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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
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サバイバル

 どこまでも続く砂漠。砂漠と言ってもさらさらしていない。赤茶けた土が砂になった様な埃っぽい砂漠だ。


 砂漠なのにあんまり暑くないんだ。


 家に帰った夕方。クラウドを切ったらこうなった。夕日に煙る砂漠には、誰一人として立ち入った後がない。


 そして夜。どんどん寒くなる。


 死ぬ。寒くて死ぬ。


 砂に埋もれて寝た。風がない深々とした夜。星空が、こんなにきれいだとは思わなかった。砂の中は、まだ暖かく、自分の体温と相まって、寒くならない。そのまま眠った。しかし、さすがに明け方は冷える。じっとしているのも何なので、北極星に向かって歩くことにした。

 もし、ここが、ファンタジーLDの世界なのなら、南は、荒れ地。北は草原だ。荒れ地には、人の町もあるが、モンスターもたくさんいる。それに比べて、草原は安全で、運よくオアシスを見つけると湧き水の湖があり、周りは、巨大な森になっている。そこなら、食べ物もあるだろう。


 寒い、腹減った。


 しばらくして、太陽が昇り、一息つく。星々は見えなくなったが。太陽は東から登る。だから、だいたい北がどっちかわかるので、こんな砂漠に居られるかと歩きだした。


 ずっと歩いていたが、今度は、うだるような暑さ。


 死ぬ。暑くて死ぬ。


 たまたま見つけた大岩の日陰に入って一息つく。これからは、夜から朝方にかけて歩き、昼間は、こうして日陰で過ごすしかないと思った。


 どこまでも続く、雲一つない青空。赤茶けた砂漠。偶に北から吹いてくる風が涼しいので、やっぱりここは、草原と荒野に囲まれたゴル砂漠だと思う。それも草原寄り。頑張って北を目指すしかない。


 腹減った。喉乾いた。


 昨日から何も食べていない。


 北をじっと見ていると、蜃気楼が見える。それも塩の湖、死海が白い砂漠の中に陽炎の様に漂っていた。


 もしかしたらと、夕方になって歩き出した。空腹よりも、喉が、乾ら乾らだ。そっちで先に死ぬ。


 死海の水は塩辛くて飲めないが、上流に行けば、その元となる川があるはずだ。それは飲める。塩も、持って行けば、砂漠での生存率が上がる。塩と水。それは、人が生きるための最低限の糧。


 死にたくない一心で、その、朝見えていた蜃気楼を追った。死海の水が干上がって空に雲になれない水分だまりを作り、そこに死海を映しているのだと思う。


 ああ、有った。白い湖だ


 おれは、頭でわかっているはずなのに、その湖の水を飲んで咳き込んでしまった。


 ゴホッ、ゴホッ。しょっぱすぎる


 塩分濃度の濃い水は、喉を余計にカラカラにする。生きた心地がしなかった。


 この水を飲んだら死ぬ。

 おれは、何とか死海の水を喉に通さないで吐き出した。しかし、それだけで、目が良く見えるようになった気がする。湖の端の白い砂のような塩をポケットに入れて。湖に沿って歩き出した。


 必ずここに注ぎ込まれている川があるはずだ。その上流には、オアシスも。


 死海は、思った通り、あまり大きく無い湖だった。塩湖と言っていいだろう。そして、その塩湖に注ぎ込まれている川を見つけて安堵した。少し上流に行っただけで、水が飲めたからだ。


 上流に行くほど広くなる川幅。大半の水が地下水になっているのではないだろうか。そして、塩湖に注ぎ込まれた水は、蒸発している。


 川を遡上していたら、また、夜になった。夜は冷えるし、腹が減って、めまいがする。でも、この川をたどれば、オアシスがあり、その湧き水の湖を中心とした森があるはずだ。そこには、食べ物も。そう思うと、自然と体が動いた。


 1日水を飲まないだけで死にそうになった。今心配しているのは食べ物だ。2日も、何も食べていない。


 と、とにかく砂漠を抜けたい。


 夜中じゅう歩いて草原にたどり着いたときは、涙が出た。川という道しるべ。いくら草原がうねっていても、オアシスを見失わない。負けないぞと思って、丘の天辺にたどり着いた。そこから見る景色は、ただただ、草原がづっと続くだけ。森などどこにもない。川という確信が無かったら、心が折れていたことだろう。


