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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
28/43

エルフの援軍がやって来た

 秋の収穫時期が来た。そろそろ、ツンドラ地帯に出かけたハルク族のカーンとザイ一家が、毛長牛をいっぱい連れて戻ってくるはずだ。冬に備えてサイロを作っているところだった。そこに、遠距離の斥侯に出ていた鬼人族が戻って来た。実は、ペイ村の収穫状況を調べてもらっていた。


「キビト殿、敵襲だ。3日後には、戦場予定地に進軍してくるだろう」

「分かった。ゼインの指示に従ってくれ。それでペイ村は?」

「この戦に勝ったら、その地域の軍を始末していいぞ。ペイ村に支援しないと村人は、餓死する」


 無理やり食料を奪われたか

「分かった」


 オークの中心地である公民館に行くとすごい人だかり。戦議の真っ最中だった。おれを見かけたハルク族のボイが、駆け寄って来た。


「来たか」

「どんな感じだ」

「第一陣はもう所定の位置に陣を張りに行ったぞ。練習用の塩湖にある岩板も立てる。そこが最終防衛線だ」

「女は、結局どのくらい参戦したんだ?」

「106名だ。ハイオークに次いで鬼人族が多い」

「そういう種族だったな」

「現地の救護班もいる。うちの一家も総出だ」


 そんな話をしながら公民館に入ると、ゼインが手ぐすね引いて待っていた。


「キビト遅いぞ」

「ああ、すまん。新しい情報はあるか?」

「向こうは、遠距離タイプの魔法使い部隊が多数いるそうだ。想定は、していたが、きついことになった。金に飽かした軍というか自国の軍閥への抑止だろうな」

「おれに出撃命令を出せよ」

「王は、戦場の後ろで、デーンとしているもんだと言っただろ・・・仕方ない。許可する」

「心配するな。戦う前に終わらせてやるから」

「お前、まだあの作戦にこだわっていたのか」

「ハイライン王子推薦だぞ。結果は、ゼインたちが考えている通りだろうが、やる価値はあるそうだ。それは、元々いいって言ってたよな」

「最前線というか無謀な位置に立つつもりだろ。キビトが一番どんでん返しのタイミングを計れる。切っ掛けを任せていいか」

「任された」


 思ったより、おれの参戦をみんな喜んでいる。


「いい知らせがある。エルフが、手伝ってくれるそうだ」

「本当に?何処にいる」

「キビト君、私の顔を忘れたのかね」

「スメル。来てくれたんだ」

「立ち寄っただけだ。と、言いたいが、冬が近い。今季は、ここで過ごしていいか」

「歓迎する」

 おれは、ものすごく嬉しそうな顔をしてスメルの肩をたたいたが、迷惑そうな顔をされた。相変わらずだ。ウラが、リリーを連れて来てくれた。ずっとスメルたちを待っていたリリーが泣きそうな顔をして喜んでいるのが印象的だった。


「我らもリリー様を守るために来た。私はエンドルフ。我がダークエルフの弓隊も使ってくれ」

 それは、ダークエルフの族長エンドルフ率いる弓兵100。

「嬉しいよ。よろしく頼む」


 ダークエルフたちが、リリーに膝間ずく。


 ザインは、強力な助っ人を得て、覇気をあげた。

「キビト、敵メイジ部隊を倒してくれ。こっちは、弓部隊までそろったぞ」

「任せろ。それで、エルフの移民は何人いるんだ」

「ダークエルフも入れて1046名だ」


 まいったな。畑を拡張しなくてはいけない。開拓村の人口が、4000人を超えた。


「スメル、6族長にも歓迎すると言ってくれ。オークが理解出来るように、丁寧に話すことも言ってくれよ。半年ぐらい仲間なんだから」

「伝えよう」


「じゃあ、後詰めの弓隊を守るために、ゴーレムをもう一体出す。ゼインいいか」

「分かっているじゃないか。両端を守らせてくれ。これで、今までの作戦通り実行できる。そうだ、弓隊用の物見やぐらを作ってくれ。岩凸が5。ガブ達に、後で梯子を掛けさせよう」


