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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
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ゼイン将軍

 キーーーーーーン


 空から、リリーがいるハイオークの家を見ると明かりがついている。ウラと約束したリリーのお父さんとお兄さんをここに連れてくることが出来なかった。眠いけど、事情を話すしかないだろうなと、ハイオークの警備頭の家を訪問した。ここに、ウラも。コドシもバウアもいた。子供が寝ているので、講堂に移動して事情を話すことになった。講堂と言っても、吟遊詩人用のなので扉や窓がない。話が周りに駄々洩れだが仕方ない。思った通り何人か起きてきて、講堂の外から、中を覗いている。その中で話になった。


 講堂に向かう途中リリーは沈んでいた。おれは、リリーのお父さんの無表情が少しうつったみたいで、最初に無事だとちゃんと話さなかったのが原因だ。


「キビト、それで、結局どうなったんだい」

 講堂に入ったら真っ先に、ウラが、リリーを気遣って聞いてきた。


「すみません、リリーのお父さんの合理主義が、ういっちゃったかな。二人共無事です。セイの森にも行ったんですよ。これお土産。エルフ豆とそれから作る調味料の酵母。リリーのお母さんに貰ったんです。リリーに作り方教えてもらって作ってくださいよ。すっごく美味かったです」


「よかった、無事なんだね」


「はいこれ」

 そう言ってエルフ豆と酵母を渡した。


 そこからは、ダークエルフも捕まっていたこと。彼女らをリリーのお兄さんが送ることになったこと。エルフにシイナ国との内通者がいることが判明したこと。そのために、リリーのお父さんが、セイの森を閉める事になったため、森に残ったことを話した。リリーは、二人が無事だったことを泣いて喜んだ。


 問題は、やっぱり、シイナ国の私兵が、ここに攻めてくるだろうことだ。


 うちは、隠し事をしない。講堂の外で聞いている奴らも肝が据わっている。すべての話が終わるまで、ここを飛び出して大変だと騒ぐものは一人もいなかった。


「リリーに追手が掛かっていたんだ。この開拓村が、敵に発見された可能性はとても高い。向こうの感覚で言う、秋の収穫時期に攻めてくるのは、間違いないと思う」


「バウ、そうだろうな」

「ぶひっ、なーに、返り討ちですわい」

「欲深い商人の国は、いやだねぇ」


「リリーの話が正しければ、敵は3万。これからは、男半分が、戦闘訓練。それを3日交替でしよう。いつもの通り、1週間に1日は休みだ」


 1週間に一度休むようになったのは最近だ。いつものようにと言っているのは気休め。


「いつものことです」

「ちゃんと休めよ」

「しかたないね」


「あの、私は?」


「ウラさんに、ソイの作り方を伝授してくれよ。その前にエルフ豆を大量生産するけどね。お父さんたちが、ここに来るまでのんびりしなよ」

「そうだよ。砂漠で死ぬ目に遭ったんだから」

「ぶひっ、我々もそうだったのだぞ。暫く休ませてやりたいが、動けるのなら、働いてくれ。それがここの決まりだ」


 ここの決まりは、働かざるもの食うべからず。


「ソイの作り方の伝授だから苦役にはならないさ。のんびり女たちとやってくれ。ウラさんお願いします」

「あいよ」


「それより悪いが、ゼインを呼んでもらえないか。あんなのでも、将軍だ。ハイライン王子に、ちゃんとやれって言われてから真面目になっただろ。他国の人間だ。戦闘に参加させなくていいが、作戦立案と訓練をしてもらおう。あいつにとっても、こっちの方が本業で嬉しいだろ」


 バウアが、クイッと頭を、外で覗いているハイオークの一人に振ると、彼がゼインを起こしに向かった。


 ゼインは、夜中に起こされてとても不機嫌だったが、戦争になりそうな話を聞いて目をギラギラさせだした。不穏当な奴だが、本業だから仕方ない。


「お前らバカか。こっちは男が1200。戦いに出れるのはせいぜい1000だぞ。それで3万を迎え撃つ?バカだろお前ら」


「女も有志を募るさ。それで作戦は、ないのか」


「キビトが死ぬきで働いたら無いこともない」


「おれ?」


「今まで、散々オレをこき使ったんだ。その分働け」


「お前、大した仕事をしていないだろ。いいから作戦を聞かせてくれ」



「敵の進行ルートは予想できる。なんせ、皇帝が住む首都、鳳籠ほうろうは、ここの真南だ。それをたどるとシイナ国最北端のペイ村に当たる。ここで休憩してゴル砂漠に入るだろう。どうだ、侵攻ルートが確定できるだろ」


「さっき見て来たよ。ペイ村っていうのか。あそこは、お世辞にも豊かな村じゃなかった。そこで補給は無理だな。でも、都に道が通じている。そこがゴル砂漠に入る起点になると思う」


「おれたちは、向こうがゴル砂漠を渡って疲弊したところを攻める。砂漠で正面衝突したら、こっちが負ける。数が違い過ぎるからな。そこでだ、砂漠にこっちが有利になる地形を出現させる。巨大で永遠と続く壁を砂漠に出現させて、真ん中だけ小さい通り道を開けて、こちらに攻めてくる相手を限定させるんだ。少ない人数しか通れないのなら、こちらに分がある」


「巨大で永遠と続く壁?岩壁のことか?」

「おお、農水路に使っている」


「キビトには、敵のルート線上に岩板を永遠と作ってもらう。敵が来たらハイオークたちにその岩板をどんでん返ししてもらう。いきなり砂漠に壁が出現することになる」


「ちょっと待て、それってどのぐらいの長さだ」


「さあ、1Kmもいらないんじゃないか。水路より短いだろ」


「いやいや、高さがいるだろ。それに、そんなの何枚いるんだ。だいたいハイオークの男は11人だぞ。一度に岩板をそんなに土んでん返し出来ない」


「そこは、ハイオークの女にもやってもらう。壁になるんだ。こっち側は、安全に決まってる」


「まいったな」

「ぶひっ、やりましょう」


「最初はそれでいいが、結局壁を回りこまれるのではないか?」


「コドシ様の言うことは、もっともです」


 こいつ、コドシには敬語な。戦神の様な白くて巨大な狼に敬意を表しているそうだ。


「その代わり、本陣が手薄になる。我々は、壁をまた倒すことが出来る。簡単に中央突破して、敵を落とせます」


「グワン、なるほど。この作戦、いいのではないか。キビト殿」


 おれをこき使う作戦じゃないか

「仕方ない。やろう」


 ゼインが、ものすごく嬉しそうな顔をした。


 ここまで聞いて、外のオークたちが各方面の家に散らばった。ハイオークの女が、この作戦のかなめになったからだ。ハイオークの女の大人は35人。男たちは途中から戦闘に参加してもらわないと困る。壁起こし作戦は、彼女たち頼みの作戦になってしまった。彼女たちには、ワーグに乗れるようになってもらって、敵が攻めてきた隊列の中央から、どんどん壁を起こしてもらわないといけない。

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