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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
良き隣人と虚ろな商人の王
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賢い人って

 リリーのお父さんとお兄さんが捕まっているのは地下の牢屋。さっきは、天井側にある空気取りの格子越しに話をした。この格子は狭すぎる。人が通れるような大きさではない。周りは兵士で一杯だし、確かに穏便に逃げれるような状態ではない。


 おれは、自分をステルス化して、また、外の格子から話しかけた。


「二人共、戻って来たぞ。すまん、凄い騒ぎになってしまった。だが、大丈夫だ、高度を上げてしまえば追ってこれない」


「君は、我々のことを諦めていなかったのかね」

「それで、ダークエルフの様子は、どうでした」


「泣いて喜んでいた。それにしても、待遇が違い過ぎるな。ダークエルフの部屋は、何もなかったが綺麗な部屋だった」


「喜んでいたんだ。良かった」

「礼を言う。彼女らは、性奴隷にされそうだったのだ。間一髪で助かった。リリーは、ダークエルフと一緒で感情の出やすいエルフでね。それで、皇帝に狙われた」


「それが、ちょっと問題がある。南の遠い森から来たそうなんだが、帰り道が分からないと言っていた。安全な道は分かるか?。ここを出たら教えてやってくれ」


「それはいいが、どうやってここから出る?」

「地下牢の入り口は、もう固められていると思います」


「こうやって?」

 そう言って、格子部分を砂化した。そして二人をふよふよと浮かせて見せた。


「じゃあ行こう、しっかりつかまって」


「待ちなさい。最初だけでも、見つからないようにしよう」

「人払いの結界は、得意なんです」


 二人が、人払いの魔法を詠唱しだした。本当は広範囲にかける魔法。限定的なら、きつく人の気持ちをそらすことが出来る。周りに人がいなくなった。おれなんかは、ステルスでいいと思うんだけど、これで時間が稼げるのは間違いない。


「早くおれにつかまってくれ。じゃあ、ビックリしないでくれ」


 おれは、垂直に2000メートル上空まで一気に上昇した。地上の明りより、月の明かりの方が明るい。寡黙な感じで、驚くのを我慢しているエルフたちの雰囲気を見て、やっぱり頑固だなと思った。


「こんなに高く上昇する必要が有るのかね」

「驚きました」


 本当に驚いた顔をしてよ。


「今日の空は澄み渡っている。夜目のきく能力者対策だよ」


「ならしかたない。それにしても、空の旅は、あまりしたくないものだね」


 あの無表情で、驚いていたんだ。ダークエルフ族の方が好きかも。


「じゃあ行こう。ダークエルフには、都の外にある雑木林に、隠れてもらっている。ちょっと話をしてもらえないか」


 二人共、今は、あまり話をしたくないらしい。やっぱりこの高度は、新鮮な体験だったということだろう。頷いて答えてくれた。



 雑木林に二人を降ろすと、ヘロヘロなくせにシャンとした態度を取ろうと踏ん張っていた。そこに、奥の陰からダークエルフたちが現れた。


「平和と栄光が有らんことを」


「平和と栄光が有らんことを」


 代表二人が、右手を挙げてエルフの挨拶をする。こういう知的レベルが高い人が、人々を引っ張ってくれるといいのに、なぜか隠遁生活をする。


「セイの森、スメルだ」


「ロコの森。マライアです。スメル様のお名前は、ロコの森まで響いています。なぜ人の城などに、捕らわれていたのですか」


 おれは、チョンチョンと、他のダークエルフの肩をたたいて聞いた。

「スメルさんって、エルフの中でも偉い人?」

「知らないんですか。挨拶が終わったら、説明して差し上げます」

「たのむ」


「娘のリリーを助けるためだ。リリーは、我々の希望だ。彼女は、感情を豊かに持っている」

「ダークエルフではないのにですか」

「我々は一つになれる」

「分かりました。我々も、リリー様を護衛いたします。それで、ロコの森に帰るには、どうすればいいのでしょうか。我々は、目立ちすぎます。また、シイナ国の兵に捕まってしまうでしょう。次にそんなことになったら、今度は、我らの尊厳を守るために、自害します」


 穏やかでない話だ。これには、スメルも、ぴくッとしていた。もっと渋い顔で、そんなことしちゃだめだとか怒ればいいのに。


「ここより西に行くと、我々のセイの森に通ずる山がある。山を二つほど入って、南に向かうと良い。シャイア、案内して差し上げなさい」

「スメルの息子シャイアです。大人が4人いれば、子供を交代で背負えます。行きましょう」


「あなた、人ですよね。助けてくれてありがとうございます。お名前は?」


「キビトだ。ここより北に向かってゴル砂漠を超えると草原になる。その境で、オークたちと農村をやってる」


「オークがそんなことを」


「みんなで、やってる」


「そこに娘がいるらしい。娘の依頼で、彼が助けに来てくれた」

「それで、私たちも‥。失礼しました。キビト様、その面白そうな農村をぜひ見に行きたいです」


「いつでも歓迎する。と言っても、しばらくしたら。シイナ国皇帝と戦争になりそうだけどね。そこの私兵が、リリーを追ってくるらしい。迎え撃つから、ちょっと置いてから来たほうがいいぞ」


「いいのか」


「いずれ魔物の農村だと言って侵攻してくるさ。スメルさんたちは、リリーを連れてツンドラの大森林を目指せばいい。あまり勧められないけどね。今は夏だからいいけど、今から行くんだろ。冬の準備が間に合わないんじゃないかな。その時は、相談しに来てくれ」


「それじゃあ行きましょう」

「キビトさんごめんなさい。スメルさまのことは、ご本人に、聞いてください」


 慌ただしいが仕方ないか。

「分かった、本人に聞くよ」


 みんなに、手を振って別れた。


「我々も行こうか。エルフの森を見たいのだろ」

「そうなんだが、さっきは言わなかったが、あの皇帝の城には、エルフがあと9人いる。観察したところ皇帝に組しているエルフだと思う。それが3人、そして、その家族が6人だ。そいつらと話したいか?」

「・・・・・・・・・、ロコの森が、シイナ軍に侵攻されるわけだ。いや、理由は分かる。私が、ダークエルフを受け入れると言ったからだ。我々は、種族の成長の過程で、論理を大切にするために、感情に振り回されない知恵を得た。ところが、ダークエルフは、感情が必要だという。我々の溝は、何千年も埋まっていない。ところが、ロコの森一番の知恵者だと言われた私の子供は、感情を持って生まれた。私は悟ったよ。リリーは、私の愛情に反応してくれたのだ。それで、今の伝統に差しさわりがない程度の感情を取り戻そうという運動を始めた。その結果が、これなのだろう」

「難しいんだな。それと森が痩せてきているのは関係ないよな」

「森が痩せたのも彼らは、私の性にしたいらしい。決めたよ、みんなで話し合って、森を閉じる。このままでは、人に荒らされるだけだ。急ぎだ、連れて行ってくれ」

「そうするよ。行先を指さしてくれればいい」

「一度、シャインと合流してくれ。事情を話したい」


 賢い人って、条件が揃うと答えが早いんだよな。肉万頭3つ分より働かされそうなんだが。


 おれの心配をよそに、話がどんどん進んでいく。

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