「スメル、エンドルフ。弓隊のリーダーを呼んでくれ。戦場を見せたい。物見やぐらの位置も決めてくれ」

 二人は、ふっとここからいなくなった。スメルは分かるが、どうやら、エンドルフもハイエルフになりそうなのかもしれない。堅物が一人増えた。


 現場に行くとボイの息子カイが天幕張りをやっていた。甥のクイとムイもいて、ワーグたちもいて、最初のオーク戦を思い出した。


「大将、遅いぞ」

「すまん」

「クイ、ムイ。斥侯に行ってみるか?位置を把握したいだけだから、おれが見える範囲でいいから、ついて来てくれ」

「いいの!」

「これから物見やぐらを設置するんだ。敵の進行位置を正確に把握したい。スメルもいいだろ」

「また空を飛ぶのか?嫌いなのだが仕方ない。エンドルフも付き合え」

「イイゾ」

 多分エンドルフは、音を上げると思うが、目が多いほうがいいか。


「よし行こう」

 ガシッ

「な、なんだ?」

「すぐわかる」

「『ウオーム』『エアバリアー』『バリヤー』『加速』!しっかりつかまってくれ『浮遊』行くぞ『タイフーン』」


 今回は、分かりやすいように風で加速した。反重力のベクトル変化だとスメルが加速酔いする。


「クイ、ムイ!」

「おう」

「もっとゆっくり飛んでよ」


 あいつらも成長した。いっぱしのワーグ乗りだ。


 キーーーーーーン


「ここでいい」

「どうした。エンドルフ」

「鷹の目だ。ダークエルフは、遠目が利く」

「なるほど、じゃあ、スメルにも付与『鷹の目』」


 スメルにも、進軍してくるシイナ国の軍隊がはっきり見えた。


「クイとムイの進行ぐあいと、戦場の位置関係も見てくれ。どうだ?」

「うむ、いい位置だ」

「布陣する位置も特定できそうか?」

「3万の軍隊だ。セオリー通りなら将軍は3人。全軍を3隊に分けて中央と左右の翼軍だろうな。そして中央奥に本陣だろう。作戦は聞いたが、進軍している途中で岩壁を土んでん返しする方が効果的そうだ。見ろ、縦列で進軍している。布陣する前に一戦しよう。行軍している敵を襲う。そこから逃げる振りをして追ってきた敵の目の前で岩板を起こす。これが効果的だ」

「それって撤退戦だろ。一番難しい作戦じゃないか」

「ワーグ部隊ならできる」

「まだ、3日ある」

「ザインに献策してくれ。おれは、リベラルなんだ」

「どういうことだ?」


 それで、呆れられるのを覚悟で、皇帝を最前線に立たせて戦争を自ら止めさせる作戦を話した。


「いいのではないか」

「王が成長するなら、民の憂いが減る」


 初めて、良いって言われた。


「そうするよ」


 エルフが来てくれた。おれもそうだが、みんなもザインも勉強になる。無理やり早く走っているクイとムイのところに行ってご苦労さんと慰労した。


「敵の行軍予想は終わったぞ。お前ら大丈夫か」

「ハアハア。相棒に水を飲ませたい」

「『水球』!いっぱい飲むなよ。帰りがきつくなる」

 直径50センチはある水球が、ふよふよ空中に浮く。

 ガフッガフッ

 聞いてないか、やっぱりまだまだだ。

「今日から毎日、毛長牛を3頭出す。スメルたちは、従来の食事ができるぞ。エルフ豆が豊作だ」

「やった」

「すごいな」

「それはありがたい」

 ワオーーーン


「エンドルフは、クイとムイと帰って、さっきの作戦をザインに献策してくれ。スメルは、おれとメイジ隊の視察に同行してくれ。今度は、背中側に乗ってくれ。じゃないと守り切れない」


 

