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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
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戦前夜

 ヒデラ皇帝は、信頼できると思う。なら、皇帝を、この侵攻している軍の将軍に引き合わせて、侵略をやめさせればいいと思うだろうが、十老子の息のかかった将軍だと、皇帝そのものが、暗殺されかねない。これ、宮迫先生が言ってた歴史ドラマの常識だ。だから、身をもって、最前線で大声を張り上げてもらおうと思うのだ。その代わり奥にいる将軍にも声が届くように拡声の魔法を掛けさせてもらう。それでだめなら、トップダウン野郎としては、将軍を拉致しようと思う。


 それでも止まらないなら、つまりおれは、上から攻撃していく。だって殲滅するなってみんなが言うからだ。一度そんなことをした魔王がいたそうだ。そのせいで、魔物は、人や亜人から目の敵にされている。その歴史を繰り返したくないと言っていた。


 将軍でダメだったら十老子かな。今から、まとめて連れ帰れる網でも作ってもらおう。あいつらは、生体反応をメモしているからどこにいてもすぐ見つけることが出来る。ハイオークのおかみさんたちが立てた岩壁に吊るせば、自分が他人に、どんなことをしているか、身をもって知ることが出来るだろう。どこかで、この集団が戦争狂だと判明したら、殲滅していいよねと、また聞こうと思っている。皇帝の、人らしい反応を見ていると、そこまではないと思うが。


 知的生命体の多いこの世界にいると、逆に人間が、どうしてこんなに繁栄しているのか気になる。頭は、エルフの方が上そうだし、技術力はドワーフ、体力は、魔物の方がありそうに思うのだが、おかしなことだ。


「ほら、あそこがオークの開拓村だ。今じゃあ、ドワーフ、赤人族、鬼人族も定住している。それをサポートしているのがハルク族だ。シイナ国に追われて、最近エルフ族も来たぞ。侵攻してくる皇帝私兵軍に対する戦議を中央の吟遊詩人公民館でやってる。スメルの後で、みんなも紹介するよ」


 もう村が近いので高度を落としている。ヒデラ皇帝は、魔物と亜人しかいない開拓村を見て身震いしていた。


「ここで一番偉いのは、オーク王か?」

「おれだけど」

「へっ? じゃあ、キビトがこうだと言えばそうなるのか?」

「そうならないから、お前を連れて来ているんじゃないか。3万ぐらいだったら、おれ一人で殲滅できる。だけど、みんなにやめてくれと言われた」

「変な王様だな」

「そうかな。みろ、エルフの長スメルがいる。ちょっと呼んで来るから待ってろ」


 スメルにヒデラ皇帝を紹介した。後は、スメルに任せることにした。スメルは、表情があまり変わらない。ヒデラにとっては、嫌な顔をされなくて済むのだ。たまには、頑固なのも役に立つと思った。

 そしておれは、ヒデラ皇帝をここに連れてきた経緯を話した。ヒデラの謝罪をスメルは受け入れてくれた。


「ヒデラ様の謝罪を受け入れましょう。しかし、陛下が、国を動かさなくてどうします。キビトは、ここに来るとき十老子に罰を与えた。これは効いていると思います。陛下が、国政を握るチャンスかもしれません。大変でしょうが、3万の兵士に語り掛ける仕事から始められるしかない。大丈夫です。それが良い結果をもたらすと思います」


 自分で、提案しといてなんだけど、ほんとかよと思った。


「スメル殿、我を導いてください」

「それはできません。国に人無しだと思われていますが、それは、陛下の怠慢です。人を見出してこそ、陛下の仕事が始まるのです」

「しかし」

「命を張ってこそ、現れる真実もある。明日試して見なされ」


 そういやスメルは、戦争をトップダウンで止めるの賛成派だった。翌日、敵は攻めて来る。もう、待ったなしになった。


 おれは、この後、ヒデラをみんなに紹介した。敵の大将を紹介するのも何だが、うちは、牢屋などない。夕食は、バウアの家に決まった。ヒデラは、オーク王の家に一泊することになった。その後リリーにも会わせた。リリーは、困った顔をしていたが、そこは、同い年だ。この時の挨拶は、あまりうまく行かなかった。それは、仕方ないことなのだが、もう一度チャンスをやろうと思う。



 おれは夜中、岩璧を立てるところに行って、一枚だけ砂漠を凹って土んでん返しで岩板を立てた。そして、その上に乗って、明日戦場になるであろう砂漠を眺めていた。そこに、コドシとザインがやって来た。コドシが、おれ以外を乗せるのを初めて見た。


「おーい」

 バウ


「二人ともどうした」


「見回りだ。なんだ、1枚立てたのか」


 おれは、岩壁から降りて二人をねぎらった。


「後で倒すよ。夜中なのに見回りか、大変だな」

「夜襲も警戒しないといけないからな」

「キビト殿こそどうした」


「明日、味方も敵もいっぱい死ぬんだろうなと思って。今更、別の手はなかったか考えていたんだ」

「オレは、無いと思うぞ。さっきヒデラ皇帝と話した。帝国が、こっち側にあったら、シイナ国なんていちころだぞ」

「味方から死人は出さない。ミヨも手伝ってくれるぞ」


「シイナ国のパワーバランスは崩せない。メイジ部隊は、しばらく無力化しただけだろ。そんなにやわな軍隊じゃないさ」

「強敵は、3将軍の中のホウギ将軍だろうな。老将だが良将だ」

「それが、中央軍の将か」

「そうだし、総大将だ。結構大事な話だぞ。戦議を聞けよ」

「キビト殿は、岩盤を設置していたのだぞ」

「そうでした」


「他には、どんなのがいるんだ」

「他の2将軍は気にしなくていい。雇われ将軍だ。ただな、ハクオウという軍師がいる。これが厄介だ。メイジ隊は、キビトに無力化してもらったが、ハクオウは、各隊に、先にメイジを配置していた。楽はさせてもらえない相手だ」

「本当だ。ヒデラは、国に人無しと言っていたが、聞けばいるもんだな」

「当り前だ。国力とは人口だ。人口が多ければ優秀な奴もいっぱいいる」

「シイナ国の場合は、国の構造から考えて、人口の十分の一で考えたほうがいいぞ。商業文字を人口の1割しか読めないんだ。人材を活かし切れていない」

「・・・、たまに、まともなこと言うな」

「たまには、余分だ。じゃあ、岩壁を元に戻すよ」

「いや、そのままでいい。1枚は、警告だ。それに、土んでん返の見本が1枚あった方がいい」


 月が煌々と光っている。


「二人ともまだ見回りか?」

「もう帰って寝るよ」

「わしらも、明日の英気を養わないとな」

「気をつけて帰ってくれ」


 夜は更けて戦いの夜明けを待つ事になった。

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