ハイライン王子の助言
帝国の城上空に行くと、防空結界を張っていた。たぶん、おれ対策だ。生意気なと思って、風玉砕の広範囲攻撃で城の塔の天辺にあるだろう風硝石を砕いてやった。
なのに城で騒ぎが起きない。たぶん風障結界を張りっぱなしでメンテナンスをしていないということだろう。
ハイライン王子の指示で張ったのだろうが、部下になめられていないか?
そう思いながら、いつもの3階建ての建物がある当たりにハイライン王子を探しに行った。
「おーい」
「来たなキビト。城を防空していた風硝石を壊しただろ。弁償しろ」
「ばれてたか。たぶんこっちの方が大きいぞ」
そう言ってアイテムボックスから風硝石を取り出した。エルフにあげたのに、なんで、ほいほい、ハイライン王子に、この結晶石を出すかというと、まだ、山ほどあるからだ。おれは、ファンタジーLD〈ライト&ダークネス〉を前いた世界でやりまくっていたのだ。
頭を掻きながら、風硝石を渡していると、後ろから、剣士が切り掛かって来た。
「賊め、王子から離れろ」
ハイライン王子がこそっと言ってきた。
「わるい、こいつをぶっ倒してくれ。それで、剣術稽古だった時間が空く」
「相変わらずだな」
「そう言うな。話があって来たんだろ」
ハイライン王子は、あの1カ月でたくましくなっていた。
「王子、お下がりください」
「キビト、殺すなよ」
おれは、後ろから襲ってきた剣術の指南役の剣をぎりぎりでよけて、相手の小手をたたいて剣をたたき落とし、そのまま裏拳で顔面を殴った。鼻だと鼻血が出ると思って眉間にしたが、そこも急所だ。ちょっとやそっとでは、目を覚まさないぐらい気絶させてしまった。
「すまん、最後のは、不可抗力だ」
「いや、これで、もっと丁寧に教えてくれる。彼の高慢ちきぶりには、辟易していたんだ。それでなんだ?、茶でも出そうか」
そう言われて、シイナ国との戦争の話になった。ゼインが自分で出した策を最後までやりたいと言って、もう少し暇をくれという伝言をした。驚いたことに、ハイライン王子は、おれに頭を下げてザインを頼むと言って来た。ハイライン王子は、一国の王になる器だ。エルフのスメルもそうだが、上に立つ人間とは、こういう人のことを言うのだろうと思った。
それで、みんなにバカにされたおれの作戦をハイライン王子に相談した。思った通りというか、ハイライン王子にも苦笑いされた。
「最高か最悪の王だったら、良い作戦だろうな。だが、シイナ国の皇帝だろ。あれはお飾りだ。ただ、うちの間者が言うには、バカではないらしい。あの国のがんは、十老子という皇帝に、はべっている10人の側近だ。皇帝は幼い頃に皇帝の座に就いた。何も分からない幼帝だった時に、その十老子が権力を握った。皇帝は、その十老子の言いなりになるよう育てられたのだ」
「じゃあ、トップダウンは、無理だってことか」
「そうだけど、そうでもない。敵に水を送るのは癪だが、敵として歯ごたえが無いのも嫌だから言うと、報告を詳細に聞いたところによると、皇帝は、聡明ではないかと思われる。十老子の性で世間知らずで友達もいない。だから、それを打破しようとしている節がある。キビトが、皇帝の友達になってやるか?」
「敵だぞ」
「そうだったな。ただ、さっきのトップダウンの案はいい。皇帝は、自分の無力さを知るだろう。体験させてやれ」
「お前ら、主従揃っておれをこき使う気だろ」
「あたりまえだ、1カ月の苦役はきつかった。だけど、つるんはうまかったな」
「そうだ、ウラさんに頼まれた。つるんの乾麺だ。お前のところは、大きな穀倉地帯があるんだろ。うちみたいに食い物がないところにせびるなよ」
「そうだけど、乾麺は、わが国にはないんだ。乾麺など作らなくても、ここは、温暖だからな。冬の保存食などいらないだろ。これを待っていたんだ。本当は、シミさんに話していたことだったんだが。旨いし、飢饉対策にもなる」
「ウラさんは、シミさんの妹だ。シミさんたちは、今、毛長牛を追ってツンドラ地帯に入っている。やっと、おれたちも牛を飼える。そうだ、毛長牛を一頭やろう。おれの手土産だ。ザインを借りるからな」
そう言って、デーンと毛長牛を出してやった。
「これが!つるんとの相性抜群なんだろ」
「肉つるんは最高だった」
そんなことを話していたら、城中で騒ぎが勃発。やっと、防空結界が、消されたことに気づいたようだった。
「すまん、長居をした」
「こっちこそ茶も出さないですまん。次は、結界をすり抜けて来いよ。こっちは、それを見破る予定だけどな」
「アハハ」
ちょっと考えさせられる話を聞いてしまった。虚ろな王か。悪しき王より国が荒れる。ペイ村のおっさんを思い出して、民が可哀相だと思った。




