。ヒデラ様の身に何かあれば、シイナ国は、全力で、この、開拓村を攻めてきます。我々は、殲滅されてしまいます」
ゼインの将軍の言う通りだと思う。
バウアが、おれの気持をくんでくれた。
「キビト殿は、どうしても、敵総大将ホウギ将軍の顔を見たいのですかな?なら、ヒデラ様の使者になるというのはどうでしょう。ヒデラ様、何かご自身の使者だと分かる証しを持っていませんか。それなら、キビト殿は、ホウギ将軍に会えると思いますぞ」
「話がうまく行かなかったら、飛んで逃げればいい」と、コドシも勧めてくれた。
「今は、こんなものしかないぞ」
そう言ってハンカチを出してくれた。
「これには、伽羅の香りが染みついている。ホウギが分からなくても、ハクオウが分かると言いなさい」
伽羅とは、とても貴重な香木。上品なにおいがする。
「どうだゼイン?」
「お前は、ここの王の王だぞ。くそっ、オレは、ハクオウ軍師という人物に興味がある。もし、敵の総大将に会えなかったら、それまでだ。しかし、今日の不手際は、もっと気になる。敵の総大将に会えば、今日の様子も見えるだろう。これでハクオウ軍師の人となりが分かるのなら安いものだ」
「お前、今のは、帝国のゼイン将軍の発言だろ」
「その通りだが、利があるのも確かだぞ。明日以降の作戦が変わる」
この後は、本来の作戦が話し合われる。おれは、ヒデラから伽羅の香りがついたハンカチを借りて、とことこ歩いて敵本陣に向かった。岩壁までは、カイのワーグに乗せてもらったが、そこからは歩いた。敵のメイジは、全滅していない。夜目の利く者もいるだろう。
あの無表情なスメルが、「無茶はしないでください」と、ニコッと笑った。なんか見透かされていると思ったが、賛成なのだろう。スメルに、意外な男だと思われたいものだ。




