敵国シイナ国とは欲深い商人の国
キーーーーーーーーーン
2000メートル上空から、皇帝陵を目指す。まさか、こんなに早く戦争が起きそうになるなんて思っていなかったので、戦闘訓練なんかまったくしていない。だいたい、まだ生きるので精いっぱいだ。情報収集が必要だな。
こっちが攻めるわけじゃないけど、人の生活をリサーチしながら行くか。
砂漠を抜けると、ぽつぽつ村が見えるようになった。畑は、枯れていて、これじゃあ生きるのにギリギリだろうなと思う。
まだ、夕方には程遠い。村に向かって帰っている農夫を見つけた。
「こんちわ」
ビクッ!
「お前さん、どっから現れた」
「そこの雑木林ですよ。皇帝様が住む都に行ってみたいんですがどっちですかね」
「ん、そりゃ、まっすく南だけども、遠いぞ」
最低限の情報は聞けたので、他国の旅人だと言って、シイナ国の事情を村に向かいながら世間話した。
分かったことは、このシイナ国は、おれが思っているような国の態を成していないということだ。皇帝が言う国とは、塀で囲まれた都市のことで、その都市が、広い荒野の中にポツンぽつんとある。その都市と都市を結ぶ商業コミューンが国で、それ以外は、作物を都市で売らせてもらっている非国民。結局その都市市場に入るためにお金が必要で、それを税金として徴税官が徴税する。その都に、この農夫が行かなくても、間接的に行っている奴から物を買っているのだから幾ばくか払え。だから税金を徴収する。そんなアバウトなことをしている。
この、徴税官というのが曲者で、都に納める金以上の税を取って私腹を肥やしているそうだ。地方にいる軍とは、警察のようなものではなく、農民を抑え込むような野党の親玉の様な軍。愛国心とか、国民を守るとか、そう言ったものではなかった。
そこまで聞いて疑問がわいた。
「親父さん、博学だね。それだけ知ってて、なんで国に抵抗しないんだ」
「ワッシャあ、口伝は達者なんだが、商業文字が書けん。だから都にいけん。村にたまに来る行商人の話を全部覚えとったら、これぐらいわかる」
この人、めちゃめちゃ頭がいいんじゃないか。T大理の人に入試のコツを聞いたら、そんなの授業で聞けばわかる。なんて言われそうな感じの人だ。
「なんで、商業文字を知らないんだ」
「そりゃ、みんなそんなことできたら、都の奴が偉そうに出来んだろ。だから、女は、もっとひどい。文字を覚えること自体が罪だ。わしら下民は、文字なんぞ知らなくていいんだと」
識字自体がとても困難な商業文字。それを覚えようと思ったら、相当の時間をかけて先生を雇って覚えるしかない。そんな時間とお金があるものにしか文字が覚えられない世界。文字が読み書きできることで、選民しているのが分かる。
文字なんか50音のひらがな覚えて、ルビさえ振ってもらえば、子供でもすぐに使えるはずなんだが。
おかしな世界だ。
「ありがとう。今度、交易品を持ってくるよ。そうなったら、都と付き合わなくて済むだろ」
「無茶言うでねえ。そんなことしたら徴税官が。許さねえだ」
「そいつらを、おれが追い出したら、付き合ってくれるか。税金大して取らないぞ」
「やっぱり取るんだな」
「その代わり、おれらの文字を教える。女にもだ。畑も、こんな枯れた畑じゃないように治水工事をする。水を川から引っ張ってくる水路を作るってことな。そのためには、専任の人夫が必要だろ。税金がいる。その代わり畑が豊かになる。これが税金の使い道だ」
「本当だか」
「すぐには無理だけど、交易品持ってくるから。またな」
そう言って、ちょっと遅くなっってしまったから、その場から飛び上がった。農夫は、腰を抜かしておれを見送った。




