戦の準備
この後、戦議になって空気が変わった。どうやらみんなは、おれを戦に出したくないらしい。王様は、でーんと後ろで座っていろと言い出した。だけどここは、まだ、国になっていない。おれは、自分の戦力を誇張じゃなく話した。広範囲攻撃は火系に限る。一本目は、自分で没にしたけど、2本目はいい線いっていたと思うんだ。
火系の広範囲魔法に、溶岩弾というのがある。おれがそれをやると、溶岩が、雨あられのように降るのだ。敵の先頭集団を壊滅したうえで足止めもできる。当日これやれば、岩壁と同じ効果じゃないか。だが、自分で考えといて却下だ。溶岩後の火山岩から畑に起こすのは、手間が掛かりすぎる。牛を飼うのだ。最低でも草原ぐらいまでは、砂漠を自然回復させたい。
次に考えたのが、火砕流だ。実はこれ、火山灰のように見えて水を使って爆発させる。火、土、水の合成魔法だ。これだと、ミネラルたっぷり。自然が戻るし、敵も一挙に殲滅できる。だが、これも却下された。魔物たちは、優しいし、独立心が高い。これだと何万も大虐殺できてしまう。それでは、自分たちで開拓村を守ったことにならない。死をいとわないで、自分のテリトリーを守る。これが、国の礎になるのだと言う。
「そんな魔法は、20万の軍隊が来たときに使え」
「人類を敵に回したいのか」
魔王コースまっしぐらな提案だったようだ。
そこで、第三案。おれとハイオークの王コドシで、北のツンドラ地帯に行って、毛長牛を30頭ばかし狩ってくる。今回、食葬はしない。代わりに、牛をささげて、それをみんなで食べる。これは、BSEという病気対策にもなる。それと、おれに遠慮して、倒した敵も食べない気でいる。なおさら、戦時中は、牛を大目に供給することになる。
この話をして、やっと、おれも今度の戦いに参加していいことになった。
だけどやっぱりおれは、何となく戦議から外され気味になっている。仕方ないので、翌日は、塩湖の荒野側に、がつがつ練習用の岩板を作ったり、いつものように牧草地を拡張して過ごした。
それからしばらくは、岩板を予定地に作っていて戦議にあまり出ていなかったので、偶にはと思って出て見たら、いつの間にか他国のゼインが、将軍になっていた。
「お前、秋口には、国に帰れるだろう。わざわざ、他国の戦争に命を張ることはない」
「それは、そうだが、シイナ国とは、いずれ戦う。ここで、その体験をするのは、悪くないと思うんだ。それに、この献策は、オレが出した。最後までやってみたい。だから、ハイライン王子に、事情を話して、もう少しここに居させてくれと言ってきてくれ」
捕虜のくせに、おれを伝書鳩のように使う。
「みんなもそれでいいのか?」
「ぶひっ、ゼインで、ずっと戦闘訓練をしている」
「バウ、我々もだ」
「そう腐るな。お前は好きに動いていい」
なんだろう、この疎外感。
「分かったよ。王子に伝言だな」
「それから追加注文だ。岩板と岩板の間に、自分たちの方への倒壊防止用の補助岩板のブロックを設置してくれ。岩板が砂に埋もれても目印になる」
人使いの荒い将軍様だ。
「わかった。やっとくよ」
それでも、暫く戦議を聞いていると。厳しい戦になると真剣な話が続く。そこで、おれも一案考えて出した。
「考えたんだが、おれが皇帝を岩板の前面に連れて行って、直接戦うのを止めさせるというのはどうだ。これこそ、トップダウンだろ」
みんな、あからさまに引いていた。ゼインは、呆れたような顔をしていたが、面白いからやってみろと言ってくれた。
「キビトが、皇帝を連れてくること自体疑わないが、戦場で、皇帝の声なんか届くのか?」
「前、鉱山砦で、声の拡声を使っただろ。皇帝の声もできる」
「やるのはいいが・・」
「そうだな。バウ」
「おれたちが言うのも何だが、皇帝を守ってやれよ」
ハルクのボイまで否定的。
「なんだよ。トップの言うことを聞かないってことか?」
「やってみればわかる」
「皇帝にとってもいい体験だしな」
「やっただけの価値はある」
みんなダメだとは言わないんだ。絶対やってやる。
今回は、この戦争の準備の性で、毛長牛をツンドラ地帯から連れて来ようという話が小規模化してしまった。ツンドラ地帯には、ハルク族のカーンとザイ一家が、向かっている。だから、おれは、ちょっとだけ暇になったのだ。こんなことは、この世界に来て今まで一度もなかったことだ。戦の演習に参加しようとすると断られた。それで、女たちのところに行ったのだが、そこは、本当に役立たずなので、邪魔者扱い。
くそー、ぐれてやると思いつつ、ハイライン王子のところにゼインの伝言を届けに行った。そこで意外な話を聞いた。




