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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
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シイナ国皇帝、ヒデラ・フビダビ

 皇帝とは、お飾りだ。皇帝という椅子に座っているだけ。綺麗な女をあてがわれ、自分がやりたいことをやっているように錯覚させられる。結局、十老子の思いのまま。子供のころからずっとそうだった。それで、今度は何だ?めんどくさい。


「皇帝陛下に置かれましては、心痛のことと存じます。まさか、後宮に入るはずの女を取り逃がすなど、有ってはならないことです。ましてや、その関係者まで。今宵は、牢番と、その関係者の首にて何卒、お気をお鎮めください」


 わぁ、なんで、生首なんか持ってくるんだ。

「良きに計らえ。それよりマグダラはまだ来ぬか。今回は、北の異民族と商いをしているのだろ。目新しい品物の話が聞きたい」


「まだ帰都しておりません。私は、あの者を好きません。存外な目を我々を見る」


 そこがいいんじゃないか。マグダラの方が視野が広い。

「珍しい物を持ってくる者が他にいなからマグダラを待っておるのだ」



 十老子は、皇帝には困ったものだという顔をする。女に興味がない。酒もたしなむ程度。面白みのない皇帝だ。これでは、女や贅沢に篭絡させて、政治に無関心な皇帝にならないではないか。唯一の趣味が、国の外の珍しい品物の収集。それだけさせていれば、何の文句も言わない。生まれた時から贅沢をさせていると、贅沢というものが分からなくなる。本当に面白みのない皇帝だ。十老子は、内心、この皇帝に退位してもらいたいとさえ思っている。子供のころはよかったが、たまに聡明な目見られている気がする。


「エルフと話がしたいとおっしゃったのは、ヒデラ様でございます。今しばらくお待ちください」


「おお、楽しみにしておるぞ」



 皇帝ヒデラは、どれほど自分が人の害悪になっているかなど知らない。今夜もそうだ。牢番は、仕事を怠っていなかった。現に、エルフが逃げたのは、天上側の窓。牢屋の通路から脱走したわけではない。しかし本人にしてみれば、気ままに、エルフと話したいと言っただけだった。十老子は、それを、皇帝に女を与える好機と受け取った。そのせいで軍隊が動き、エルフの森は、一時、人の軍隊の進行を許してしまった。今は、内通者でさえ息をひそめなければいけない厳戒態勢。森に入ることが出来なくなった。そこで、次にダークエルフの森で、女と子供をさらって来た。それさえも、今回逃げられた。この話は皇帝にする前だったので、十老子たちは口をつぐんだ。まだ、捨てるには惜しい駒だと思ったのだろう。ダークエルフなど、また、捕まえてくればいい。



 キビトが、この状況を知っていたら、首謀者もそうだが、皇帝も許さないだろう。知らないでは済まされない。それが責任者だと思っているからだ。



 皇帝ヒデラ・フビダビには、友がいない。それは、十老子がそうさせないからだ。ただ、金で、珍しい物を買う時だけは、長々と話ができる。ほとんどの謁見者は、自分に対してのご機嫌伺いで、貢物を持ってくるだけだ。それにも珍しいものはあるが、ただ受け取るだけ。それに比べて、自分で買い物できるのは楽しい。十老子が見守る中というのは、面白くないが、それでも自分の時間だ。

 エルフと話がしたいというのも、この城の人間とは、違う話が聞けると思ったからだ。そんな簡単なこともさせてもらえない。もっともな理由をつけて、エルフに会わせない。その上、軍隊が動き回っていると言う。この軍は、我の私兵ではないのか?子供のころからの疑問に答えてくれる者はいない。



 十老子は、何事も無ければ、謁見の勤めを終えて必ず夕方揃って話をする。何もなければ、そこで解散だが、今回は、案件が多い。


「やっと戻って来たか。それで、皇帝様は、機嫌を直されたか?」

「いつも通り、無機質だったな」

「それでいい。たまに聡明な目で我々見るときはぞっとする」

「それで、例のエルフの女はどうなった」

「ゴル砂漠に逃げた。それを追っていて面白いものを見つけた。オークが畑を耕していた。それも、この秋豊作になりそうなのだ」

「オークのくせに」

「どれぐらいの規模だ?」

「2千は、いるそうだ。どうせ、エルフの女を追うんだ。ついでに、魔物を狩ってしまうのも一興ではないか」

「それで戦利品は、どうする」

「いつもの通り分ければいい」


 薄暗い中で陰謀が話し合われる。


「貴様ら、我らに楯突いたエルフ共のことを忘れているぞ」

「あの森には入れん。内通者も、為りをひそめるしかないと言っていた」

「奴ら、使えんな」

「どうかな、家族も、この城にいる。裏切れんだろ」

「だか裏切ったときは!」

「簡単なことだ」

「暗殺は、いつものカウジ族に任せればいい」


 カウジ族は山岳民族。ここを占領するのに、いつもの10倍の兵が必要だった。今は、人質を盾に飼いならしている。


「それで、エルフの森は、焼き払うか」

「メイジ部隊ならすぐだ」

「せっかくエルフの手ごまがあるのだ。まあ、まて・・、・・・」


 十老子は、現場に出ない。安全な皇帝陵の中で、策謀を巡らせるばかり。実行犯は常に、彼らに弱みや人質を握られた者たち。使い捨ての駒だ。皇帝の私兵は、彼らの手の中。商売の国シイナだが、皇帝陵の中は、商才ではなく陰謀によって動いていた。

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