「相棒、この人を乗せていいか」

 わおーーん

「乗ってくれ」

 エンドルフが、おっかなビックリ、クイのワーグに乗る


 ムイ、クイ気をつけて。おれは手を振って、また飛び上がった。


 永遠と行軍している敵の上空を最奥に向かって飛び続ける。


「なぜ向うは、我々に気づかないのかね」

「光学操作だよ。光を偏光して、相手には見えないようにしている。おれの体の前で光が曲がる空気による硝子盤を置いていると思ってくれ」

「驚いた、風魔法か」

「追従させるために重力魔法も使っている。空気の厚さをずらすように変えて、前面に置いているだけなんだ」

「では、光魔法とはなんだ」

 この世界の住人に、光と闇属性の魔法はない。

「そうだな、風で説明すると、空気レンズを作ると光を集めてくれて発火することが出来るだろ。それを意図的に高出力でやると光の攻撃魔法レーザーになる。光は癒しもできるんだ。・・すまん、その話は後だ。あれがメイジ隊だろ。あからさまに服装が違う」

「レーザーの定義は知っている。拡散しない光なのだろ。それを魔法で・・メイジ隊は、ざっと300はいる。メイジ1に対して歩兵100という。あの魔法部隊は、3万の兵力を持っていることになる」

「殺すには惜しい。殲滅するとあの国が乱れる。でも、うちは、戦争で負けたくない。この戦では、魔法が使えないように出来ないかな」

「さっきのレーザーだが、極細の光線というのは作れないのかね。それなら、脳に損傷を与えはするが、自然治癒する。だからと言って魔法は、デリケートなものだ。メイジ隊を暫らく無力化出来るのではないか」

「なるほど、じゃあ、やってみるか」

「出来るのか?」

「フラクスタルというのを知っているか?有限の中の無限パターンの事だ。おれたちで言うと血管なんかがそうだな。その模様を使って、フラクスタルレンズを作る。それにレーザーを当てると極細光線の広範囲攻撃だ出来る。殺傷能力ないけどね」

「今やりなさい」


 おれの中に有るコンピューターシュミュレーションで、フラクスタルレンズ模様展開。


「『フラクスタルレーザー』!」


 おれとスメルの目の前に、永遠と続くと思える光のパターンが展開された。フラクスタル模様を展開するのに時間が掛かる。その中に、無数に小さなレンズが現れる。そこに、おれは、レーザー光線を当てた。おれは、この模様のメモをとった。


 ピュンピュンと極細のレーザーが散射された。バタバタと倒れるメイジ隊。最後方にいたので、他の兵士は気づかず先に進む。


「今回は、メイジ隊まで使う気はなかったのだろう。だから誰も気づかない。それが分かっただけでも戦果だ。作戦を詳細に立てられる」

「だろうな。オーク2000に3万は、投入しすぎだ。メイジ隊の奴らは、ほっといても目を覚ますさ。帰ろう」



 おれたちはクイとムイを追って帰り、岩板後方左右に2つずつ。そして中央奥に巨大な物見やぐらを設置した。

 その後、ドワーフのところに行って労をねぎらった。急に弓矢が大量に必要になり、必死になって作っているところだ。ガブは、物見やぐらに梯子を設置しに行っていなかったが、孫のジャスミンが対応してくれた。


「エルフを連れて来てくれたんだ。弓矢に真が入っていると思うんだけど、どうかな」


 スメルは、これを詳細に見た。


「いい仕事だ、これなら正確に掃射できるし飛距離も伸びる」


「良かった。戦争中は、武器や防具のメンテナンスもしなくっちゃいけないから生産が落ちるけど、ずっと作り続ける」


 見ると女も総出だ。バウワに言って、オークの女にドワーフの世話をさせるように言おう。これを見て、いよいよという気がしてきた。

フラクタル 〈本文名は、フラクスタル〉


 生物のフラクタルに血管がある。有限の中の無限。フラクタルだと遺伝子情報は、少ないのに、人間の血管の総延長は、地球2周分に相当する

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