エルフの先祖ウラの依頼
おれは、ウラさんに急ぎだと言われて、ハイオークの、今日の見回りリーダーの家にお邪魔した。おれもそうだけど、この村の住人は、殆ど砂漠をボロボロになって渡ってきた種族だ。最近来た鬼人族もそうだが、現在、砂漠の向こうの荒野は、生き難いことになっている。こっちは、約3000の魔物を生かすので精一杯なので、それどころじゃないが、今日行き倒れで来たというエルフのことを気にはしていた。
「ウラさん、仕事を早く上がれたんですけど、なんすか」
「来たかい。今日は、肉万頭だよ。特別2個食べていいよ」
「嬉しいけど、なんか怖いな」
「悪いけど、もうひと働きしてもらいたいんだ。この娘の父親と兄さんを皇帝陵から救出しておくれ。その後、一族がどうするかは、リリーのお父さんに任せるんだ。いいね」
「皇帝陵って、荒野の?」
「父と兄は、私を逃がすために、わざと皇帝の罠にはまったんです。もう、生きていないかもしれませんが、それでも助けたいんです」
「この人は?」
「リリー、エルフだよ。私たちの進化系だね。普段は、感情を表に出さない種族なんだ。進化して、知能指数が信じられないぐらい上がっているんだけど、感情が希薄になって、森の中で、ひっそり暮らすのさ。私たちに感情をぶつけている時点で、普通じゃないんだよ。リリー、自分で話すんだ」
「私は、皇帝の私兵にさらわれたエルフです。皇帝は、私を犯そうとしましたが、風の守護があるため出来ません。そこで、私を森に返すと言って、父と兄を騙して、都に招集したのです。父と兄はそこで捕まりました。皇帝は、私の風の加護の秘密を聞き出そうとしたんです。父と兄は、それを利用して、私に接触。私を逃がしてくれました」
「ふー、良かった。くいっぱぐれじゃないんだ」
「よかない。それに森が痩せて来たから、エルフの存在が人に知れたんだ。森を閉ざして、何十年かは、誰も立ち入らないようにしたほうがいいねぇ。それで、逃げるのと同時に、別天地を探しに、ツンドラの大森林を目指してたってわけだよ。何とかならないかね」
「本当は父たちが、ツンドラ地帯を探索する予定だったんです。それなのに、私がこんなことになって。どうか、父と兄を助けてください。皇帝は、私に言うことを聞かせるために、捕虜として生かしていると思うんです」
「おれ、何回かツンドラ地帯に行ったことあるけど厳しいところだよ。今はいいけど、冬は食べ物がなくなるから、ドワーフたちは、ツンドラの森を捨てたんだ。ここの方がよっぽどいいって思うけどな。あいつらは、酒があれば、何処でもいいか」
「リリーもここに住むかい」
「そんなことをしたら、皇帝の私兵が私を追って来ます」
「私兵なんだろ。ならへっちゃらさ」
「皇帝の私兵は、3万です。それで、更に森が荒らされました」
「キビト、そりゃ不味いね」
「3万か、戦ったらうちも死人が出るな。男が1000しかいないんだ。作戦立てないとやばいな」
そんな、なんで作戦?
「そうだね。ワーグたちを呼んでこようか?コドシも戦いに賛成さね」
「お願いします。とにかく、リリーさんをかくまったら、最初は、私兵が来るだけなんだね」
「そうですけど、そんな迷惑は、かけられません」
「どうせ、ここが豊かになったら、魔物退治するとか勝手な名目をつけて、人族が侵略して来るって予想しているんだよ。荒野の兵数は、100万だけど、近隣との国境警備の関係で、自由に動けるのは、20万だって聞いた。あの国は一枚岩じゃないから、私欲でそんなのが、ここに来る理由はない。だから、2万ぐらいかなって話し合っていたんだよ。3万かー。あいつら、数で押して来るそうだ」
「それより、リリーのお父さんたちをここに連れて来ておくれ。それから、エルフの森も様子を見てもらいたいんだ。私からすりゃあ親戚だ。困っているなら助けたいだろ」
「それで、肉まんじゅう2個ですか」
「しょうがない3個出すよ」
「行きます!」
「リリー、今の話は冗談だから、聞き流しておくれよ。キビトの目が真剣なのには、目をつぶっておくれ」
「ハハッ、皇帝陵で、エルフの気を探せばいいんですね。いっぱい居たら話を聞いてみますね。じゃ、リリーさんは、よく休んで。おれも砂漠で行き倒れそうになったことあるけど、ウラさんの飯を食べれば元気になるから。ウラさん」
「任せときな」
キビトは、元気よくここを飛び出していった。
「ウラさん、あの人が、ここの王なんですよね。なんだかウラさんの方が強そう」
「なんだろうね。キビトは、美味しいご飯を作ってくれる女には、頭が上がらないんだよ。そんなの、ここの女は、全員そうだと思うけどねぇ。今日は、ここでゆっくり休みな。オークの王のバウワには、私が話しておくよ」
「キビトさんが王なのでは」
「なんていうかね。ここは、雑多な種族の集まりでね。それぞれの種族に代表がいるんだ。キビトは、言うなれば、王の王ってところね。そんな気しないけど。ここじゃあ、ただ一人の人さ」
キビトが、魔物の楽園にしようとしている国。ここに、まだ、名前は、ない。