 草原なら、昼間でも歩ける。森まで行くんだ。


 3日目


 森まで行けば食べ物がある。それだけを心の支えに、川を遡上した。


 草原に入って、おれは、初めて、自分の置かれた環境を吟味できるようになった。



 今見ている風景は、ファンタジーLDでよく見る草原の風景だ。いつもと違うのは、風が心地いいのと、鼻孔をくすぐる草原の香。なんとなく開放的な空。ニューロリンクって5感も感じさせてくれるのか?これが第二世代か。


「あっ、分かった。第三世代って、第六感が使える人の事だ」

 うおーーー、おれ、すげえ。これで、宮迫先生から、更なる話が聞ける。

「それで、これ、どうやったら抜けるんだ?」


 ちょっと記憶が定かでないけど、確かクラウドを切ったはずだよね。だけど、ファンタジーLGにログインしているみたいな草原。


 ここが、ファンタジーLDなら、ゲーム用のコンソールであるライトボードが出るはずだ。ここに来て、初めて試した。なんと、目の前に、ファンタジーLDのライトボードが、出てきた。ヘルプも読める。


 待てよ、それって当たり前か。これらのアイテムは、脳内メモリにあるものだ。ハードのニューロチップのメモリに入っているやつ。それで、色々やっててクラウドのコンソールを見つけた。


 んーーーー


 クラウドと繋がっていないや。やっぱり、自分で切ってた。こういうのをマニュアル入力って言うのかな。どの道、繋がらない。


 あきらめて、草原を見回した。この、なだらかな起伏は、夢で見た。川も流れている。あっちに行くとオアシスの森が有る。でも、白いワーグがいたような。


 ワーグは、魔物と言っても狩猟犬タイプ。よっぽど飢えていない限り人を襲わない。森にさえ入ってしまえば、逆に、安全が確保されたようなものだ。



 砂漠を放浪して3日目の夕方。大きな森に出くわした。中心に、大きな泉がある草原のオアシスだ。


 ワーグが森の端にいて、おれを一瞥した。ぷいっと目をそらして森の中に入って行く。


 ワーグと言うのは、緑の巨人であるハルク族の狩猟犬の事だ。時には、巨体のハルクを乗せて走るワーグもいる。しかし統率者がいないと、自分たちの食い扶持だけの狩りする危険性の少ない生き物。飼い主の緑の巨人に命令されない限り、襲ってこない。捕食対象でも、食料とする必要がない限り、自分からは襲ってこない。


 ハルク族は、エルフの原始人のような人達。容姿が緑の巨人ハルクみたいなので、ハルク族と呼んでいる。


 でも、これって、ファンタジーLDの設定だよな。


 そう思って、危険が無いかしばらく様子を見たのちに、森の中央に向かって歩き出した。できれば、ここで食料を探したい。危険が低いのなら、ワーグに守られて、しばらくここに滞在したいとさえ思っている。



 これがゲームの中だったら、だれが襲ってきても怖くないけどね。なんせおれは、ニューロリンクのおかげで、レベル120。最高レベルが100しかない、この世界で言ったら、限界を超えた存在。更に、特殊なアイテムとか魔法武器武具とか、色々ズルするとレベル126換算。向かうところ敵なしのプレーヤーなのだ。



 森に入ってしばらく歩きながら、薬草を摘んで歩いた。おれのサブ職業は、錬金術師。錬金術師は、薬師と同じで、薬の調合もやる。だから野草の知識もあるのだ。そうやって薬草を摘みながら歩いていて、ワーグに囲まれていることに気づいた。ガサガサという音が四方から聞こえる。しかし相当離れて囲んでいるし、襲ってくる気配がないので、ただの警戒だと思う。


 しばらく歩くと、視界が開けて湖を望むことが出来た。この森のオアシスの水は、とても正常に思える。飲んでみて美味しいとさえ感じた。ここで、本当に初めて落ち着いた。そこで、さっき摘んだ薬草を食べることにした。


 うぇ、苦い。不味いけど食べられる。


 おれは、苦い顔をしたが、それでも食べるのを止めなかった。不味いけど旨い。涙が止まらない。


 ゴホッ、ゴホッ。生きてる


 それが、湖に映った星空を見ながら、薬草を食べた感想だった。湖では、パシャッと魚がはねていた。ああ、たんぱく源。魚がそう見えた。


 昨日から寝ていない。おれは、ここで、気を失った。

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